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親の愛
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ああ、そうか。だからあの人は顔色が悪いんだ。
そう理解したときには遅かった。
「ねえ、誰に話しかけたの?」
「君は…」
「陽」
「陽君は、どのあたりで転んだの?」
「のぼってたら足を何かに引っ張られて…鳴は僕より体が小さいから、頭を打たないようにするのでせいいっぱいだったんだ。
だけど、誰も信じてくれなくて…」
普通の大人なら信じないだろう。
勘違いだとか記憶があやふやになっているとか、そういうまとめ方をする。
…本当はそっちが正解なんだと思うが、俺はどうしても正しいと思えない。
「辛いことを思い出させてごめんね。教えてくれてありがとう」
「今夜も本を買いに行くね!」
陽君が遠ざかっていくのを見送ってから、残った女性に声をかける。
「…ふたりを転ばせたのはあなたですか?」
『まさか本当に視える人がいるなんて…』
「答えてください」
彼女はまるで遠い日を思い出すような目をしている。
それだけ辛いことがあったのか、或いはあの子たちに対して何か感情を抱いているのか。
答えを待っていると、やがて女性は口を開いた。
『怪我をさせたかったわけではなかったの。ただ、あの上にいるものから護りたかった。
でも、やっぱり私では駄目ね。…母親失格だわ」
「あの子の、お母さんですか?」
『私は小さい頃から体が弱くて、結局最後の約束も護れないまま…。
あなた、あれが見える?もう3段くらいのぼったところからなら視えるはずよ」
言われるがままのぼってみると、そこには黒くて大きい何かがけたけたと笑っていた。
『私はあの子たちからあまり離れられないの。お願い、無力な私の代わりに、あれを──」
『…守護霊というものはとても不便ですね』
「瑠璃…ということは、あの人が母親というのは嘘じゃない?」
小鳥は肩に留まり、何も言わずに側にいてくれる。
子どもを護りたかったから足を引っ張った。
だが、勢いが強すぎたあまり転ばせてしまった…ということだろうか。
階段から離れたところで瑠璃と話を進める。
「俺には祓う為の知識がない。だけど、あれと話ができるかな…」
『怪我人が何人になろうがあなたに直接は関係ありません。放っておいても問題ないのではありませんか?』
「…瑠璃って時々怖いこと言うよね。駄目だよ、あの人に頼まれちゃったから。
それに、怪我をするのはやっぱり痛いから」
まるでごみを見るような目を向けられた日々を忘れたわけではない。
だからこそ、どうしても頼ってきてくれた相手の役に立ちたいんだ。
『…仕方がありません。最後までつきあいます』
「ありがとう」
自分が死んでも子どもへの愛を貫いている。
そんな姿を目の当たりにして、羨ましかったのかもしれない。
ただ、今は自分にできることをするだけだ。
そう理解したときには遅かった。
「ねえ、誰に話しかけたの?」
「君は…」
「陽」
「陽君は、どのあたりで転んだの?」
「のぼってたら足を何かに引っ張られて…鳴は僕より体が小さいから、頭を打たないようにするのでせいいっぱいだったんだ。
だけど、誰も信じてくれなくて…」
普通の大人なら信じないだろう。
勘違いだとか記憶があやふやになっているとか、そういうまとめ方をする。
…本当はそっちが正解なんだと思うが、俺はどうしても正しいと思えない。
「辛いことを思い出させてごめんね。教えてくれてありがとう」
「今夜も本を買いに行くね!」
陽君が遠ざかっていくのを見送ってから、残った女性に声をかける。
「…ふたりを転ばせたのはあなたですか?」
『まさか本当に視える人がいるなんて…』
「答えてください」
彼女はまるで遠い日を思い出すような目をしている。
それだけ辛いことがあったのか、或いはあの子たちに対して何か感情を抱いているのか。
答えを待っていると、やがて女性は口を開いた。
『怪我をさせたかったわけではなかったの。ただ、あの上にいるものから護りたかった。
でも、やっぱり私では駄目ね。…母親失格だわ」
「あの子の、お母さんですか?」
『私は小さい頃から体が弱くて、結局最後の約束も護れないまま…。
あなた、あれが見える?もう3段くらいのぼったところからなら視えるはずよ」
言われるがままのぼってみると、そこには黒くて大きい何かがけたけたと笑っていた。
『私はあの子たちからあまり離れられないの。お願い、無力な私の代わりに、あれを──」
『…守護霊というものはとても不便ですね』
「瑠璃…ということは、あの人が母親というのは嘘じゃない?」
小鳥は肩に留まり、何も言わずに側にいてくれる。
子どもを護りたかったから足を引っ張った。
だが、勢いが強すぎたあまり転ばせてしまった…ということだろうか。
階段から離れたところで瑠璃と話を進める。
「俺には祓う為の知識がない。だけど、あれと話ができるかな…」
『怪我人が何人になろうがあなたに直接は関係ありません。放っておいても問題ないのではありませんか?』
「…瑠璃って時々怖いこと言うよね。駄目だよ、あの人に頼まれちゃったから。
それに、怪我をするのはやっぱり痛いから」
まるでごみを見るような目を向けられた日々を忘れたわけではない。
だからこそ、どうしても頼ってきてくれた相手の役に立ちたいんだ。
『…仕方がありません。最後までつきあいます』
「ありがとう」
自分が死んでも子どもへの愛を貫いている。
そんな姿を目の当たりにして、羨ましかったのかもしれない。
ただ、今は自分にできることをするだけだ。
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