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スノードロップ
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宵と明が向かい合って話をしている。
『今日も雪、綺麗だね』
『相変わらずの景色なのに、君は見飽きないのか…』
『宵は私と見る景色が嫌い?』
『いや、そういうわけじゃないんたけど、その…たまには別の景色もいいんじゃないかと思っただけ』
ふたりは本当に寄り添うようにして旅を続けている。
宵はあまり冬が得意ではないこと、だからといって暑すぎるのもあまり好きになれないこと、色々な景色が見たいこと…そんな穏やかな日常が流れていく。
だが、ある日突然それは終わりを告げた。
『宵!』
『明…?矢傷ができてる。今何が、』
そこまで話したところで、宵は明が顔を歪めていることに気づく。
そしてそのまま、転がるように道を下っていった。
『やめろ人間。僕たちは何もしていない。気に入らないならここから出ていくから、それを撃たないでくれ』
彼の言葉は届いたはずなのに、それでも相手は攻撃の手を緩めない。
『明、伏せて』
『え…?』
そこに小刀のようなものが飛んできて、宵の体に突き刺さる。
『私たちは何も悪いことなんかしていないのに、どうしてここまでされないといけないの?第一、あなた誰なの?人間はいつも自分勝手。…赦せない』
『明、もういいから逃げ──』
『人間…消してやる』
それからすぐ黒煙がたちのぼり、あっという間にふたりの体を包んでいく。
明が持っていた光は失われ、宵は必死に話しかけている。
それでも止まらない炎は、どこまでも暗い色をしていた。
『八尋』
「ああ、ごめん。瑠璃たちは平気だった?」
『私は平気です。ですが、彼らはもう…』
見てみると、雪でできた体が溶けてきている。
それはもう時間がないことをさしていて、慌てて体をおこした。
「ごめん、すぐ薬を作るからもう少しだけ待ってて…!」
消えそうになっているうさ耳の少年の体を掴むと、彼は寂しそうに微笑んだ。
『体が治りかけているんだ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫』
「…その言葉、信じるよ」
出ていく前に用意していた道具を使い、少しずつ花をすり潰していく。
思っていたより手早く作ることができた。
「…雪、怖いかもしれないけど飲んでみて」
『私、誰かを傷つけたりしない?』
「大丈夫。きっとしないよ。それに、そうなったら絶対に止める」
『それじゃあ、いただきます』
雪が飲んでいる間に、瑠璃に何があったのか尋ねてみる。
「あのふたり、どんな話をしたの?」
『特に何も。ただ、兄の方があなたをかなり心配していましたよ』
「そうか。それなら後でもう1回宵と話をするよ」
薬が効くまでどれくらい時間があるだろう…そんなことを考えながら、ホットココアを淹れた。
『あの、怪我…』
「ああ、俺は頑丈だから平気だよ。それより、今はもっと宵の話を聞きたい。
彼女とどんなことをして過ごしていたのかとか、今どんなことを考えているのかとか…襲ってきた人たちについても聞かせてほしいんだ」
『今日も雪、綺麗だね』
『相変わらずの景色なのに、君は見飽きないのか…』
『宵は私と見る景色が嫌い?』
『いや、そういうわけじゃないんたけど、その…たまには別の景色もいいんじゃないかと思っただけ』
ふたりは本当に寄り添うようにして旅を続けている。
宵はあまり冬が得意ではないこと、だからといって暑すぎるのもあまり好きになれないこと、色々な景色が見たいこと…そんな穏やかな日常が流れていく。
だが、ある日突然それは終わりを告げた。
『宵!』
『明…?矢傷ができてる。今何が、』
そこまで話したところで、宵は明が顔を歪めていることに気づく。
そしてそのまま、転がるように道を下っていった。
『やめろ人間。僕たちは何もしていない。気に入らないならここから出ていくから、それを撃たないでくれ』
彼の言葉は届いたはずなのに、それでも相手は攻撃の手を緩めない。
『明、伏せて』
『え…?』
そこに小刀のようなものが飛んできて、宵の体に突き刺さる。
『私たちは何も悪いことなんかしていないのに、どうしてここまでされないといけないの?第一、あなた誰なの?人間はいつも自分勝手。…赦せない』
『明、もういいから逃げ──』
『人間…消してやる』
それからすぐ黒煙がたちのぼり、あっという間にふたりの体を包んでいく。
明が持っていた光は失われ、宵は必死に話しかけている。
それでも止まらない炎は、どこまでも暗い色をしていた。
『八尋』
「ああ、ごめん。瑠璃たちは平気だった?」
『私は平気です。ですが、彼らはもう…』
見てみると、雪でできた体が溶けてきている。
それはもう時間がないことをさしていて、慌てて体をおこした。
「ごめん、すぐ薬を作るからもう少しだけ待ってて…!」
消えそうになっているうさ耳の少年の体を掴むと、彼は寂しそうに微笑んだ。
『体が治りかけているんだ。だから、そんなに心配しなくても大丈夫』
「…その言葉、信じるよ」
出ていく前に用意していた道具を使い、少しずつ花をすり潰していく。
思っていたより手早く作ることができた。
「…雪、怖いかもしれないけど飲んでみて」
『私、誰かを傷つけたりしない?』
「大丈夫。きっとしないよ。それに、そうなったら絶対に止める」
『それじゃあ、いただきます』
雪が飲んでいる間に、瑠璃に何があったのか尋ねてみる。
「あのふたり、どんな話をしたの?」
『特に何も。ただ、兄の方があなたをかなり心配していましたよ』
「そうか。それなら後でもう1回宵と話をするよ」
薬が効くまでどれくらい時間があるだろう…そんなことを考えながら、ホットココアを淹れた。
『あの、怪我…』
「ああ、俺は頑丈だから平気だよ。それより、今はもっと宵の話を聞きたい。
彼女とどんなことをして過ごしていたのかとか、今どんなことを考えているのかとか…襲ってきた人たちについても聞かせてほしいんだ」
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