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息抜き
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いつも通っているカフェの席に着いて、すぐに目が隠れるように髪を整える。
「いらっしゃいませ」
なんだか店員さんの元気がないような気がするが、何かあったのだろうか。
「…千夜、平気か?」
「うん。真昼は?」
「俺は、別に。そんなに眠くないし、おまえは無理しないようにな」
このふたりは恋人同士で働いているらしく、いつ見ても微笑ましい。
だからだろうか。…時折、この場所にはふたりには視えていないであろうお客さんが来ている。
「…ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
今夜はあまり長居できなかった。
子どもの泣き声に楽しそうに話すふたり…だが、あの様子なら他の人たちには見えていない。
また自分にしか視えない世界だったのかと思うと、少しだけ悲しくなる。
ただ、慣れというものは恐ろしく、昔ほど嫌な思いはしていない。
見分けがつかないと不自由さは感じるものの、孤独感はなくなっていた。
『今夜は早かったんですね』
「瑠璃…もしかして、ずっと待ってたの?」
『今夜は沢山星が降ってくる予感がするのです』
「流星群か、知らなかったな…」
『…その翡翠色の瞳のこと、ばれてしまったんですか?』
「いや、全然。いつも隠しているし、眼鏡よりこっちの方がやりやすい」
光の屈折を利用した眼鏡にただの眼帯…色々試してはみたものの、眼鏡は見る角度によって全く違う色になってしまうこと、眼帯は周囲に心配をかけてしまうことから今のやり方になった。
「さっきみたいに急な風が吹いてくると、どうしても対処できないけどね」
『…人間とは難儀ですね』
「そうかな?結構単純だと思うよ」
話をしているうちに、いつも星を眺めている海に到着した。
「そろそろ別の場所を探さないといけないかもしれない」
『寒くなってきましたからね…』
「…きた」
ひとつ、またひとつと流れるものを見つめていると、嫌なことも全部忘れられる。
『カラコン入れてるんだろ?すぐ外しなさい』
『違います!元からこういう色で、』
『嘘を吐くな!』
…大人はいつだって信じてくれなかった。
それが辛いと思った時期もあったが、今は最小限の生活だけできていれば問題ないのでそれでいい。
結局赤ん坊の頃の写真を提出して信じてもらえたものの、そうすると今度は気味悪がられるようになるまでに時間はかからなかった。
『…昔のことを思い出していたんですか?』
「まあ、ちょっとね」
『八尋はあの頃から変わりませんよ』
「…いや、少しは変わったかもしれない。というか、ちょっとは大人になったと思いたい」
『ああ、それならなっていると思いますよ』
羽を休めたかったのか、肩の上に止まられる。
それを嫌だと思ったことはなく、寧ろ心地いい。
いつも空を見ていると沢山の星たちは、嫌なことを忘れさせてくれる。
「…もうそろそろ行こうか」
体を壊してしまったら大変だし、瑠璃は結構寒がりだ。
だが、いつも俺に最後までつきあってくれている。
それはきっと、彼女なりの優しさなのだろう。
「いらっしゃいませ」
なんだか店員さんの元気がないような気がするが、何かあったのだろうか。
「…千夜、平気か?」
「うん。真昼は?」
「俺は、別に。そんなに眠くないし、おまえは無理しないようにな」
このふたりは恋人同士で働いているらしく、いつ見ても微笑ましい。
だからだろうか。…時折、この場所にはふたりには視えていないであろうお客さんが来ている。
「…ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
今夜はあまり長居できなかった。
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また自分にしか視えない世界だったのかと思うと、少しだけ悲しくなる。
ただ、慣れというものは恐ろしく、昔ほど嫌な思いはしていない。
見分けがつかないと不自由さは感じるものの、孤独感はなくなっていた。
『今夜は早かったんですね』
「瑠璃…もしかして、ずっと待ってたの?」
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「流星群か、知らなかったな…」
『…その翡翠色の瞳のこと、ばれてしまったんですか?』
「いや、全然。いつも隠しているし、眼鏡よりこっちの方がやりやすい」
光の屈折を利用した眼鏡にただの眼帯…色々試してはみたものの、眼鏡は見る角度によって全く違う色になってしまうこと、眼帯は周囲に心配をかけてしまうことから今のやり方になった。
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『…人間とは難儀ですね』
「そうかな?結構単純だと思うよ」
話をしているうちに、いつも星を眺めている海に到着した。
「そろそろ別の場所を探さないといけないかもしれない」
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「…きた」
ひとつ、またひとつと流れるものを見つめていると、嫌なことも全部忘れられる。
『カラコン入れてるんだろ?すぐ外しなさい』
『違います!元からこういう色で、』
『嘘を吐くな!』
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「…もうそろそろ行こうか」
体を壊してしまったら大変だし、瑠璃は結構寒がりだ。
だが、いつも俺に最後までつきあってくれている。
それはきっと、彼女なりの優しさなのだろう。
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