カルム

黒蝶

文字の大きさ
上 下
51 / 163

スノーブラザーズ

しおりを挟む
「…君たちは誰?」
部屋に招き入れ、うさ耳の少年とバケツ少女に尋ねる。
『僕は、あなたが作ったうさぎです。名前は、宵です』
『私は雪だるま。名前…名前?』
「分かった。多分宵は妖で、そっちの君は少し記憶が飛んでいるのかな…。俺は八尋。君たちは温かい場所は平気?」
『僕は、この姿でいるときならば問題ありません』
『私は分からない。…お兄ちゃん、どう思う?』
『僕には君のことは分からない。ただ、気配的には大丈夫そうだ』
ふたりの会話を聞いていると本当の兄妹のように見える。
だが、宵が知らないというのなら初対面に近い状態なのだろう。
「掃除をしてくれるのはありがたいけど、今日はもうやめておいた方がいい。
これからもっと冷える予定なんだ。万が一風邪をひいてしまったら大変なことになる」
『あの…僕たちは、ここにいてもいいんでしょうか?』
「俺が作ってしまったものだし、君たちが嫌じゃないなら構わないよ」
『ありがとうございます』
宵の達観した話し方に少し驚きつつ、こういうこともあるのかと状況を整理するのでせいいっぱいな自分もいる。
「どう思う?」
『今のところ不審な点はありませんし、八尋が構わないなら受け入れても大丈夫でしょう。
ただ、もしかすると兄の方は何か悩みがあるのかもしれません』
キッチンで飲み物を準備しながら、ふたりでこそこそ話し合う。
できれば信用したいところではあるが、相手をよく知らないことには何も始まらない。
「お待たせ。これなら飲めるかな?」
『いただきます。…ここお茶、体が温まります』
「気に入ってもらえたならよかった」
『お兄ちゃん、色々な話をしてくれたの。不思議な森に輝く海、それからお星様の話!』
「そうか。よかったね」
恐る恐る少女の頭に触れてみると、とても冷たく感じた。
「…雪」
『んん?』
「君の名前、雪っていうのはどうかな?名前がないと呼ぶときに不便だから、仮のものとして」
『ゆき…可愛い!』
「気に入ってくれたなら決まりだね」
『よかったね』
『うん!』
楽しそうに笑う姿を見て少し安心する。
このふたりは本当に仲がいいようだ。
もしも俺に兄弟というものがいれば、こんな感じだったのだろうか。
「ふたりは本当に知り合いじゃないの?なんだか兄妹みたいに見えるんだけど…」
『違います。兄妹ではありません』
宵の言葉にはどこか陰があるような気がしたが、そうかと答えるに留めた。
「ふたりとも、本当に体は平気?」
『僕は大丈夫です。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません』
『私も平気。体が軽くて楽しい』
「それならよかった」
少し離れた場所から観察している瑠璃は、一体どんなことを感じ取ったのだろうか。
「ふたりとも、どうやって寝るの?」
『外です』
『お外!』
ふたり揃ってベランダへの扉を開け、本来の姿に戻る。
目を閉じているのは確認できるものの、結局悩み事があるかどうかを聞き出すことはできなかった。
まだ時間はあるはずだから、また明日話してみることにしよう…カップを片づけながらそう誓う。
瑠璃も特に何も感じなかったのか、そのまま休みはじめた。
「…おやすみ、3人とも」
取り敢えず横になってみたものの、今夜は眠れそうにない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

ミミとロロ パンツやしきにいく

珊瑚やよい(にん)
絵本
 私が絵本コンテストに参加すると言ったら娘も参加したいといいまして。10歳(小5)の作成した絵本です。どうぞあたたかい目でご覧下さい。 珊瑚やよい→私 金色ヒトミ→娘  この絵本はトイレトレーニングをしている子におすすめです。弟が2歳の時、トイレトレーニングをしているときに描いた絵本です。トイレトレーニングをしている子には「パンツをはいてみな。パンツロボットがいるかもしれないよ」というといいです。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~

ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。 「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。 世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった! 次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で 幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──! 「この世に、幽霊事件なんてありえません」 幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!

お好み焼き屋さんのおとなりさん

菱沼あゆ
キャラ文芸
熱々な鉄板の上で、ジュウジュウなお好み焼きには、キンキンのビールでしょうっ! ニートな砂月はお好み焼き屋に通い詰め、癒されていたが。 ある日、驚くようなイケメンと相席に。 それから、毎度、相席になる彼に、ちょっぴり運命を感じるが――。 「それ、運命でもなんでもなかったですね……」 近所のお医者さん、高秀とニートな砂月の運命(?)の恋。

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。 不定期投稿となります。

処理中です...