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困りごと
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「八尋君、大丈夫?なんだか疲れてない?」
「平気です。すみません、心配をかけてしまって…」
あれから警察に呼び出され、事情聴取じみたものを受けた。
なんとか左眼のことはばれないように隠しとおしたが、部外者である俺はやはりこれから梨里ちゃんがどうなるか教えてはもらえない。
…あのとき、連絡先だけでも渡せてよかった。
「お疲れ様です」
「八尋君、もしよかったらまた…」
そのとき、中津先輩の携帯電話が鳴った。
「もしもし?ああ、今終わったところだけど…え!?分かった、すぐ行くね」
電話を切ったときの顔はどこか焦っているように見えたものの、俺にできるのは早く切りあげることくらいだ。
「ごめん、僕から声をかけたのに…」
「いいんです、気にしないでください。…お疲れ様でした」
「お疲れ」
後ろから山岸先輩に声をかけられて驚いたものの、なんとか平静を装って一礼する。
外に出ると、また瑠璃が待っていた。
「ごめん、家温まってなかった?」
『あなたがここにいるのに、いきなり家に行くはずないでしょう?』
「そうなんだ…。ありがとう」
『今日はなんだか疲れていますね』
「そう見える?」
何か用事があるのかと思って身構えていたものの、そういうわけではないらしい。
『今日は警察というものに世話になったようですね。…八尋、あなたがどんな悪人になってもついていきます』
「何と勘違いしてるんだ…」
どうやら瑠璃は、俺が逮捕されかけたと思っていたらしい。
「心配してくれるのはありがたいけど、俺はそういうことはしてないよ」
『…そうですか』
「この前のことで事情を聞かれただけで、本当に捕まりそうになったわけじゃないんだ」
『警察とやらは無能ですね。もし自分があんな酷い怪我を負わせたなら、わざわざ病院まで連れていかないだろうに』
「無能かどうかはさておき、その意見には賛成かな」
疑って悪かったと言われたものの、そのときの警官の目は冷たかった。
…こうなるのが嫌だから人間とは関わりたくないんだ。
いつもの帰り道、星だけが俺たちを照らす。
こうして、平穏が戻ってきた…はずだった。
「ねえねえ、そこの人。俺らと一緒に遊ぼうぜ?」
「…困ります」
「こんなちっちゃいのに外を出歩く方が悪いんだろ?」
何やら困っている人の声と、耳障りな音が混ざって聞こえてくる。
『放っておきましょう。あなたに直接関係があるものではないのだから、また余計なことをすれば…』
「警察か。そうかもしれない。だけどもし、これで相手に何かあったら虫の居所が悪い」
たまたま帰り道のコンビニで買った小麦粉を少量だけ投げ、そこに向かってマッチ棒の火を軽く投げる。
「おい、なんだ!?」
『何したんですか?』
「…粉塵爆発。マッチは回収できたから証拠は残らない」
少女の手を掴み、そのまま慌てている人間たちのすきを突いて走る。
「すみません。大丈夫…」
その子の服は泥で汚れていて、今にも泣き出しそうになっている。
「…よければ風呂だけでも入っていってください」
「いいん、ですか?」
「はい。俺のせいでもあるので…」
「…ありがとうございます」
俺より小さな手を握ったまま歩く。
瑠璃が肩の上でため息を吐くのを感じながら、少女の手をできるだけ優しく握った。
「平気です。すみません、心配をかけてしまって…」
あれから警察に呼び出され、事情聴取じみたものを受けた。
なんとか左眼のことはばれないように隠しとおしたが、部外者である俺はやはりこれから梨里ちゃんがどうなるか教えてはもらえない。
…あのとき、連絡先だけでも渡せてよかった。
「お疲れ様です」
「八尋君、もしよかったらまた…」
そのとき、中津先輩の携帯電話が鳴った。
「もしもし?ああ、今終わったところだけど…え!?分かった、すぐ行くね」
電話を切ったときの顔はどこか焦っているように見えたものの、俺にできるのは早く切りあげることくらいだ。
「ごめん、僕から声をかけたのに…」
「いいんです、気にしないでください。…お疲れ様でした」
「お疲れ」
後ろから山岸先輩に声をかけられて驚いたものの、なんとか平静を装って一礼する。
外に出ると、また瑠璃が待っていた。
「ごめん、家温まってなかった?」
『あなたがここにいるのに、いきなり家に行くはずないでしょう?』
「そうなんだ…。ありがとう」
『今日はなんだか疲れていますね』
「そう見える?」
何か用事があるのかと思って身構えていたものの、そういうわけではないらしい。
『今日は警察というものに世話になったようですね。…八尋、あなたがどんな悪人になってもついていきます』
「何と勘違いしてるんだ…」
どうやら瑠璃は、俺が逮捕されかけたと思っていたらしい。
「心配してくれるのはありがたいけど、俺はそういうことはしてないよ」
『…そうですか』
「この前のことで事情を聞かれただけで、本当に捕まりそうになったわけじゃないんだ」
『警察とやらは無能ですね。もし自分があんな酷い怪我を負わせたなら、わざわざ病院まで連れていかないだろうに』
「無能かどうかはさておき、その意見には賛成かな」
疑って悪かったと言われたものの、そのときの警官の目は冷たかった。
…こうなるのが嫌だから人間とは関わりたくないんだ。
いつもの帰り道、星だけが俺たちを照らす。
こうして、平穏が戻ってきた…はずだった。
「ねえねえ、そこの人。俺らと一緒に遊ぼうぜ?」
「…困ります」
「こんなちっちゃいのに外を出歩く方が悪いんだろ?」
何やら困っている人の声と、耳障りな音が混ざって聞こえてくる。
『放っておきましょう。あなたに直接関係があるものではないのだから、また余計なことをすれば…』
「警察か。そうかもしれない。だけどもし、これで相手に何かあったら虫の居所が悪い」
たまたま帰り道のコンビニで買った小麦粉を少量だけ投げ、そこに向かってマッチ棒の火を軽く投げる。
「おい、なんだ!?」
『何したんですか?』
「…粉塵爆発。マッチは回収できたから証拠は残らない」
少女の手を掴み、そのまま慌てている人間たちのすきを突いて走る。
「すみません。大丈夫…」
その子の服は泥で汚れていて、今にも泣き出しそうになっている。
「…よければ風呂だけでも入っていってください」
「いいん、ですか?」
「はい。俺のせいでもあるので…」
「…ありがとうございます」
俺より小さな手を握ったまま歩く。
瑠璃が肩の上でため息を吐くのを感じながら、少女の手をできるだけ優しく握った。
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