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行方不明
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「…っていうのがあるみたいなんだけど…」
『まったく、人間は滅茶苦茶なことをしますね』
「本当にね」
御神木を倒したり傷つけるなんて言語道断だろう。
もしかするとその場所に何かが封印されていたかもしれないのに、どうしてそんなことにも気づいてくれないのか…そう思うと少し虚しくなる。
「視えない人にとっては怖くないのか…」
『だと思います。気配すら感じ取れないようでは、ただの木と変わらないように見えるのかもしれません』
「神様がいて、とか…そういうの、考えないのが普通なのかな」
俺にはよく視えてしまうが、ただの木と変わらないとすればどうだろう。
ただ、傷つけたのには理由があるはずだ。
それがどんなものであれ赦されることではないのかもしれないが、とにかく会って話を聞きたい。
『…お守りは持っていますか?』
「一応持ち歩いてるよ。力が喧嘩しないように、木霊からもらったものはこっちに入れてる」
『相変わらず良識人ですね』
「なんとなく褒められた気がしないけどありがとう」
瑠璃の皮肉はあまり分からない。
分かりやすいときは流石に反応できるものの、今もかなりあやふやだ。
「…ここか」
その神社の大樹は散々な目に遭ったらしい。
落書き犯たちが不起訴になったこと、それから一家失踪事件がおきていること、それにくわえて次のターゲットがどこにいるか分からないことが問題だ。
『こんなの自業自得です。それがこの大樹を大切に思っている存在だったとすれば、怒るのは当然かと』
「…ごめん。調べないといけないのに俺もそう考えた」
瑠璃が息を吐いたのとほぼ同時に何かが迫ってくる気配がする。
後ろをふり返ると、いつの間にやってきたのか女性が泣いていた。
「あの、大丈夫ですか?」
ハンカチを差し出すと、彼女は消え入りそうな声ですみませんと呟く。
「この樹に何か想い出があったんですか?」
「ええ、まあ、そんなところです。…和也、あったよ」
「あ、ああ…やっぱり酷いな」
女性の方は本気で悲しんでいるようだが、男性の方からはなにか後悔のようなものを感じる。
「こんばんは」
「他にも人がいたのか。…麻友、取り敢えずここを離れよう」
何故そんなに離れたがるのか不思議でならない。
ただ、彼は何故こんなに震えているのだろう。
「…あなたは、御神木に悪戯したうちのひとりなんですか?」
「な、何を失礼なことを言い出すんだ。俺はただ、彼女とこの木を見に来ただけで、」
「それなら、やっぱり酷いってどういう意味ですか?新聞にはモノクロの写真しか載っていなかったのに、まるで見たことがあるような反応をしていました。
…どんな状態なのか知っているのはそれを見つけたこの神社の神主さんと犯人だけなはずです」
そこまで話したところで頬に熱を感じる。
…殴られたんだと悟るまで随分時間がかかってしまった。
いつの間にか転んでいて、ぱっと顔をあげると女性が男の腕を押さえてくれていた。
「駄目よ、暴力なんて…!」
「だ、だってこの餓鬼が、この餓鬼が、」
『おまえたちは私を裏切ったな。絶対に赦さない…!』
男性が喚くなか、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。
目の前をよく見てみると、暴走しているであろう大樹の主が鬼の形相でこちらに迫っていた。
『まったく、人間は滅茶苦茶なことをしますね』
「本当にね」
御神木を倒したり傷つけるなんて言語道断だろう。
もしかするとその場所に何かが封印されていたかもしれないのに、どうしてそんなことにも気づいてくれないのか…そう思うと少し虚しくなる。
「視えない人にとっては怖くないのか…」
『だと思います。気配すら感じ取れないようでは、ただの木と変わらないように見えるのかもしれません』
「神様がいて、とか…そういうの、考えないのが普通なのかな」
俺にはよく視えてしまうが、ただの木と変わらないとすればどうだろう。
ただ、傷つけたのには理由があるはずだ。
それがどんなものであれ赦されることではないのかもしれないが、とにかく会って話を聞きたい。
『…お守りは持っていますか?』
「一応持ち歩いてるよ。力が喧嘩しないように、木霊からもらったものはこっちに入れてる」
『相変わらず良識人ですね』
「なんとなく褒められた気がしないけどありがとう」
瑠璃の皮肉はあまり分からない。
分かりやすいときは流石に反応できるものの、今もかなりあやふやだ。
「…ここか」
その神社の大樹は散々な目に遭ったらしい。
落書き犯たちが不起訴になったこと、それから一家失踪事件がおきていること、それにくわえて次のターゲットがどこにいるか分からないことが問題だ。
『こんなの自業自得です。それがこの大樹を大切に思っている存在だったとすれば、怒るのは当然かと』
「…ごめん。調べないといけないのに俺もそう考えた」
瑠璃が息を吐いたのとほぼ同時に何かが迫ってくる気配がする。
後ろをふり返ると、いつの間にやってきたのか女性が泣いていた。
「あの、大丈夫ですか?」
ハンカチを差し出すと、彼女は消え入りそうな声ですみませんと呟く。
「この樹に何か想い出があったんですか?」
「ええ、まあ、そんなところです。…和也、あったよ」
「あ、ああ…やっぱり酷いな」
女性の方は本気で悲しんでいるようだが、男性の方からはなにか後悔のようなものを感じる。
「こんばんは」
「他にも人がいたのか。…麻友、取り敢えずここを離れよう」
何故そんなに離れたがるのか不思議でならない。
ただ、彼は何故こんなに震えているのだろう。
「…あなたは、御神木に悪戯したうちのひとりなんですか?」
「な、何を失礼なことを言い出すんだ。俺はただ、彼女とこの木を見に来ただけで、」
「それなら、やっぱり酷いってどういう意味ですか?新聞にはモノクロの写真しか載っていなかったのに、まるで見たことがあるような反応をしていました。
…どんな状態なのか知っているのはそれを見つけたこの神社の神主さんと犯人だけなはずです」
そこまで話したところで頬に熱を感じる。
…殴られたんだと悟るまで随分時間がかかってしまった。
いつの間にか転んでいて、ぱっと顔をあげると女性が男の腕を押さえてくれていた。
「駄目よ、暴力なんて…!」
「だ、だってこの餓鬼が、この餓鬼が、」
『おまえたちは私を裏切ったな。絶対に赦さない…!』
男性が喚くなか、どこからともなくそんな声が聞こえてくる。
目の前をよく見てみると、暴走しているであろう大樹の主が鬼の形相でこちらに迫っていた。
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