31 / 163
想いの言の葉
しおりを挟む
「拝啓、えっと…」
『なのはです。数字の七に葉っぱで…」
七葉という名前の響きがいいなと思いつつ、そのまま彼の想いを文字にしていく。
『これからもずっと、見守っています?いや、護り続けますがいいのかな…」
どうやら彼の中でまだ書きたいことがまとまっていないらしい。
「吉岡君の、」
『蒼汰、です」
「…蒼汰が伝えたいのは、どういう気持ちなんだ?」
『そうだな…やっぱり感謝かな。あと、好きだってことはちゃんと伝えたいと思ってます」
「分かった、やってみるよ」
代筆の経験は何度かあったものの、恋文のようなものを書くのは初めてだ。
なんとなく書いてみては気に入らなくて直すのを繰り返している。
「《蒼汰》…最後はこれで大丈夫?」
『はい。ありがとうございます」
どのくらい時間が経っただろう。
それも分からなくなった頃、漸く手紙が完成した。
悴む指に息を吐きながら蒼汰の方を見ると、目元が潤んでいる。
『あれ…?すみません、まさかこんなに感動するものだと思わなくて…」
「別に構わないよ。気に入らない場所があったなら、」
『そんなのありません!俺、こんなふうに手紙を送れることさえ奇跡だと思ってるんです。
だって俺はあのとき死んで、あいつの目にはもう二度とうつらないんだから」
そんな彼に、俺はそうかと一言言うことしかできなかった。
俺なんかでもできることがあるというのはとても嬉しい。
「あとはこれを渡すだけだけど、相手が本当に君だって証明する方法っていうのは?」
『これ、なんですけど…触れますか?」
彼が渡してくれたのは、小さな葉が描かれたスタンプだった。
「これをここに押せばいいんだね?」
『はい!ありがとうございます!」
「明日、檜病院で渡してもらうよ」
『八尋さん、本当にありがとうございました」
一礼する彼に質問をぶつけてみる。
「…君も一緒に来る?」
『いいんですか?」
「それは自分で決めていいんだよ」
『行きたいです…!」
「それじゃあ明日、迎えに来るから」
見える形で遺したいと話した彼の言葉を、きちんと手紙にのせられただろうか。
不安な部分は多いものの、なんとしても手紙を渡そうと決めた。
『まさかあなたがあんな言葉を綴るとは思いませんでした』
「うん。…俺も驚いてる」
好きだとか愛しているだとか、そんな言葉を誰にも言ったことがない俺にとって、それはとてもハードルが高かった。
俺にはきっとそんな相手は現れない。
…そう自覚している分、余計にどう表現すればいいのか迷ってしまった。
『死してなお相手を想えるなんて、素敵ですね』
「瑠璃にもそういう相手がいたことがあったの?」
『私にはそういう経験はありませんよ。ただ、今の人間たちは恋というものが好きだと思っただけです』
「…そうか」
家に帰り着いた瞬間ベッドで横になり、そのまま目を閉じる。
なかなか寝つくことができなかったものの、近くで瑠璃が休んでいるのが視えた。
「…みんなが幸せになる方法があればいいのにな」
そんな言葉を呟いてしまったのは、瑠璃が少し寂しそうに見えたからだろうか。
『なのはです。数字の七に葉っぱで…」
七葉という名前の響きがいいなと思いつつ、そのまま彼の想いを文字にしていく。
『これからもずっと、見守っています?いや、護り続けますがいいのかな…」
どうやら彼の中でまだ書きたいことがまとまっていないらしい。
「吉岡君の、」
『蒼汰、です」
「…蒼汰が伝えたいのは、どういう気持ちなんだ?」
『そうだな…やっぱり感謝かな。あと、好きだってことはちゃんと伝えたいと思ってます」
「分かった、やってみるよ」
代筆の経験は何度かあったものの、恋文のようなものを書くのは初めてだ。
なんとなく書いてみては気に入らなくて直すのを繰り返している。
「《蒼汰》…最後はこれで大丈夫?」
『はい。ありがとうございます」
どのくらい時間が経っただろう。
それも分からなくなった頃、漸く手紙が完成した。
悴む指に息を吐きながら蒼汰の方を見ると、目元が潤んでいる。
『あれ…?すみません、まさかこんなに感動するものだと思わなくて…」
「別に構わないよ。気に入らない場所があったなら、」
『そんなのありません!俺、こんなふうに手紙を送れることさえ奇跡だと思ってるんです。
だって俺はあのとき死んで、あいつの目にはもう二度とうつらないんだから」
そんな彼に、俺はそうかと一言言うことしかできなかった。
俺なんかでもできることがあるというのはとても嬉しい。
「あとはこれを渡すだけだけど、相手が本当に君だって証明する方法っていうのは?」
『これ、なんですけど…触れますか?」
彼が渡してくれたのは、小さな葉が描かれたスタンプだった。
「これをここに押せばいいんだね?」
『はい!ありがとうございます!」
「明日、檜病院で渡してもらうよ」
『八尋さん、本当にありがとうございました」
一礼する彼に質問をぶつけてみる。
「…君も一緒に来る?」
『いいんですか?」
「それは自分で決めていいんだよ」
『行きたいです…!」
「それじゃあ明日、迎えに来るから」
見える形で遺したいと話した彼の言葉を、きちんと手紙にのせられただろうか。
不安な部分は多いものの、なんとしても手紙を渡そうと決めた。
『まさかあなたがあんな言葉を綴るとは思いませんでした』
「うん。…俺も驚いてる」
好きだとか愛しているだとか、そんな言葉を誰にも言ったことがない俺にとって、それはとてもハードルが高かった。
俺にはきっとそんな相手は現れない。
…そう自覚している分、余計にどう表現すればいいのか迷ってしまった。
『死してなお相手を想えるなんて、素敵ですね』
「瑠璃にもそういう相手がいたことがあったの?」
『私にはそういう経験はありませんよ。ただ、今の人間たちは恋というものが好きだと思っただけです』
「…そうか」
家に帰り着いた瞬間ベッドで横になり、そのまま目を閉じる。
なかなか寝つくことができなかったものの、近くで瑠璃が休んでいるのが視えた。
「…みんなが幸せになる方法があればいいのにな」
そんな言葉を呟いてしまったのは、瑠璃が少し寂しそうに見えたからだろうか。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
「-不破-という男 女性だけが超能力に目覚めた世界で」
晴樹
キャラ文芸
近未来。
ある日を境に超能力者が誕生した。
しかし、超能力を得られたのは女性のみだった。
その日から数年後、世界は変わり超能力が女性が男性の上を行く存在となった。
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
その溺愛は伝わりづらい
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
欲望の神さま拾いました【本編完結】
一花カナウ
キャラ文芸
長年付き合っていた男と別れてやけ酒をした翌朝、隣にいたのは天然系の神サマでした。
《やってることが夢魔な自称神様》を拾った《社畜な生真面目女子》が神様から溺愛されながら、うっかり世界が滅びないように奮闘するラブコメディです。
※オマケ短編追加中
カクヨム、ノベルアップ+、pixiv、ムーンライトノベルズでも公開中(サイトによりレーティングに合わせた調整アリ)
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
絶世の美女の侍女になりました。
秋月一花
キャラ文芸
十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。
旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。
山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。
女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。
しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。
ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。
後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。
祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる