カルム

黒蝶

文字の大きさ
上 下
48 / 163

温かなお礼

しおりを挟む
「本当に、倒しちゃったんですか…?」
「まあ、一応そういうことになるのかな…」
翌日、すぐにシェリから会って話がしたいと連絡がきた。
なんだか少し顔色が悪いような気がするが、気のせいだろうか。
「あの…私、力がそんなに強くなくて、こんなものしかできなかったんです」
「こんなものって…」
それは、かなり小さい巾着袋だった。
「可愛いね。開けてみてもいい?」
「は、はい…」
緊張しているからこんなに真っ青なのか、或いは夜なべして作ってくれたのか…どちらにしろありがたい。
巾着を開けてみると、中から可愛らしい翡翠色の玉がでてきた。
「その石には、持っている人に幸せを運んでくるという言い伝えがあるんです。袋は私が作ったんですけど、迷惑だったら捨ててください…」
「迷惑だなんて思わないよ。ありがとう、大切に持っておくね」
そう伝えると、シェリの表情はたちまち明るくなる。
ただ、やはり眠そうなのは変わらなかった。
「…すみません、少しだけ一緒に来てもらってもいいですか?」
「俺は構わないけど、シェリは大丈夫?なんだか寒そうだし、俺の家で少し寝ていった方がいいんじゃ…」
「平気です。あまり、眠くならないので…」
一先ず店を出て、しばらく彼女についていく。
どんな場所に出るんだろうと思っていると、そこには具合が悪そうな中津先輩が立っていた。
「あの…先輩?」
「ん?ああ、ごめん…。シェリは、話したいことを話せた?」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
なんだか顔が青く、このまま倒れてしまわないか心配になる。
不安になりつつ視線を向けていると、先輩はいつものように笑った。
「ごめんね。僕、昼間動くのが本当に苦手で…」
「仕事、今日は休んだ方がいいんじゃないですか?無理して動くと余計に体調が悪くなるかもしれないし…」
「ごめん、これは僕の性質なんだ。…八尋君、もう僕の正体に辿り着いてるなら分かるでしょ?」
たしかに俺の仮説が正しいなら、きっと夜になれば元気になるんだろう。
だが、半分だけの彼がそれに当てはまるかなんて俺には分からない。
「…血があれば元気になりますか?」
「ありがとう。でも大丈夫。…半分とはいえちゃんと人間だからね。
それよりひとつ気になってたんだけど、八尋君の左眼は生まれつきなの?」
予想が当たっていたことといい、突然左眼のことを訊かれたことといい、とにかく頭がついていけていない。
「一応、生まれつきです」
「そっか。そうだ、これは僕からのお礼。役に立つか怪しいけど、困ったときは使ってね。
八尋君相手には分からないけど、そっちの鳥さんには間違いなく効くから」
「いいんですか?」
「勿論!それじゃあ、またバイトでね」
それが貴重な傷薬であることくらい、見ただけですぐ分かる。
『…八尋』
「俺たちも帰ろうか」
手をふってくれた先輩と頭を下げているシェリに手をふりかえして、いつもどおり瑠璃を肩にのせたまま家路につく。
先輩の秘密に俺の左眼の話…どちらもあまり深堀りしてはいけないことだと理解しているからこそ追及しなかった。
その時間がとても心地よかったし、シェリや先輩からもらった温かな心遣いを覚えておこう。


──そんな優しさを受け取る資格なんて、本当なら俺にはないのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

白い結婚をカラフルな虹で彩りましょう。

ぽんぽこ狸
恋愛
 ハルメンサーラ伯爵令嬢のクリスタは、婚約をしていたマティアスと急遽結婚することになった。  なぜかといえば、伯爵家はひどい経済難を抱えており、八歳の子供であるクリスタの事もいよいよ養育できなくなったからである。  上の姉も少し前に同じ年の婚約者と別れて、すぐに結婚できる父と同じぐらいの年齢の男の元へと連れていかれた。  「結婚したからにはすべてを旦那様にお任せして、妻の役目を果たし堪えなければなりません」母はクリスタにそう言いつける。  元気に返事をするけれど、幼いクリスタには具体的に何をされるかということはわからない。  しかし”妻の役目を果たせ”とその言葉はクリスタの中にしかと刻まれたのだった。そして幼妻となりクリスタは婚約者のマティアスと生活を始める。  そんな中、二人の結婚は白い結婚だという言葉を侍女から聞いてしまい……?

なんでも相談所〈よろず屋〉で御座います!~ただしお客様は妖怪に限る~

初瀬 叶
キャラ文芸
私の名前は凛。何でも相談所〈よろず屋〉の看板娘兼、経理兼、雑用係。所長の他には私しか従業員がいないせいだけど。私の住む、ここはEDO。NIHONの都。そして、私の働くよろず屋は、所謂なんでも屋。ただし、1つだけ特徴が…。それは、お客様がみんな妖怪である事。 このEDOでは、妖怪は人間に化けて紛れて暮らしてる。しかし、みんなそれなりに悩みがあるようで…。 私、半妖の凛と所長の八雲がお悩み解決してみせます!…多分。 ※作者の頭の中にある、日本に似た国のお話です。文明の利器はありますが、皆が着ているのは着物…お侍さんも居る…みたいな感じ? ※実際、皆さんの聞いた事がある妖怪の名前が出て来ますが、性格や性質などは私の創作です。 ※毎度お馴染みのふんわり、ゆるゆる設定です。温かい目でご覧ください。 ※第六回キャラ文芸大賞エントリー作品です

今日も幼馴染みの幸せを願う

アズやっこ
恋愛
これは私の幼馴染みの話。 笑顔の似合う女の子、君の幸せをいつまでも願っているよ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 男性目線のお話です。

処理中です...