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カミキリさん
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朝一番、早速記事に載っていた場所に足を運んだ。
「このあたりで出たみたいだけど…」
『随分古い建物ですね』
「建物自体はそんなに古くないんだ。ただ、ちょっと妙な壊れ方をしたって事件になったみたい」
『妙、ですか。もっと具体的に知りたいところですね…』
瑠璃が古い建物と間違えるのも無理はない。
目の前にあるものはたしかに酷い壊れ方をしていて、廃墟という言葉だけでは片づけられない状態になっている。
「…お邪魔します」
なんとなく言っておいた方がいい気がして、ついそんな言葉が口から零れ出る。
建物の中に入るとなんだか空気が淀んでいて、少し進んだだけで息が苦しくなった。
『八尋、少し休みましょう。ここから先はもっと厄介なことになっていそうなので』
「そうなんだ…。分かった、ちょっとだけ休ませてもらうよ。ありがとう」
片翼は瑠璃、もう片翼は純白…やはりその翼に見惚れてしまう。
『そんなに綺麗なものではありませんよ』
「俺からすればすごく綺麗だよ」
瑠璃はあんまり気に入っていないのか、いつも困ったような反応をする。
今日こそは教えてもらえるかもしれないと思ったものの、残念ながらそんなに時間は残されていなかった。
「…瑠璃、これって、」
『伏せてください』
慌てる俺にそう話す瑠璃は、じゃきじゃきと音がする方に目を向けている。
間違いなくそちらの方から飛んできているものは、大きさがばらばらの鋏だ。
「一体何本飛んでくるんだ…」
その大量の塊はまるで意思を持っているかのように襲いかかってきた。
本来なら、このまま撤退するのがいいだろう。
だが、このまま放っておくわけには行かない。
「…瑠璃、君は帰っていいよ。あとは俺が調べておくから、」
『最後まで付き合います。八尋ひとりでは心配ですから。…それに、あなたを置いていくなんて選択肢は私の中にありません』
「…ごめん。ありがとう」
そのまま走って、走って、ひたすら走って…もうどのくらいの鋏を避けたか分からなくなった頃、かなり長い黒髪を揺らす少女の姿が目に入った。
『…どうやら彼女のようですね』
「話、できるかな?」
『頑張ればできるかもしれません』
人と話すのは昔から苦手だ。
それでもどうにか話しかけてみるしかない。
「…こんにちは。あなたが、最近噂になっているカミキリさんですか?」
『私の名前は、そんなものではない…』
「すみません。俺はあなたについて詳しいことを知っているわけじゃなくて…だけど、何か嫌なことがあったんだろうなってことは分かります。
…もしよければ、話してもらえませんか?」
どうにかできるなんて思っていない。
だが、だからといって何もしなくていいとも思えなかった。
『話、聞いてくれるの…?』
「はい。俺でよければちゃんと聞きます」
彼女の瞳はとても寂しそうで、何かを抱えているんじゃないかという仮定に至るまで時間はそんなにかからなかった。
「このあたりで出たみたいだけど…」
『随分古い建物ですね』
「建物自体はそんなに古くないんだ。ただ、ちょっと妙な壊れ方をしたって事件になったみたい」
『妙、ですか。もっと具体的に知りたいところですね…』
瑠璃が古い建物と間違えるのも無理はない。
目の前にあるものはたしかに酷い壊れ方をしていて、廃墟という言葉だけでは片づけられない状態になっている。
「…お邪魔します」
なんとなく言っておいた方がいい気がして、ついそんな言葉が口から零れ出る。
建物の中に入るとなんだか空気が淀んでいて、少し進んだだけで息が苦しくなった。
『八尋、少し休みましょう。ここから先はもっと厄介なことになっていそうなので』
「そうなんだ…。分かった、ちょっとだけ休ませてもらうよ。ありがとう」
片翼は瑠璃、もう片翼は純白…やはりその翼に見惚れてしまう。
『そんなに綺麗なものではありませんよ』
「俺からすればすごく綺麗だよ」
瑠璃はあんまり気に入っていないのか、いつも困ったような反応をする。
今日こそは教えてもらえるかもしれないと思ったものの、残念ながらそんなに時間は残されていなかった。
「…瑠璃、これって、」
『伏せてください』
慌てる俺にそう話す瑠璃は、じゃきじゃきと音がする方に目を向けている。
間違いなくそちらの方から飛んできているものは、大きさがばらばらの鋏だ。
「一体何本飛んでくるんだ…」
その大量の塊はまるで意思を持っているかのように襲いかかってきた。
本来なら、このまま撤退するのがいいだろう。
だが、このまま放っておくわけには行かない。
「…瑠璃、君は帰っていいよ。あとは俺が調べておくから、」
『最後まで付き合います。八尋ひとりでは心配ですから。…それに、あなたを置いていくなんて選択肢は私の中にありません』
「…ごめん。ありがとう」
そのまま走って、走って、ひたすら走って…もうどのくらいの鋏を避けたか分からなくなった頃、かなり長い黒髪を揺らす少女の姿が目に入った。
『…どうやら彼女のようですね』
「話、できるかな?」
『頑張ればできるかもしれません』
人と話すのは昔から苦手だ。
それでもどうにか話しかけてみるしかない。
「…こんにちは。あなたが、最近噂になっているカミキリさんですか?」
『私の名前は、そんなものではない…』
「すみません。俺はあなたについて詳しいことを知っているわけじゃなくて…だけど、何か嫌なことがあったんだろうなってことは分かります。
…もしよければ、話してもらえませんか?」
どうにかできるなんて思っていない。
だが、だからといって何もしなくていいとも思えなかった。
『話、聞いてくれるの…?』
「はい。俺でよければちゃんと聞きます」
彼女の瞳はとても寂しそうで、何かを抱えているんじゃないかという仮定に至るまで時間はそんなにかからなかった。
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