16 / 163
カミキリさん
しおりを挟む
朝一番、早速記事に載っていた場所に足を運んだ。
「このあたりで出たみたいだけど…」
『随分古い建物ですね』
「建物自体はそんなに古くないんだ。ただ、ちょっと妙な壊れ方をしたって事件になったみたい」
『妙、ですか。もっと具体的に知りたいところですね…』
瑠璃が古い建物と間違えるのも無理はない。
目の前にあるものはたしかに酷い壊れ方をしていて、廃墟という言葉だけでは片づけられない状態になっている。
「…お邪魔します」
なんとなく言っておいた方がいい気がして、ついそんな言葉が口から零れ出る。
建物の中に入るとなんだか空気が淀んでいて、少し進んだだけで息が苦しくなった。
『八尋、少し休みましょう。ここから先はもっと厄介なことになっていそうなので』
「そうなんだ…。分かった、ちょっとだけ休ませてもらうよ。ありがとう」
片翼は瑠璃、もう片翼は純白…やはりその翼に見惚れてしまう。
『そんなに綺麗なものではありませんよ』
「俺からすればすごく綺麗だよ」
瑠璃はあんまり気に入っていないのか、いつも困ったような反応をする。
今日こそは教えてもらえるかもしれないと思ったものの、残念ながらそんなに時間は残されていなかった。
「…瑠璃、これって、」
『伏せてください』
慌てる俺にそう話す瑠璃は、じゃきじゃきと音がする方に目を向けている。
間違いなくそちらの方から飛んできているものは、大きさがばらばらの鋏だ。
「一体何本飛んでくるんだ…」
その大量の塊はまるで意思を持っているかのように襲いかかってきた。
本来なら、このまま撤退するのがいいだろう。
だが、このまま放っておくわけには行かない。
「…瑠璃、君は帰っていいよ。あとは俺が調べておくから、」
『最後まで付き合います。八尋ひとりでは心配ですから。…それに、あなたを置いていくなんて選択肢は私の中にありません』
「…ごめん。ありがとう」
そのまま走って、走って、ひたすら走って…もうどのくらいの鋏を避けたか分からなくなった頃、かなり長い黒髪を揺らす少女の姿が目に入った。
『…どうやら彼女のようですね』
「話、できるかな?」
『頑張ればできるかもしれません』
人と話すのは昔から苦手だ。
それでもどうにか話しかけてみるしかない。
「…こんにちは。あなたが、最近噂になっているカミキリさんですか?」
『私の名前は、そんなものではない…』
「すみません。俺はあなたについて詳しいことを知っているわけじゃなくて…だけど、何か嫌なことがあったんだろうなってことは分かります。
…もしよければ、話してもらえませんか?」
どうにかできるなんて思っていない。
だが、だからといって何もしなくていいとも思えなかった。
『話、聞いてくれるの…?』
「はい。俺でよければちゃんと聞きます」
彼女の瞳はとても寂しそうで、何かを抱えているんじゃないかという仮定に至るまで時間はそんなにかからなかった。
「このあたりで出たみたいだけど…」
『随分古い建物ですね』
「建物自体はそんなに古くないんだ。ただ、ちょっと妙な壊れ方をしたって事件になったみたい」
『妙、ですか。もっと具体的に知りたいところですね…』
瑠璃が古い建物と間違えるのも無理はない。
目の前にあるものはたしかに酷い壊れ方をしていて、廃墟という言葉だけでは片づけられない状態になっている。
「…お邪魔します」
なんとなく言っておいた方がいい気がして、ついそんな言葉が口から零れ出る。
建物の中に入るとなんだか空気が淀んでいて、少し進んだだけで息が苦しくなった。
『八尋、少し休みましょう。ここから先はもっと厄介なことになっていそうなので』
「そうなんだ…。分かった、ちょっとだけ休ませてもらうよ。ありがとう」
片翼は瑠璃、もう片翼は純白…やはりその翼に見惚れてしまう。
『そんなに綺麗なものではありませんよ』
「俺からすればすごく綺麗だよ」
瑠璃はあんまり気に入っていないのか、いつも困ったような反応をする。
今日こそは教えてもらえるかもしれないと思ったものの、残念ながらそんなに時間は残されていなかった。
「…瑠璃、これって、」
『伏せてください』
慌てる俺にそう話す瑠璃は、じゃきじゃきと音がする方に目を向けている。
間違いなくそちらの方から飛んできているものは、大きさがばらばらの鋏だ。
