カルム

黒蝶

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雪景色

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翌朝、いつもの夢で目が覚める。
「…実は傷ついてるのか?」
そんなふうに自問自答してみるが、やはり答えは変わらない。
たしかにあのことも人と関わりを持たなくなった一因ではある。
だが、決してそれだけではない。
…勿論誰にも話すつもりなんてないのだが、どうしても考えたくないこともある。
『…すみません、少しよろしいでしょうか?』
「こんな時間からいるのは珍しいね」
瑠璃は申し訳なさそうに洗濯ロープに留まり、窓を開けた瞬間こちらに移動してきた。
雪が積もっているからか、いつもより寒そうに見える。
「それで、何があったの?」
『…簡単に言ってしまえば、殺人事件のようなものです』
「それってどういうこと?」
さっぱり意味が分からず困っていると、瑠璃は無理矢理明るい声で話しはじめる。
『すみません、冗談です。ただ、失踪事件がおきているのはたしかです』
「それが妖か怪異関連なの?」
『…はい』
「調査は夜でもいい?俺、今夜仕事なんだ。少し休んでおかないと、流石に調査の後本を運んだり接客するのは厳しいから…」
実は人より疲れやすかったりするので、とにかく夜までは休んでおく必要がある。
周りに迷惑をかけるわけにはいかない。
そのまま横になっていると、いつの間にか空が茜色に染まっていた。
「瑠璃も何か食べる?」
『魚、美味しいですよね』
「よく焼き魚だって分かったね」
といっても、フライパンで軽く焼いているだけなのだが。
『仕事前に少し食べたいとき、あなたは大抵それにするでしょう?』
「…やっぱりなんでもお見通しみたいだ」
楽しそうに笑う小鳥の前に少しだけ味つけした魚を置く。
身を細かくして出したものを嬉しそうに食べていた。
『今日は自転車に乗らないんですか?』
「仕事のときはいつも乗ってないだろ?あ、でも最近はついでに調べに行ってたから乗ったこともあったね」
『雪だとそんなに危ないものなんですか?』
「これだけ積もっていると転びそうだから、今日は歩いていくよ」
まさかこんなふうに一面雪で埋まるとは思っていなかったので、タイヤの手入れもしていなかった。
メンテナンスしないまま走らせるとどうなるか分からない。
ゆっくり歩きすぎて遅刻ぎりぎりになってしまったものの、なんとか仕事には間に合わせた。
新しく入ってきた本の整理をしていると、近くのお客の話が聞こえてくる。
「最近行方不明者が多いみたいだね」
「あれじゃない?最近御神木に悪戯した人が出たって聞いた。
行方不明になっているのは、切り倒したり落書きした人たちに関係しているんじゃないかって…」
「そういえば家族全員消えたって新聞で読んだ…!」
その事件なら、最近スクラップ帳にくり抜いた記事を貼りつけた覚えがある。
もしそれが瑠璃の話にあった人殺しのようなものと関係しているとすれば、一体どんな人がやっているんだろう。
話が通じる相手であることを願いながら、急いで本を並べ終えた。
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