カルム

黒蝶

文字の大きさ
上 下
35 / 163

行方不明

しおりを挟む
「…っていうのがあるみたいなんだけど…」
『まったく、人間は滅茶苦茶なことをしますね』
「本当にね」
御神木を倒したり傷つけるなんて言語道断だろう。
もしかするとその場所に何かが封印されていたかもしれないのに、どうしてそんなことにも気づいてくれないのか…そう思うと少し虚しくなる。
「視えない人にとっては怖くないのか…」
『だと思います。気配すら感じ取れないようでは、ただの木と変わらないように見えるのかもしれません』
「神様がいて、とか…そういうの、考えないのが普通なのかな」
俺にはよく視えてしまうが、ただの木と変わらないとすればどうだろう。
ただ、傷つけたのには理由があるはずだ。
それがどんなものであれ赦されることではないのかもしれないが、とにかく会って話を聞きたい。
『…お守りは持っていますか?』
「一応持ち歩いてるよ。力が喧嘩しないように、木霊からもらったものはこっちに入れてる」
『相変わらず良識人ですね』
「なんとなく褒められた気がしないけどありがとう」
瑠璃の皮肉はあまり分からない。
分かりやすいときは流石に反応できるものの、今もかなりあやふやだ。
「…ここか」
その神社の大樹は散々な目に遭ったらしい。
落書き犯たちが不起訴になったこと、それから一家失踪事件がおきていること、それにくわえて次のターゲットがどこにいるか分からないことが問題だ。
『こんなの自業自得です。それがこの大樹を大切に思っている存在だったとすれば、怒るのは当然かと』
「…ごめん。調べないといけないのに俺もそう考えた」
瑠璃が息を吐いたのとほぼ同時に何かが迫ってくる気配がする。
後ろをふり返ると、いつの間にやってきたのか女性が泣いていた。
「あの、大丈夫ですか?」
ハンカチを差し出すと、彼女は消え入りそうな声ですみませんと呟く。
「この樹に何か想い出があったんですか?」
「ええ、まあ、そんなところです。…和也、あったよ」
「あ、ああ…やっぱり酷いな」
女性の方は本気で悲しんでいるようだが、男性の方からはなにか後悔のようなものを感じる。
「こんばんは」
「他にも人がいたのか。…麻友、取り敢えずここを離れよう」
何故そんなに離れたがるのか不思議でならない。
ただ、彼は何故こんなに震えているのだろう。
「…あなたは、御神木に悪戯したうちのひとりなんですか?」
「な、何を失礼なことを言い出すんだ。俺はただ、彼女とこの木を見に来ただけで、」
「それなら、やっぱり酷いってどういう意味ですか?新聞にはモノクロの写真しか載っていなかったのに、まるで見たことがあるような反応をしていました。
…どんな状態なのか知っているのはそれを見つけたこの神社の神主さんと犯人だけなはずです」
そこまで話したところで頬に熱を感じる。
…殴られたんだと悟るまで随分時間がかかってしまった。
いつの間にか転んでいて、ぱっと顔をあげると女性が男の腕を押さえてくれていた。
「駄目よ、暴力なんて…!」
「だ、だってこの餓鬼が、この餓鬼が、」
『おまえたちは私を裏切ったな。絶対に赦さない…!』
男性が喚くなか、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。
目の前をよく見てみると、暴走しているであろう大樹の主が鬼の形相でこちらに迫っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夢の中でもう一人のオレに丸投げされたがそこは宇宙生物の撃退に刀が重宝されている平行世界だった

竹井ゴールド
キャラ文芸
 オレこと柊(ひいらぎ)誠(まこと)は夢の中でもう一人のオレに泣き付かれて、余りの泣き言にうんざりして同意するとーー  平行世界のオレと入れ替わってしまった。  平行世界は宇宙より外敵宇宙生物、通称、コスモアネモニー(宇宙イソギンチャク)が跋扈する世界で、その対策として日本刀が重宝されており、剣道の実力、今(いま)総司のオレにとってはかなり楽しい世界だった。

夜紅前日譚

黒蝶
キャラ文芸
母親が亡くなってからというもの、ひたすら鍛錬に精を出してきた折原詩乃。 師匠である神宮寺義政(じんぐうじ よしまさ)から様々な知識を得て、我流で技を編み出していく。 そんなある日、神宮寺本家に見つかってしまい…? 夜紅誕生秘話、前日譚ここにあり。 ※この作品は『夜紅の憲兵姫』の過去篇です。 本作品からでも楽しめる内容になっています。

〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く

山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。 ★シリアス8:コミカル2 【詳細あらすじ】  50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。  次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。  鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。  みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。  惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

自称俺の娘は未来を変えたい

tukumo
キャラ文芸
【注意】この作品は社会では変人な俺は仙人見習い番外編です。 邪仙人になって数十年後の噺、 貯蓄をはたいて山を購入し、自然に囲まれた山奥で隠遁生活をする俺にある日の事。 自らを俺の娘だと名乗る奇妙な刺客に狙われることになる。 丁度退屈してきた日々だったので修行にもなるし、ほれいつでも命狙ってみな

処理中です...