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深愛
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それからはあっという間だった。
梨里ちゃんは部屋をうつり、側に警官がひとりついている。
中に入れてほしいと頼んでみたが、残念なことにそれは叶わなかった。
『梨里、僕は…!」
「…ごめん、駿君。俺にできるのはここまでだ。あとは梨里ちゃんが決めることになる…。
もっと力になりたかったのに、この程度しかできないなんて…本当にごめん」
『いいんだ。…僕、初めて人に信じてもらえた。梨里が大丈夫なら、僕はそれでいい。どうしようもなかったんだ」
心なしか、駿君は少し肩を落としているようにも見える。
…今しかチャンスがなかったのに、俺が部外者だから入れない。
ふたりにとっては今しかないのに、何もいい方法が思いつかなかった。
「天使、さん…」
「え…梨里ちゃん?」
「抜け出してきたの。お礼、言ってなかったから」
どうやら本当にひとりで車椅子に乗って出てきたらしい。
傷だらけの腕が見えて、彼女がどれだけの苦痛を味わってきたか物語っていた。
「ありがとうございました」
「…何も力になれなくてごめん」
『梨里、僕はいつまでだって梨里を護るよ」
「…お兄さんが、君のことをいつまでも護るって言ってる。時々でいいから、お兄さんのことを思い出してあげてほしいな」
「梨里は、お兄ちゃんと一緒がよかった。お兄ちゃんがいてくれたから、頑張れたのに…」
梨里ちゃんはただ泣いていた。
俺に彼女の涙を拭う資格なんてないのかもしれないけど、このまま放っておくこともできない。
せいぜいできるのはこれくらいだが、彼女に使いこなせるだろうか。
「…もし寂しくなったり、連絡する相手がいないときはここにお手紙を出すか携帯電話を使って連絡して」
「天使さんとお話できるの?」
「できるよ」
『…ねえ、大人って信用できる?」
駿君の言葉に固まってしまう。
ここは嘘でもできるというべきか、それとも本心を伝えておくべきか。
…伝えておいた方がいいだろう。
「…俺は、信じたいと思ってる」
『分かった。それじゃあ僕、ずっと梨里を護ってる。そういうおばけもいるんでしょ?」
「君がそうしたいと願うなら、きっとできるよ」
「天使さん…?」
『これを渡したかった」
そう話したかと思うと、ころんと音をたてて何かが落ちてくる。
「お兄さんはそれを梨里ちゃんに渡したかったんだって」
「私に?」
…残念ながらもうほとんど時間が残されていない。
「お兄さんから、最後のプレゼントだって」
「お、お兄ちゃん…」
『ずっと側で護るから」
「これからもずっと側にいるって言ってるよ」
「どうして私には視えないのかな…」
「視えない人の方が多いんだ。それから、俺の名前は天使さんじゃなくて八尋っていうんだ」
「やひろお兄さん…うん、覚えた」
「梨里ちゃん、駿君、またね」
その直後、見張りに吐いていた警官と思われる人物がやってきて梨里ちゃんを連れていってしまう。
頭を下げる駿君に手を振り、その場を離れて帰路についた。
『…まったく、本当にお人好しですね』
「ごめん。だけど、俺にできるのはこれくらいしかなかったから…」
あの兄妹は互いを思いやっている。
ただその気持ちを護りたかった。
もっと何かできたんじゃないかと後悔が残る結果になったが、いつか連絡がくると信じよう。
『あなたは大人が嫌いでしょう?』
「…俺もその嫌いな大人になったんだよ。中身はまだまだ子どもだけどね」
どうかこれから先、あのふたりが幸せになりますように。
そう願いながら自転車を漕ぎ進めた。
梨里ちゃんは部屋をうつり、側に警官がひとりついている。
中に入れてほしいと頼んでみたが、残念なことにそれは叶わなかった。
『梨里、僕は…!」
「…ごめん、駿君。俺にできるのはここまでだ。あとは梨里ちゃんが決めることになる…。
もっと力になりたかったのに、この程度しかできないなんて…本当にごめん」
『いいんだ。…僕、初めて人に信じてもらえた。梨里が大丈夫なら、僕はそれでいい。どうしようもなかったんだ」
心なしか、駿君は少し肩を落としているようにも見える。
…今しかチャンスがなかったのに、俺が部外者だから入れない。
ふたりにとっては今しかないのに、何もいい方法が思いつかなかった。
「天使、さん…」
「え…梨里ちゃん?」
「抜け出してきたの。お礼、言ってなかったから」
どうやら本当にひとりで車椅子に乗って出てきたらしい。
傷だらけの腕が見えて、彼女がどれだけの苦痛を味わってきたか物語っていた。
「ありがとうございました」
「…何も力になれなくてごめん」
『梨里、僕はいつまでだって梨里を護るよ」
「…お兄さんが、君のことをいつまでも護るって言ってる。時々でいいから、お兄さんのことを思い出してあげてほしいな」
「梨里は、お兄ちゃんと一緒がよかった。お兄ちゃんがいてくれたから、頑張れたのに…」
梨里ちゃんはただ泣いていた。
俺に彼女の涙を拭う資格なんてないのかもしれないけど、このまま放っておくこともできない。
せいぜいできるのはこれくらいだが、彼女に使いこなせるだろうか。
「…もし寂しくなったり、連絡する相手がいないときはここにお手紙を出すか携帯電話を使って連絡して」
「天使さんとお話できるの?」
「できるよ」
『…ねえ、大人って信用できる?」
駿君の言葉に固まってしまう。
ここは嘘でもできるというべきか、それとも本心を伝えておくべきか。
…伝えておいた方がいいだろう。
「…俺は、信じたいと思ってる」
『分かった。それじゃあ僕、ずっと梨里を護ってる。そういうおばけもいるんでしょ?」
「君がそうしたいと願うなら、きっとできるよ」
「天使さん…?」
『これを渡したかった」
そう話したかと思うと、ころんと音をたてて何かが落ちてくる。
「お兄さんはそれを梨里ちゃんに渡したかったんだって」
「私に?」
…残念ながらもうほとんど時間が残されていない。
「お兄さんから、最後のプレゼントだって」
「お、お兄ちゃん…」
『ずっと側で護るから」
「これからもずっと側にいるって言ってるよ」
「どうして私には視えないのかな…」
「視えない人の方が多いんだ。それから、俺の名前は天使さんじゃなくて八尋っていうんだ」
「やひろお兄さん…うん、覚えた」
「梨里ちゃん、駿君、またね」
その直後、見張りに吐いていた警官と思われる人物がやってきて梨里ちゃんを連れていってしまう。
頭を下げる駿君に手を振り、その場を離れて帰路についた。
『…まったく、本当にお人好しですね』
「ごめん。だけど、俺にできるのはこれくらいしかなかったから…」
あの兄妹は互いを思いやっている。
ただその気持ちを護りたかった。
もっと何かできたんじゃないかと後悔が残る結果になったが、いつか連絡がくると信じよう。
『あなたは大人が嫌いでしょう?』
「…俺もその嫌いな大人になったんだよ。中身はまだまだ子どもだけどね」
どうかこれから先、あのふたりが幸せになりますように。
そう願いながら自転車を漕ぎ進めた。
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