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少し遅れた挨拶
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「木霊、来たよ」
『…ああ、八尋か』
優しい神様は、先日祠を直したときより元気そうに見えた。
「あの人たちのこと、助けられたの?」
『どうやら助かったようだ。最近はふたりで祈りにやってくる』
「そうか、よかった…」
自分の力で助けになれないかと不安がっていた彼のところには、もう既に大切な人たちが戻ってきている。
落ちこんだ木霊を見ていたからか、その事実に酷く安堵した。
『こういうめでたい日ならば礼もできそうだ』
「これって、全部まつぼっくりでできてるの?」
『体が小さくてこれ以上重いものは持てないからな…』
「ありがとう、もらっていく。それから、よかったらこれ食べて」
何がいいのか分からず、結局手には大福を握っている。
それでも神様は、ただお礼を言ってくれた。
『他にも行く場所があるんですか?』
「うん。ちょっとね」
最近全く顔を出せていなかった廃墟に足を踏み入れると、前回よりは穏やかに大きな鋏が出迎えてくれた。
「栞奈、いるか?」
『…八尋』
「久しぶり。新年になったから挨拶にきたんだ。あれから変わりない?」
『寧ろ元気になったかもしれない』
「それならよかった」
彼女の力の源になった噂の【カミキリさん】は、少し形を変えて広まりつつある。
もしかすると、近い将来他の怪異たちとも仲良くできる日がくるかもしれない。
『こういうとき、なにかもてなせるとよかったんだけど…』
「君が元気でいる姿を見られただけで充分だよ」
翡翠色の左眼を隠さなくてもいい環境は、正直言ってかなり過ごしやすい。
「また会いに来るね」
『…ありがとう。生きている頃より今がずっと充実しているのは、あなたのおかげ』
彼女にも少し笑顔が増えた気がする。
それを確認できただけで充分だ。
『他にも立ち寄る場所があるんですか?』
「ごめん。寒いと思うけどもう少しだけ我慢して」
本来であれば先に瑠璃をマンションで休ませた方がいいかもしれない。
だが、最後にどうしても立ち寄りたい場所があった。
「…見つけた」
『懐かしいですね。ここは本当に変わらないです』
それは瑠璃と出会った場所である、森の奥深くだ。
昔は小さな神社があったらしいが、残念ながら今は小さめの鳥居が残っているだけで本当かただの噂かは分からない。
「実は俺たちが知らない間に少しずつ変化しているのかもしれないけど…ただ見ただけじゃ分からないね」
『変わっていてほしかったんですか?』
「…ううん。寧ろそのままであってほしいって思ってた」
この場所が変わってしまうと何もかも失ってしまいそうで…昔の俺が悲しむ気がして、実は毎年なんとなく来ている。
「今年もよろしく、瑠璃」
『あなたは本当に礼儀正しいですね。…こちらこそお願いします、八尋』
「よし、早く帰ってお茶にしようか」
『甘いお菓子が食べたいです』
こんなやりとりをするなんていつ以来だろう。
なんだかんだ言っても、瑠璃と一緒にいる時間が1番自然体でいられる気がした。
『…ああ、八尋か』
優しい神様は、先日祠を直したときより元気そうに見えた。
「あの人たちのこと、助けられたの?」
『どうやら助かったようだ。最近はふたりで祈りにやってくる』
「そうか、よかった…」
自分の力で助けになれないかと不安がっていた彼のところには、もう既に大切な人たちが戻ってきている。
落ちこんだ木霊を見ていたからか、その事実に酷く安堵した。
『こういうめでたい日ならば礼もできそうだ』
「これって、全部まつぼっくりでできてるの?」
『体が小さくてこれ以上重いものは持てないからな…』
「ありがとう、もらっていく。それから、よかったらこれ食べて」
何がいいのか分からず、結局手には大福を握っている。
それでも神様は、ただお礼を言ってくれた。
『他にも行く場所があるんですか?』
「うん。ちょっとね」
最近全く顔を出せていなかった廃墟に足を踏み入れると、前回よりは穏やかに大きな鋏が出迎えてくれた。
「栞奈、いるか?」
『…八尋』
「久しぶり。新年になったから挨拶にきたんだ。あれから変わりない?」
『寧ろ元気になったかもしれない』
「それならよかった」
彼女の力の源になった噂の【カミキリさん】は、少し形を変えて広まりつつある。
もしかすると、近い将来他の怪異たちとも仲良くできる日がくるかもしれない。
『こういうとき、なにかもてなせるとよかったんだけど…』
「君が元気でいる姿を見られただけで充分だよ」
翡翠色の左眼を隠さなくてもいい環境は、正直言ってかなり過ごしやすい。
「また会いに来るね」
『…ありがとう。生きている頃より今がずっと充実しているのは、あなたのおかげ』
彼女にも少し笑顔が増えた気がする。
それを確認できただけで充分だ。
『他にも立ち寄る場所があるんですか?』
「ごめん。寒いと思うけどもう少しだけ我慢して」
本来であれば先に瑠璃をマンションで休ませた方がいいかもしれない。
だが、最後にどうしても立ち寄りたい場所があった。
「…見つけた」
『懐かしいですね。ここは本当に変わらないです』
それは瑠璃と出会った場所である、森の奥深くだ。
昔は小さな神社があったらしいが、残念ながら今は小さめの鳥居が残っているだけで本当かただの噂かは分からない。
「実は俺たちが知らない間に少しずつ変化しているのかもしれないけど…ただ見ただけじゃ分からないね」
『変わっていてほしかったんですか?』
「…ううん。寧ろそのままであってほしいって思ってた」
この場所が変わってしまうと何もかも失ってしまいそうで…昔の俺が悲しむ気がして、実は毎年なんとなく来ている。
「今年もよろしく、瑠璃」
『あなたは本当に礼儀正しいですね。…こちらこそお願いします、八尋』
「よし、早く帰ってお茶にしようか」
『甘いお菓子が食べたいです』
こんなやりとりをするなんていつ以来だろう。
なんだかんだ言っても、瑠璃と一緒にいる時間が1番自然体でいられる気がした。
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