カルム

黒蝶

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気が進まない場所

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それから帰ってすぐ寝たものの、いつもより睡眠時間が少ない。
『寝不足ですか?』
「…いや、いつものことだから平気だよ」
眠いはずなのに、寝たいとは思えない。
いつも見る夢のせいだろうか。
そんなことを考えていると、ずきりと腕が痛んだ。
『怪我、そろそろ包帯を換えてもらった方がいいんじゃないでしょうか?』
「それもそうか。本当は自力で換えられたら1番よかったんだけど…」
『あなたでは無理です』
「自分でちゃんと分かってる。分かってはいるんだけどね…」
病院という場所は、普通の人に視えない景色が比較的広いような気がする。
それに、途中で乗る電車は沢山の人が乗っている為体調を崩しやすい。
「瑠璃は家で待ってて。今日は電車を使うから」
『自転車ではないんですか?』
「雨のなか通院するのに自転車は、流石にちょっと…」
『分かりました。では、帰りを待ちます』
「うん。いってきます」
最近、一緒にいる時間が増えたような気がする。
起きてからカミキリ様になった女性…栞奈について調べてみたものの、新聞には情報がなかった。
死亡広告欄にも、だ。
独り寂しく死んでいったのだろうと想像はしていたが、まさかそこまでとは予想していなかった。
…もう少し何かできればよかったのに。
考え事をしていると、人にぶつかってしまう。
「す、すみません」
相手に舌打ちされてしまったが仕方ない。
ただ、こうして苛ついている人間が多く乗る電車はあまり好きになれない。
周りから聞こえてくる色々な音や声に反応しそうになりながら、どんどん具合が悪くなっていく。
…いつものことながら本当に苦手だ。
「はあ…」
行くまでに疲れてしまいそうだと、思わずため息が漏れ出てしまう。
辿り着くまで時間がかかりそうだと思いながら、ただ真っ直ぐ前を見つめた。
「睡眠はしっかりとりましょう」
「すみません。ありがとうございます」
あまり寝ていないことを見抜かれたものの、それ以外に問題点は特にない。
ただ、また電車で帰る気にもなれなくて少し歩くことにした。
「…神社?」
しばらく進むと、見たことがない神社に辿り着いた。
かなり前からあるものなのか、所々道具が錆びついている。
たまたま持っていた掃除道具で少し磨くと、なんとなく汚れを落とせた。
「傘をさしてやるのは、ここまでが限界みたいだ。もう少し綺麗にできたらよかったんだけど…」
それから手を合わせて鳥居をくぐり、バス停までの道を小走りで駆け抜ける。
…さっき俺に話しかけてこようとした仮面をした人は、一体誰だったんだろうと考えながら。
『なんだかお疲れですね』
「途中まで歩いて、バスにいる時間を減らしたから…」
『それは大変でしたね。あの砂利道を歩きとは、体力がないと無理でしょう』
家に帰ると、雨で飛べない瑠璃は部屋で待っていた。
なんだかどっと疲れて、そのままソファーで横になる。
「3時になっても寝てたら起こして。何かあったら何時でも起こして」
『…やっぱりあなたは優しすぎます』
「ありがとう」
そんな話をして目を閉じる。
最近ずっと色々なことがあったからか、深く考えすぎてあまり眠れなかった。
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