カルム

黒蝶

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たまの休日

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『今夜は珍しく落ち着いているようですね。あれから来福には会ったんですか?』
「手紙が来たよ。きちんと旅立つ背中を見送ったから、どうか安心してほしいって…ありがとうって書かれてた」
『やはり神社付きは丁寧ですね』
「…生きている人間以外に親切じゃない人っているの?」
俺は、周りで自分にしか視えていないであろう世界の人たちに傷つけられたことがない。
誤解だったり悪戯だったり、生きた人間じゃなくてもそういうことはたしかにある。
だが、意図的に傷つける存在なんて見たことがない。
『時々いますよ、たちが悪いものが。…あなたが騙されてしまわないか心配です』
「瑠璃がいてくれるなら心配ないかもしれない」
『…もしも私が騙していたら、あなたはどんな反応をするんですか?』
「きっと理由があったんだろうなって考える。少なくても、俺が今まで出逢ってきた人たちはそうだったから」
本屋の仕事も休みだと余計なことを考えがちだ。
だが、今はこうして瑠璃とのんびり話ができるのでそれだけでいい。
時々こんな真面目な話になるのは、彼女が俺が知らない沢山の時間を生きてきているからなのだろう。
『八尋』
「どうしたの?」
『その星のようなものが食べたいです』
「ああ、金平糖?それは構わないけど、そのままじゃ食べづらいだろうから…」
少し力を入れれば粉々になってしまうそれを砕き、小さめの皿に盛りつけた。
「これなら食べやすい?」
『気遣い上手ですね。…いただきます』
ばりばりと音が鳴る度喉につまらせてしまわないか不安になりながら、別の器に水を淹れた。
「これ飲んで」
『ありがとうございます。…甘いですね、このお菓子は』
「砂糖菓子だからね」
こんなふうにゆったり過ごしたのは久しぶりかもしれない。
ここのところ、死霊や神様、それに準ずる人の話を聞いていたからだろうか。
なんとか解決できたことに安堵しつつ、少しだけ疑問を感じている。
「…ねえ、瑠璃。ひとつ教えて」
『私が知っていることなら』
「カミキリさんの噂は、誰かが意図的に変えたものだと思う?」
美味しそうに金平糖の欠片を頬張っていた瑠璃は体を止め、俺の方をじっと見つめる。
『違うとは言い切れません。ただ、絶対にそうだという確証も得られませんでした』
「そうか…。ありがとう」
『それより、八尋はもっと生者か否か見分けられるようになってください』
「それもそうか…いつもごめん」
『あなたは危なっかしいですが、それは同時に長所になっている気がします』
「…ありがとう」
瑠璃と過ごす休日は楽しい。
あの日から彩づかなくなった俺の世界は、今日もこうして少しずつ変化している。
窓ガラスに反射して、翡翠色の左眼がぼんやりと視界に写った。
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