「一体何本飛んでくるんだ…」
その大量の塊はまるで意思を持っているかのように襲いかかってきた。
本来なら、このまま撤退するのがいいだろう。
だが、このまま放っておくわけには行かない。
「…瑠璃、君は帰っていいよ。あとは俺が調べておくから、」
『最後まで付き合います。八尋ひとりでは心配ですから。…それに、あなたを置いていくなんて選択肢は私の中にありません』
「…ごめん。ありがとう」
そのまま走って、走って、ひたすら走って…もうどのくらいの鋏を避けたか分からなくなった頃、かなり長い黒髪を揺らす少女の姿が目に入った。
『…どうやら彼女のようですね』
「話、できるかな?」
『頑張ればできるかもしれません』
人と話すのは昔から苦手だ。
それでもどうにか話しかけてみるしかない。
「…こんにちは。あなたが、最近噂になっているカミキリさんですか?」
『私の名前は、そんなものではない…』
「すみません。俺はあなたについて詳しいことを知っているわけじゃなくて…だけど、何か嫌なことがあったんだろうなってことは分かります。
…もしよければ、話してもらえませんか?」
どうにかできるなんて思っていない。
だが、だからといって何もしなくていいとも思えなかった。
『話、聞いてくれるの…?』
「はい。俺でよければちゃんと聞きます」
彼女の瞳はとても寂しそうで、何かを抱えているんじゃないかという仮定に至るまで時間はそんなにかからなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
帝国海軍の猫大佐
鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※
ときはの代 陰陽師守護紀
naccchi
ファンタジー
記憶をなくした少女が出会ったのは、両親を妖に殺され復讐を誓った陰陽師の少年だった。
なぜ記憶がないのか、自分はいったい何者なのか。
自分を知るために、陰陽師たちと行動を共にするうち、人と妖のココロに触れていく。
・・・人と妖のはざまで、少女の物語は途方もない長い時間、紡がれてきたことを知る。
◆◆◆
第零章は人物紹介、イラスト、設定等、本編開始前のプロローグです。
ちょこちょこ編集予定の倉庫のようなものだと思っていただければ。
ざっくり概要ですが、若干のネタバレあり、自前イラストを載せていますので、苦手な方はご注意ください。
本編自体は第一章から開始です。

親友は砂漠の果ての魔人
瑞樹
ファンタジー
ギター弾き神谷の部屋の押し入れが何故か魔導書ネクロノミコンの世界とつながってしまった。
1300年前に凄惨な切り落としの刑を受けたアラブの魔人アルフレッド・アルハザードが、神谷の部屋に訪れるようになるが……。
失われたアルハザードの体を元に戻すために、二人の異世界への旅が始まる。
ムー大陸編は毎日昼の12時10分に更新しています。

ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
大衆娯楽
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
※7月22日第2章完結。
※カクヨムにも投稿しています。
【完結】パンでパンでポン!!〜付喪神と作る美味しいパンたち〜
櫛田こころ
キャラ文芸
水乃町のパン屋『ルーブル』。
そこがあたし、水城桜乃(みずき さくの)のお家。
あたしの……大事な場所。
お父さんお母さんが、頑張ってパンを作って。たくさんのお客さん達に売っている場所。
あたしが七歳になって、お母さんが男の子を産んだの。大事な赤ちゃんだけど……お母さんがあたしに構ってくれないのが、だんだんと悲しくなって。
ある日、大っきなケンカをしちゃって。謝るのも嫌で……蔵に行ったら、出会ったの。
あたしが、保育園の時に遊んでいた……ままごとキッチン。
それが光って出会えたのが、『つくもがみ』の美濃さん。
関西弁って話し方をする女の人の見た目だけど、人間じゃないんだって。
あたしに……お父さん達ががんばって作っている『パン』がどれくらい大変なのかを……ままごとキッチンを使って教えてくれることになったの!!
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる