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様々な愛
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──これは、彼女の記憶?
「やっと見つけた」
「正樹!」
「実は隠れるのが本当に上手いな」
「か、隠れてるわけじゃないもん…」
「本当に照れ屋だな」
ふたりは笑い合っていて、本当に幸せそうだ。
ただ、そんなふたりを気に入らなさそうに見えいる人間がひとりいた。
「正樹君…!」
「…行こう」
正樹さんが藤沢さんの手をひこうとすると、女性は猛ダッシュでその前に立ち塞がる。
「ちょっと待って!私とデートしよう?その人とよりずっと楽しいよ」
「俺は実がいいんだ。ごめんね」
やんわりと断りその場を離れるふたりは少し震えていて、よく観察すると震えている正樹さんを藤沢さんが宥めているようだった。
「最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「…ごめん、大丈夫じゃないかも」
それから視えたのは、大量の怨念だった。
何か髪のようなものが束になっているものが封筒から出されるのは見えたが、それ以上のことは分からない。
『──ろ、八尋…!』
「瑠璃…?」
心配そうにこちらを覗きこむ小鳥を見て、慌てて飛び起きる。
「あのふたりは?」
『…あそこです』
それは、かなり悲惨な状況だった。
『正樹君の心に私を埋めるの!」
『…あれだけのことをして苦しめておいて、まだ足りないっていうの?」
藤沢さんが少女を押さえこんではいるが、悪霊化を抑えこめなくなってきている。
体中の傷が裂け、そこから赤黒いものが飛び出す。
それを不快そうに見つめる少女の目に、先程までの偽りの無垢さはなかった。
このままではふたりとも祓われてしまう。
「こんばんは。…中川正樹さんですよね?」
「そうですけど…」
「俺、こんなものを拾ったんです。あなたにとって大切なものなんじゃないかなって…」
そこには、愛しのF.M.へと彫られたブレスレットが落ちていた。
『それ、私の…」
藤沢さんの悪霊化が止まるのを確認して、そのまま正樹さんに視線を向ける。
「ありがとうございます。俺、注文するときに間違えて名前の名字の順番を反対にしたんだ。懐かしいな…あいつ、まだ持っててくれたんだ」
「あなたのことを大切に想う気持ちは変わらないって言ってます」
「何言って、」
「お願いします。滅茶苦茶なことを言っているのは自分でも分かってるけど…彼女に呼びかけてください。
もうあまり時間は残されていません」
正樹さんは少し考えるように俯いていたものの、やがて何かを決意したように叫ぶ。
「実、本当にごめん。俺が護らないといけなかったのに、山田を近づけてしまった。
いつも嫌がらせで震えてる俺を支えてくれたのに、肝心なときに側にいなくて…」
彼の肩は震えている。
溜めこんでいた思いの全てを吐き出すように、更にはっきり告げた。
「俺、もっと頑張るから…だから、心配しないで見ててほしい。…愛してる」
『正樹…」
藤沢さんは泣きながら少女を抑えこむ。
『…このまま塵になって反省しなさい」
断末魔の叫びとともに少女の姿は消えていた。
『ありがとう。あなたのおかげで彼を護ることができた」
「俺は何もしてないですよ。…突然声をかけてすみませんでした」
「あ、いや…」
「失礼します」
一礼してその場を離れると、瑠璃が俺の腕に目を向ける。
『怪我を悪化させられたのに、何も請求しなくてよかったんですか?』
「いいんだ。…あんなに幸せそうにしているのに、それを邪魔することなんてしたくない」
正樹さんには藤沢さんの姿は視えていないはずなのに、ふたりはまるでお互いを支えあうようにして座っている。
相手を想うがあまりねじ曲がってしまった愛は消え、真実の愛だけがその場に残った。
そんなふたりを背に、俺はただいつもどおり家路を急ぐ。
…早く帰って炬燵に入りたい。
「やっと見つけた」
「正樹!」
「実は隠れるのが本当に上手いな」
「か、隠れてるわけじゃないもん…」
「本当に照れ屋だな」
ふたりは笑い合っていて、本当に幸せそうだ。
ただ、そんなふたりを気に入らなさそうに見えいる人間がひとりいた。
「正樹君…!」
「…行こう」
正樹さんが藤沢さんの手をひこうとすると、女性は猛ダッシュでその前に立ち塞がる。
「ちょっと待って!私とデートしよう?その人とよりずっと楽しいよ」
「俺は実がいいんだ。ごめんね」
やんわりと断りその場を離れるふたりは少し震えていて、よく観察すると震えている正樹さんを藤沢さんが宥めているようだった。
「最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「…ごめん、大丈夫じゃないかも」
それから視えたのは、大量の怨念だった。
何か髪のようなものが束になっているものが封筒から出されるのは見えたが、それ以上のことは分からない。
『──ろ、八尋…!』
「瑠璃…?」
心配そうにこちらを覗きこむ小鳥を見て、慌てて飛び起きる。
「あのふたりは?」
『…あそこです』
それは、かなり悲惨な状況だった。
『正樹君の心に私を埋めるの!」
『…あれだけのことをして苦しめておいて、まだ足りないっていうの?」
藤沢さんが少女を押さえこんではいるが、悪霊化を抑えこめなくなってきている。
体中の傷が裂け、そこから赤黒いものが飛び出す。
それを不快そうに見つめる少女の目に、先程までの偽りの無垢さはなかった。
このままではふたりとも祓われてしまう。
「こんばんは。…中川正樹さんですよね?」
「そうですけど…」
「俺、こんなものを拾ったんです。あなたにとって大切なものなんじゃないかなって…」
そこには、愛しのF.M.へと彫られたブレスレットが落ちていた。
『それ、私の…」
藤沢さんの悪霊化が止まるのを確認して、そのまま正樹さんに視線を向ける。
「ありがとうございます。俺、注文するときに間違えて名前の名字の順番を反対にしたんだ。懐かしいな…あいつ、まだ持っててくれたんだ」
「あなたのことを大切に想う気持ちは変わらないって言ってます」
「何言って、」
「お願いします。滅茶苦茶なことを言っているのは自分でも分かってるけど…彼女に呼びかけてください。
もうあまり時間は残されていません」
正樹さんは少し考えるように俯いていたものの、やがて何かを決意したように叫ぶ。
「実、本当にごめん。俺が護らないといけなかったのに、山田を近づけてしまった。
いつも嫌がらせで震えてる俺を支えてくれたのに、肝心なときに側にいなくて…」
彼の肩は震えている。
溜めこんでいた思いの全てを吐き出すように、更にはっきり告げた。
「俺、もっと頑張るから…だから、心配しないで見ててほしい。…愛してる」
『正樹…」
藤沢さんは泣きながら少女を抑えこむ。
『…このまま塵になって反省しなさい」
断末魔の叫びとともに少女の姿は消えていた。
『ありがとう。あなたのおかげで彼を護ることができた」
「俺は何もしてないですよ。…突然声をかけてすみませんでした」
「あ、いや…」
「失礼します」
一礼してその場を離れると、瑠璃が俺の腕に目を向ける。
『怪我を悪化させられたのに、何も請求しなくてよかったんですか?』
「いいんだ。…あんなに幸せそうにしているのに、それを邪魔することなんてしたくない」
正樹さんには藤沢さんの姿は視えていないはずなのに、ふたりはまるでお互いを支えあうようにして座っている。
相手を想うがあまりねじ曲がってしまった愛は消え、真実の愛だけがその場に残った。
そんなふたりを背に、俺はただいつもどおり家路を急ぐ。
…早く帰って炬燵に入りたい。
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