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転ぶ階段
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『何もないところで転ぶ人間が増えているのは知っていますか?』
「いや、分からないな…。ただ普通に転んでいるわけじゃないってことか」
『たまたま同じ場所で同じように転んで、たまたま同じ場所を怪我する確率ってどれくらいだと思いますか?』
いつの間にそんなことがおきていたのか。
急ぎ足で帰っていたが、やがて歩調を緩めた。
「ごめん。寒そうだからすぐ帰ろうと思ったんだけど、なんだか足が重いんだ。…そのまま肩乗ってて」
『寒いのが苦手なだけなので、そんなに気にしないでください』
「それでもやっぱり、風邪を引かないか心配だよ。引かないっていうのはこの前聞いたけど、それでもやっぱり体を冷やさないに越したことはないと思う」
瑠璃にマフラーをかけると、少しくすぐったそうにしながら首にもたれかかってくる。
どうやら相当待たせてしまったようだ。
「調べに行くのは明日にして、今夜は家で体を温めていって。
…事件の話もしながら、他の話も聞かせてほしい」
『やっぱりあなたは変わっていますね』
「そんなことないと思うけど…」
それから部屋で話を聞いていると、どうもおかしな点があることに気づく。
瑠璃の話によれば、もう何人もが同じ階段の同じ段数から落ちて怪我をしているらしい。
だが、落ち方が少し不自然なのだ、
「子どもたちだけ落ち方が変だ」
『身長が小さくて、背中を押せなかっただけなのではありませんか?』
「それなら頭を打って大けがをしているはず。だけど、そこまでいってないなら…まるでその子たちを護る為に転ばせたみたいじゃない?」
そもそも、転ぶときに足から落ちたというのが珍しい。
彼女の話を聞いていると、他の人たちは顔や頭に怪我をしているというのだから背中を押されたというのも頷けるが、子どもたちは足の捻挫や腕を傷める程度だったようだ。
「腕の怪我、か」
『思い当たることでもありましたか?』
「いや、まだ確認しないと分からない」
『謎が解けるのが早いですね、名探偵』
「俺は別に名探偵なんかじゃない。それで、もし突き飛ばしてる相手を見つけたらどうするの?」
『それはそのとき考えます。なんとか説得できそうならやってほしいところですし…』
言葉が通じる相手かどうかも分からない。
それでも、視えるならやっぱり放っておくわけにはいかなかった。
「ここは…」
「あ、昨日の店員さん」
石段を見上げていると、後ろから声をかけられる。
その子の後ろには、昨日まで姿が見えなかった人がいた。
「こんにちは。昨日の絵本、あれで大丈夫だったかな?」
「妹が喜んでくれたよ。ありがとう」
「それはよかった」
訊いていいものか戸惑ったものの、こういったことは本人に確認するしかない。
「実はある人に頼まれて、この階段から落ちて怪我をした人たちから話を聞いているんだ」
「…それ、僕と妹だよ。妹は足を怪我して、学校にも行けてないんだ。他にもいるの?」
「うん。だから、原因を調べてみようと思って…」
肌が青白い少し具合が悪そうな女性が近づいてきているのが見えて、取り敢えず頭を下げる。
すると、隣にいた男の子は不思議そうに首を傾げた。
「お兄さん、何に頭を下げたの?」
「いや、分からないな…。ただ普通に転んでいるわけじゃないってことか」
『たまたま同じ場所で同じように転んで、たまたま同じ場所を怪我する確率ってどれくらいだと思いますか?』
いつの間にそんなことがおきていたのか。
急ぎ足で帰っていたが、やがて歩調を緩めた。
「ごめん。寒そうだからすぐ帰ろうと思ったんだけど、なんだか足が重いんだ。…そのまま肩乗ってて」
『寒いのが苦手なだけなので、そんなに気にしないでください』
「それでもやっぱり、風邪を引かないか心配だよ。引かないっていうのはこの前聞いたけど、それでもやっぱり体を冷やさないに越したことはないと思う」
瑠璃にマフラーをかけると、少しくすぐったそうにしながら首にもたれかかってくる。
どうやら相当待たせてしまったようだ。
「調べに行くのは明日にして、今夜は家で体を温めていって。
…事件の話もしながら、他の話も聞かせてほしい」
『やっぱりあなたは変わっていますね』
「そんなことないと思うけど…」
それから部屋で話を聞いていると、どうもおかしな点があることに気づく。
瑠璃の話によれば、もう何人もが同じ階段の同じ段数から落ちて怪我をしているらしい。
だが、落ち方が少し不自然なのだ、
「子どもたちだけ落ち方が変だ」
『身長が小さくて、背中を押せなかっただけなのではありませんか?』
「それなら頭を打って大けがをしているはず。だけど、そこまでいってないなら…まるでその子たちを護る為に転ばせたみたいじゃない?」
そもそも、転ぶときに足から落ちたというのが珍しい。
彼女の話を聞いていると、他の人たちは顔や頭に怪我をしているというのだから背中を押されたというのも頷けるが、子どもたちは足の捻挫や腕を傷める程度だったようだ。
「腕の怪我、か」
『思い当たることでもありましたか?』
「いや、まだ確認しないと分からない」
『謎が解けるのが早いですね、名探偵』
「俺は別に名探偵なんかじゃない。それで、もし突き飛ばしてる相手を見つけたらどうするの?」
『それはそのとき考えます。なんとか説得できそうならやってほしいところですし…』
言葉が通じる相手かどうかも分からない。
それでも、視えるならやっぱり放っておくわけにはいかなかった。
「ここは…」
「あ、昨日の店員さん」
石段を見上げていると、後ろから声をかけられる。
その子の後ろには、昨日まで姿が見えなかった人がいた。
「こんにちは。昨日の絵本、あれで大丈夫だったかな?」
「妹が喜んでくれたよ。ありがとう」
「それはよかった」
訊いていいものか戸惑ったものの、こういったことは本人に確認するしかない。
「実はある人に頼まれて、この階段から落ちて怪我をした人たちから話を聞いているんだ」
「…それ、僕と妹だよ。妹は足を怪我して、学校にも行けてないんだ。他にもいるの?」
「うん。だから、原因を調べてみようと思って…」
肌が青白い少し具合が悪そうな女性が近づいてきているのが見えて、取り敢えず頭を下げる。
すると、隣にいた男の子は不思議そうに首を傾げた。
「お兄さん、何に頭を下げたの?」
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