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カミキリさんの選択
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「ねえ、最近聞いたんだけどさ…」
「ああ、カミキリさんのこと?なんか本当はいい人らしいね。
その代わり、カミキリさんを傷つけたそのときはパートナーの鋏が仕返しにやってくるらしいよ」
瑠璃がどんなことをしたのか知らないが、噂は瞬く間に元の凶暴性が薄れたものに変わっていった。
これならきっと、誰彼構わず鋏で斬ってしまうことはないだろう。
…彼女の答えは出ただろうか。
「こんばん…」
そこまでしか話せなかったのは、大きな鋏が飛んできたからだ。
『その人は私を傷つけに来たんじゃない。…お願い、止まって』
「…こんばんは」
鋏は彼女の方に戻っていき、そのまま大人しくなった。
『あなたたちのおかげで、鋏さんのことを制御できるようになった。ありがとう』
「いや、俺は特に何もしてないから…」
『噂を考えたのは彼です。私はただ流しただけですから』
瑠璃にも彼女にも優しい言葉をかけてもらえて、それがとても嬉しかった。
誰かの為になれたと実感して、少しだけ照れくさい気持ちにもなる。
たた、ひとつだけ気になっていることがあった。
「ごめん。まだ君の名前を聞いてなかったね」
『…栞奈』
「それじゃあ、栞奈さん。どうするか決めた?」
『…なる。妖が視えるなんて自分だけだと思っていたけど、そうじゃないってちゃんと分かったから。
それから、さん、はいらない』
「分かった。…改めてよろしくね、栞奈」
彼女が選択したなら、それを否定する権利なんて誰にもない。
ただ、ひとつ問題が残る。
「このまま廃墟っていうのもなんだか寂しい気がするから、何か用意できるといいんだけど…」
『あの…』
「どうかした?」
『名前、教えてほしい』
「ごめん。俺の名前は八尋」
『八尋…覚えた』
彼女はしみじみと考えるような仕草を見せた後、ただ笑ってくれた。
その表情は穏やかで、見ているだけで安心する。
「また会いにくるよ」
『…うん。楽しみにしてる』
そのとき風が吹いてきて、前髪が崩れてしまう。
すぐに左眼を隠そうとしたがもう遅い。
「これは、その…」
『…綺麗な瞳』
「え?」
『そういうものを見ていると落ち着く』
「…怖くないの?」
『全然』
その瞬間鏡のようなものが沢山現れて、廃墟にいるはずなのに周りがきらきらと輝きはじめる。
『これ、何?』
『ここが今日からあなたの住まいになります。…小さな箱庭のような結界、とでも説明しておきましょう』
『私の家…なんだかしっくりくる』
「君が想像したものはここでなら具現化される。君は噂そのものだからね。
今日はもう帰るけど、また必ず君に会いに来るよ」
『ありがとう、八尋』
「…それじゃあまた。栞奈」
彼女は生前から、俺と同じように普通の人間が視えない世界を視ていたのかもしれない。
もしかすると、いつかは俺も──
『八尋、怪我は平気ですか?』
「あ、うん。ごめんね、いつまでも心配かけて…。今回のことといい、いつもありがとう。
瑠璃は本当に優しいね」
『優しいのはあなたです』
そんなやりとりをしているうちに朝陽がのぼる。
その光はいつも以上に眩しい気がした。
「ああ、カミキリさんのこと?なんか本当はいい人らしいね。
その代わり、カミキリさんを傷つけたそのときはパートナーの鋏が仕返しにやってくるらしいよ」
瑠璃がどんなことをしたのか知らないが、噂は瞬く間に元の凶暴性が薄れたものに変わっていった。
これならきっと、誰彼構わず鋏で斬ってしまうことはないだろう。
…彼女の答えは出ただろうか。
「こんばん…」
そこまでしか話せなかったのは、大きな鋏が飛んできたからだ。
『その人は私を傷つけに来たんじゃない。…お願い、止まって』
「…こんばんは」
鋏は彼女の方に戻っていき、そのまま大人しくなった。
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「いや、俺は特に何もしてないから…」
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誰かの為になれたと実感して、少しだけ照れくさい気持ちにもなる。
たた、ひとつだけ気になっていることがあった。
「ごめん。まだ君の名前を聞いてなかったね」
『…栞奈』
「それじゃあ、栞奈さん。どうするか決めた?」
『…なる。妖が視えるなんて自分だけだと思っていたけど、そうじゃないってちゃんと分かったから。
それから、さん、はいらない』
「分かった。…改めてよろしくね、栞奈」
彼女が選択したなら、それを否定する権利なんて誰にもない。
ただ、ひとつ問題が残る。
「このまま廃墟っていうのもなんだか寂しい気がするから、何か用意できるといいんだけど…」
『あの…』
「どうかした?」
『名前、教えてほしい』
「ごめん。俺の名前は八尋」
『八尋…覚えた』
彼女はしみじみと考えるような仕草を見せた後、ただ笑ってくれた。
その表情は穏やかで、見ているだけで安心する。
「また会いにくるよ」
『…うん。楽しみにしてる』
そのとき風が吹いてきて、前髪が崩れてしまう。
すぐに左眼を隠そうとしたがもう遅い。
「これは、その…」
『…綺麗な瞳』
「え?」
『そういうものを見ていると落ち着く』
「…怖くないの?」
『全然』
その瞬間鏡のようなものが沢山現れて、廃墟にいるはずなのに周りがきらきらと輝きはじめる。
『これ、何?』
『ここが今日からあなたの住まいになります。…小さな箱庭のような結界、とでも説明しておきましょう』
『私の家…なんだかしっくりくる』
「君が想像したものはここでなら具現化される。君は噂そのものだからね。
今日はもう帰るけど、また必ず君に会いに来るよ」
『ありがとう、八尋』
「…それじゃあまた。栞奈」
彼女は生前から、俺と同じように普通の人間が視えない世界を視ていたのかもしれない。
もしかすると、いつかは俺も──
『八尋、怪我は平気ですか?』
「あ、うん。ごめんね、いつまでも心配かけて…。今回のことといい、いつもありがとう。
瑠璃は本当に優しいね」
『優しいのはあなたです』
そんなやりとりをしているうちに朝陽がのぼる。
その光はいつも以上に眩しい気がした。
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