カルム

黒蝶

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流行りの噂

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「ねえ、こんな話知ってる?」
相変わらず夜の書店には噂好きが多いらしい。
だが、俺はこの小さな町が嫌いじゃないし、大切な想い出が詰まっている。
「翡翠君、翡翠君いないかな…?」
「…八尋君、店長が呼んでるよ」
「ああ、すみません。すぐ行きます」
あれから中津先輩とは、何故か少し会話が増えたような気がする。
正確には、いつも話しかけてもらっている…というべきか。
『今夜も随分構われていましたね』
「そんなことないと思うけど…まあ、たしかに話しかけられる回数は増えた気がする」
帰り道、いつものように瑠璃を肩に留まらせて家路を急ぐ。
街灯が少なければ髪で左眼を隠す必要もない。
それに、これだけ星が沢山見られればそれだけで心が軽くなる。
「…今夜はここから見ようかな」
『もう海へは行かないんですか?』
「寒い日が続くから、しばらくは行かないかもしれない」
『…そうですか』
誰もいなくなった階段に、誰もいなくなった公園…やはり少し寂しい気もする。
『そういえば、最近人間たちの間で噂になっている厄介なことがあります』
「厄介?」
『噂はあくまで噂だからいいのです。…それが真実になってしまわないうちは、ね』
「なんだか不穏なことを言うね。まさかとは思うけど、噂が具現化して事件になりつつある、とか…」
もしそうだとすればかなり危険だ。
見えない人たちは無駄に恐れるだろうし、視える人たちは真っ先に狙われる。
「それで、どんな噂なの?」
『カミキリさんというものを知っていますか?』
「なんとなく聞いたことがある程度だけど…もしかして、本当にいるの?」
神様さえも斬れてしまう鋏を持った化け物がいて、見つかれば髪を切られてしまうか食べられてしまう…たしかそんな話だ。
『神殺しというのは非常に強い力を持っています。通常は子どもたちが悪いことをしないように使われる話だったようですが…』
「最近、本当におこってる?」
『どうやらそのようです』
「…たまたま波長が合っちゃったのかな」
取り憑かれた人間なのか、それとも噂から生まれた妖なのか、皆目見当もつかない。
「話が通じる相手だと思う?」
『実物に会ってみないことには、なんとも言えません』
「そうだよな…。あ、だけど最近髪を切られた事件ならあったはずだ。変だと思って、スクラップ帳に記事を貼りつけてる」
『…相変わらず優しいんですね。放っておけばいいものを、あなたはいつも手を伸ばす。私にはない発想です』
「褒め言葉として受け取っておくよ」
もしも噂が違う方向に広まったなら、噂を修正した方がいい。
だが、もし相手に何か事情があるなら…。
「明日この近くに行ってみようと思う。もしかしたらいるかもしれないしね」
突然髪だけ切られた少女という見出しの頁を開き、記事にさっと目を通す。
…もっと早くできることがあったはずだと後悔しながら。
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