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昔のこと
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「八尋君、今日は、」
「すみません、急ぎの用があるので…お疲れ様です」
小走りでつい最近まで通っていた道を駆け抜けると、そこにはたしかに独りの少女が佇んでいた。
雨の中ぼんやりしている彼女は、生きているのだろうか。
「こんばんは」
「こ、こんばんは…」
「ここにいたら、体を冷やしてしまうよ。近くに泊まれる場所もあるはずだから、その場所に行ってみて。
あと、そのままだと濡れてしまうから…これ、よかったらどうぞ」
「でも、傘がないとあなたが困るんじゃ…」
「折りたたみがあるから大丈夫だよ。それじゃあ、俺はこれで」
傘を受け取ったのを確認してから、一礼して小走りで公園を後にする。
誰かがいる場所で死者を探すのは危険だ。
…特に夜なら、不審者として通報されかねない。
『それでこうなってしまっては意味がないでしょう?』
「ごめん。不覚だった…」
翌朝、運悪く風邪を引いてしまった。
ベッドに蹲ることしかできなくて、やってきた瑠璃に状況だけ報告する。
『…その少女、本当に生者でしたか?』
「どういう、意味…」
『今は少し休んでください。状況はそれから説明します』
「…寝るのは嫌だ。だけど、休んだ方がいいよね…」
こういうとき、眠るのが怖くなる。
子どもっぽいと思われるかもしれないが、何度も悪夢を見続けるのは慣れてきていても疲れてしまうのだ。
……それなのに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
【八尋…あなたは悪くないわ】
「そんなことない。俺がもっと強かったら…俺にだってもっと何かできたはずなのに」
小さな俺は今以上に非力で、それなのにあの人は仕方ないと笑った。
【仕方がないことなのよ。だけど、あなただけは優しくしてくれた。…本当にありがとう】
お礼を言われるようなことなんて何もしていない。
【たとえ私がここから消え去ったとしても、八尋のことをずっと護るから】
それ以上先の言葉なんて聞きたくない。
【あなたはとても優しい子よ。だから、困っている人がいたら助けてあげて】
…やめろ。
【さあ、私を──】
「やめろ!」
全身汗まみれで気持ち悪い。
久しぶりにあの夢を見たが、やはり気分がいいものではなかった。
『…八尋』
「ごめん、変なこと言ってなかった?」
『いつもどおりでしたよ』
「そうか。…熱も下がったみたいだし、話を聞かせて」
瑠璃はため息を吐いた後、ゆっくり仮説をたててくれた。
「そんな、まさか、」
『可能性がないとは言い切れません』
「…これから行って調べてみよう」
『体は大丈夫なんですか?』
「平気だよ。…寧ろ今は、何かしていた方が楽かもしれない」
昔のことを思い出す度息が詰まる。
誰にぶつけていいものか、そもそも誰に話していいのか分からず、ずっと心の匣に仕舞ってきた。
…それよりも今はワカさんのことだ。
もし瑠璃の仮説が正しいなら、俺はこれから探しものを手伝わないといけない。
丁度陽が沈んだ頃公園に辿り着くと、そこにはぼんやりと立ち尽くす少女がいた。
「こんばんは」
「すみません、急ぎの用があるので…お疲れ様です」
小走りでつい最近まで通っていた道を駆け抜けると、そこにはたしかに独りの少女が佇んでいた。
雨の中ぼんやりしている彼女は、生きているのだろうか。
「こんばんは」
「こ、こんばんは…」
「ここにいたら、体を冷やしてしまうよ。近くに泊まれる場所もあるはずだから、その場所に行ってみて。
あと、そのままだと濡れてしまうから…これ、よかったらどうぞ」
「でも、傘がないとあなたが困るんじゃ…」
「折りたたみがあるから大丈夫だよ。それじゃあ、俺はこれで」
傘を受け取ったのを確認してから、一礼して小走りで公園を後にする。
誰かがいる場所で死者を探すのは危険だ。
…特に夜なら、不審者として通報されかねない。
『それでこうなってしまっては意味がないでしょう?』
「ごめん。不覚だった…」
翌朝、運悪く風邪を引いてしまった。
ベッドに蹲ることしかできなくて、やってきた瑠璃に状況だけ報告する。
『…その少女、本当に生者でしたか?』
「どういう、意味…」
『今は少し休んでください。状況はそれから説明します』
「…寝るのは嫌だ。だけど、休んだ方がいいよね…」
こういうとき、眠るのが怖くなる。
子どもっぽいと思われるかもしれないが、何度も悪夢を見続けるのは慣れてきていても疲れてしまうのだ。
……それなのに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
【八尋…あなたは悪くないわ】
「そんなことない。俺がもっと強かったら…俺にだってもっと何かできたはずなのに」
小さな俺は今以上に非力で、それなのにあの人は仕方ないと笑った。
【仕方がないことなのよ。だけど、あなただけは優しくしてくれた。…本当にありがとう】
お礼を言われるようなことなんて何もしていない。
【たとえ私がここから消え去ったとしても、八尋のことをずっと護るから】
それ以上先の言葉なんて聞きたくない。
【あなたはとても優しい子よ。だから、困っている人がいたら助けてあげて】
…やめろ。
【さあ、私を──】
「やめろ!」
全身汗まみれで気持ち悪い。
久しぶりにあの夢を見たが、やはり気分がいいものではなかった。
『…八尋』
「ごめん、変なこと言ってなかった?」
『いつもどおりでしたよ』
「そうか。…熱も下がったみたいだし、話を聞かせて」
瑠璃はため息を吐いた後、ゆっくり仮説をたててくれた。
「そんな、まさか、」
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「…これから行って調べてみよう」
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「平気だよ。…寧ろ今は、何かしていた方が楽かもしれない」
昔のことを思い出す度息が詰まる。
誰にぶつけていいものか、そもそも誰に話していいのか分からず、ずっと心の匣に仕舞ってきた。
…それよりも今はワカさんのことだ。
もし瑠璃の仮説が正しいなら、俺はこれから探しものを手伝わないといけない。
丁度陽が沈んだ頃公園に辿り着くと、そこにはぼんやりと立ち尽くす少女がいた。
「こんばんは」
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