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温かなお礼
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「本当に、倒しちゃったんですか…?」
「まあ、一応そういうことになるのかな…」
翌日、すぐにシェリから会って話がしたいと連絡がきた。
なんだか少し顔色が悪いような気がするが、気のせいだろうか。
「あの…私、力がそんなに強くなくて、こんなものしかできなかったんです」
「こんなものって…」
それは、かなり小さい巾着袋だった。
「可愛いね。開けてみてもいい?」
「は、はい…」
緊張しているからこんなに真っ青なのか、或いは夜なべして作ってくれたのか…どちらにしろありがたい。
巾着を開けてみると、中から可愛らしい翡翠色の玉がでてきた。
「その石には、持っている人に幸せを運んでくるという言い伝えがあるんです。袋は私が作ったんですけど、迷惑だったら捨ててください…」
「迷惑だなんて思わないよ。ありがとう、大切に持っておくね」
そう伝えると、シェリの表情はたちまち明るくなる。
ただ、やはり眠そうなのは変わらなかった。
「…すみません、少しだけ一緒に来てもらってもいいですか?」
「俺は構わないけど、シェリは大丈夫?なんだか寒そうだし、俺の家で少し寝ていった方がいいんじゃ…」
「平気です。あまり、眠くならないので…」
一先ず店を出て、しばらく彼女についていく。
どんな場所に出るんだろうと思っていると、そこには具合が悪そうな中津先輩が立っていた。
「あの…先輩?」
「ん?ああ、ごめん…。シェリは、話したいことを話せた?」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
なんだか顔が青く、このまま倒れてしまわないか心配になる。
不安になりつつ視線を向けていると、先輩はいつものように笑った。
「ごめんね。僕、昼間動くのが本当に苦手で…」
「仕事、今日は休んだ方がいいんじゃないですか?無理して動くと余計に体調が悪くなるかもしれないし…」
「ごめん、これは僕の性質なんだ。…八尋君、もう僕の正体に辿り着いてるなら分かるでしょ?」
たしかに俺の仮説が正しいなら、きっと夜になれば元気になるんだろう。
だが、半分だけの彼がそれに当てはまるかなんて俺には分からない。
「…血があれば元気になりますか?」
「ありがとう。でも大丈夫。…半分とはいえちゃんと人間だからね。
それよりひとつ気になってたんだけど、八尋君の左眼は生まれつきなの?」
予想が当たっていたことといい、突然左眼のことを訊かれたことといい、とにかく頭がついていけていない。
「一応、生まれつきです」
「そっか。そうだ、これは僕からのお礼。役に立つか怪しいけど、困ったときは使ってね。
八尋君相手には分からないけど、そっちの鳥さんには間違いなく効くから」
「いいんですか?」
「勿論!それじゃあ、またバイトでね」
それが貴重な傷薬であることくらい、見ただけですぐ分かる。
『…八尋』
「俺たちも帰ろうか」
手をふってくれた先輩と頭を下げているシェリに手をふりかえして、いつもどおり瑠璃を肩にのせたまま家路につく。
先輩の秘密に俺の左眼の話…どちらもあまり深堀りしてはいけないことだと理解しているからこそ追及しなかった。
その時間がとても心地よかったし、シェリや先輩からもらった温かな心遣いを覚えておこう。
──そんな優しさを受け取る資格なんて、本当なら俺にはないのに。
「まあ、一応そういうことになるのかな…」
翌日、すぐにシェリから会って話がしたいと連絡がきた。
なんだか少し顔色が悪いような気がするが、気のせいだろうか。
「あの…私、力がそんなに強くなくて、こんなものしかできなかったんです」
「こんなものって…」
それは、かなり小さい巾着袋だった。
「可愛いね。開けてみてもいい?」
「は、はい…」
緊張しているからこんなに真っ青なのか、或いは夜なべして作ってくれたのか…どちらにしろありがたい。
巾着を開けてみると、中から可愛らしい翡翠色の玉がでてきた。
「その石には、持っている人に幸せを運んでくるという言い伝えがあるんです。袋は私が作ったんですけど、迷惑だったら捨ててください…」
「迷惑だなんて思わないよ。ありがとう、大切に持っておくね」
そう伝えると、シェリの表情はたちまち明るくなる。
ただ、やはり眠そうなのは変わらなかった。
「…すみません、少しだけ一緒に来てもらってもいいですか?」
「俺は構わないけど、シェリは大丈夫?なんだか寒そうだし、俺の家で少し寝ていった方がいいんじゃ…」
「平気です。あまり、眠くならないので…」
一先ず店を出て、しばらく彼女についていく。
どんな場所に出るんだろうと思っていると、そこには具合が悪そうな中津先輩が立っていた。
「あの…先輩?」
「ん?ああ、ごめん…。シェリは、話したいことを話せた?」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
なんだか顔が青く、このまま倒れてしまわないか心配になる。
不安になりつつ視線を向けていると、先輩はいつものように笑った。
「ごめんね。僕、昼間動くのが本当に苦手で…」
「仕事、今日は休んだ方がいいんじゃないですか?無理して動くと余計に体調が悪くなるかもしれないし…」
「ごめん、これは僕の性質なんだ。…八尋君、もう僕の正体に辿り着いてるなら分かるでしょ?」
たしかに俺の仮説が正しいなら、きっと夜になれば元気になるんだろう。
だが、半分だけの彼がそれに当てはまるかなんて俺には分からない。
「…血があれば元気になりますか?」
「ありがとう。でも大丈夫。…半分とはいえちゃんと人間だからね。
それよりひとつ気になってたんだけど、八尋君の左眼は生まれつきなの?」
予想が当たっていたことといい、突然左眼のことを訊かれたことといい、とにかく頭がついていけていない。
「一応、生まれつきです」
「そっか。そうだ、これは僕からのお礼。役に立つか怪しいけど、困ったときは使ってね。
八尋君相手には分からないけど、そっちの鳥さんには間違いなく効くから」
「いいんですか?」
「勿論!それじゃあ、またバイトでね」
それが貴重な傷薬であることくらい、見ただけですぐ分かる。
『…八尋』
「俺たちも帰ろうか」
手をふってくれた先輩と頭を下げているシェリに手をふりかえして、いつもどおり瑠璃を肩にのせたまま家路につく。
先輩の秘密に俺の左眼の話…どちらもあまり深堀りしてはいけないことだと理解しているからこそ追及しなかった。
その時間がとても心地よかったし、シェリや先輩からもらった温かな心遣いを覚えておこう。
──そんな優しさを受け取る資格なんて、本当なら俺にはないのに。
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