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詰まっていたもの
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ようやく見た目がほぼ元に戻った頃、誰かの足音が聞こえた。
『お、今日はいつもより早かったみたいだな』
「早かった…?」
『ほら、こっちに隠れてろ』
遠くの景色を眺めるようにぼんやり見ていると、1人の女性が立っていた。
「…神様、私、しばらくここに来られなくなるかもしれない。足の手術をしないといけなくて…。
おばあちゃんの具合もあんまりよくないの。もしかしたら薬を換えるかもって言ってた」
涙を流しながら手を合わせた女性は、その後すぐに祠を拭きはじめた。
彼女が掃除しているから綺麗なのだ。
『掃除は、彼女が来る前は幸恵さんという人がやってくれていたんだ』
「その人が、彼女が話していたおばあさん?」
『忘れ去られた場所にいる俺に、いつも花を供えてくれるいい人たちだ。
だが、俺の力では彼女たちの病を救うことすらできるかどうか…』
「そう言いつつ、目が諦めてないよ」
木霊の目はどこまでも真っ直ぐで、それには揺るぎない決意がたしかにこめられていた。
『…そうかもしれない。はじめから無理だと諦めるのは、どうも性に合わないらしい』
「俺に何か手伝えることはある?」
『最後まで舞を見届けてほしい、というくらいだ。頼めるか?』
「勿論」
小さな扉の中には沢山の道具が詰まっていたらしく、出すのに苦労しているようだった。
だが、神様の持ち物なら下手に触ることはできない。
「…すごい」
『思わず息を呑んでしまうような美しさがありますね』
「そうだね」
その神様は懸命に舞っていて、見ているだけで心が温かくなる。
瑠璃も心が落ち着くのか、ただ黙ってじっと見つめていた。
『…どうだった?』
「言葉で言い表せないくらい綺麗で、ずっと見ていたいくらいだった」
『そうか。それなら満足だな』
「…またここに来てもいい?」
『勿論だ。困ったことがあればできる限り力になろう』
「ありがとう」
そんな話をして、家に向かって歩き出す。
肩の上にのったままの小鳥に話しかけながら、少しずつ降りていく。
「…木霊は、ずっと人の願いを叶えてきたのかな」
『どうでしょう?私には分かりませんが、その可能性がないとは言い切れません。
ただ、祠が破壊された影響もあって彼の力は弱っています。昔はもっと力があったのでしょうね』
「今度お見舞いに行こう」
もしかすると、次に向かったときは供えられているものが何ひとつないかもしれない。
だから今度は花束を持って会いに行こう。
…自分のことが視えなかったとしても、毎日会いに来てくれる人たちの為にと努力した神様のところに。
左眼を隠しながら、そのまま自転車で坂を下っていった。
『お、今日はいつもより早かったみたいだな』
「早かった…?」
『ほら、こっちに隠れてろ』
遠くの景色を眺めるようにぼんやり見ていると、1人の女性が立っていた。
「…神様、私、しばらくここに来られなくなるかもしれない。足の手術をしないといけなくて…。
おばあちゃんの具合もあんまりよくないの。もしかしたら薬を換えるかもって言ってた」
涙を流しながら手を合わせた女性は、その後すぐに祠を拭きはじめた。
彼女が掃除しているから綺麗なのだ。
『掃除は、彼女が来る前は幸恵さんという人がやってくれていたんだ』
「その人が、彼女が話していたおばあさん?」
『忘れ去られた場所にいる俺に、いつも花を供えてくれるいい人たちだ。
だが、俺の力では彼女たちの病を救うことすらできるかどうか…』
「そう言いつつ、目が諦めてないよ」
木霊の目はどこまでも真っ直ぐで、それには揺るぎない決意がたしかにこめられていた。
『…そうかもしれない。はじめから無理だと諦めるのは、どうも性に合わないらしい』
「俺に何か手伝えることはある?」
『最後まで舞を見届けてほしい、というくらいだ。頼めるか?』
「勿論」
小さな扉の中には沢山の道具が詰まっていたらしく、出すのに苦労しているようだった。
だが、神様の持ち物なら下手に触ることはできない。
「…すごい」
『思わず息を呑んでしまうような美しさがありますね』
「そうだね」
その神様は懸命に舞っていて、見ているだけで心が温かくなる。
瑠璃も心が落ち着くのか、ただ黙ってじっと見つめていた。
『…どうだった?』
「言葉で言い表せないくらい綺麗で、ずっと見ていたいくらいだった」
『そうか。それなら満足だな』
「…またここに来てもいい?」
『勿論だ。困ったことがあればできる限り力になろう』
「ありがとう」
そんな話をして、家に向かって歩き出す。
肩の上にのったままの小鳥に話しかけながら、少しずつ降りていく。
「…木霊は、ずっと人の願いを叶えてきたのかな」
『どうでしょう?私には分かりませんが、その可能性がないとは言い切れません。
ただ、祠が破壊された影響もあって彼の力は弱っています。昔はもっと力があったのでしょうね』
「今度お見舞いに行こう」
もしかすると、次に向かったときは供えられているものが何ひとつないかもしれない。
だから今度は花束を持って会いに行こう。
…自分のことが視えなかったとしても、毎日会いに来てくれる人たちの為にと努力した神様のところに。
左眼を隠しながら、そのまま自転車で坂を下っていった。
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