6 / 163
息抜き
しおりを挟む
いつも通っているカフェの席に着いて、すぐに目が隠れるように髪を整える。
「いらっしゃいませ」
なんだか店員さんの元気がないような気がするが、何かあったのだろうか。
「…千夜、平気か?」
「うん。真昼は?」
「俺は、別に。そんなに眠くないし、おまえは無理しないようにな」
このふたりは恋人同士で働いているらしく、いつ見ても微笑ましい。
だからだろうか。…時折、この場所にはふたりには視えていないであろうお客さんが来ている。
「…ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
今夜はあまり長居できなかった。
子どもの泣き声に楽しそうに話すふたり…だが、あの様子なら他の人たちには見えていない。
また自分にしか視えない世界だったのかと思うと、少しだけ悲しくなる。
ただ、慣れというものは恐ろしく、昔ほど嫌な思いはしていない。
見分けがつかないと不自由さは感じるものの、孤独感はなくなっていた。
『今夜は早かったんですね』
「瑠璃…もしかして、ずっと待ってたの?」
『今夜は沢山星が降ってくる予感がするのです』
「流星群か、知らなかったな…」
『…その翡翠色の瞳のこと、ばれてしまったんですか?』
「いや、全然。いつも隠しているし、眼鏡よりこっちの方がやりやすい」
光の屈折を利用した眼鏡にただの眼帯…色々試してはみたものの、眼鏡は見る角度によって全く違う色になってしまうこと、眼帯は周囲に心配をかけてしまうことから今のやり方になった。
「さっきみたいに急な風が吹いてくると、どうしても対処できないけどね」
『…人間とは難儀ですね』
「そうかな?結構単純だと思うよ」
話をしているうちに、いつも星を眺めている海に到着した。
「そろそろ別の場所を探さないといけないかもしれない」
『寒くなってきましたからね…』
「…きた」
ひとつ、またひとつと流れるものを見つめていると、嫌なことも全部忘れられる。
『カラコン入れてるんだろ?すぐ外しなさい』
『違います!元からこういう色で、』
『嘘を吐くな!』
…大人はいつだって信じてくれなかった。
それが辛いと思った時期もあったが、今は最小限の生活だけできていれば問題ないのでそれでいい。
結局赤ん坊の頃の写真を提出して信じてもらえたものの、そうすると今度は気味悪がられるようになるまでに時間はかからなかった。
『…昔のことを思い出していたんですか?』
「まあ、ちょっとね」
『八尋はあの頃から変わりませんよ』
「…いや、少しは変わったかもしれない。というか、ちょっとは大人になったと思いたい」
『ああ、それならなっていると思いますよ』
羽を休めたかったのか、肩の上に止まられる。
それを嫌だと思ったことはなく、寧ろ心地いい。
いつも空を見ていると沢山の星たちは、嫌なことを忘れさせてくれる。
「…もうそろそろ行こうか」
体を壊してしまったら大変だし、瑠璃は結構寒がりだ。
だが、いつも俺に最後までつきあってくれている。
それはきっと、彼女なりの優しさなのだろう。
「いらっしゃいませ」
なんだか店員さんの元気がないような気がするが、何かあったのだろうか。
「…千夜、平気か?」
「うん。真昼は?」
「俺は、別に。そんなに眠くないし、おまえは無理しないようにな」
このふたりは恋人同士で働いているらしく、いつ見ても微笑ましい。
だからだろうか。…時折、この場所にはふたりには視えていないであろうお客さんが来ている。
「…ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
今夜はあまり長居できなかった。
子どもの泣き声に楽しそうに話すふたり…だが、あの様子なら他の人たちには見えていない。
また自分にしか視えない世界だったのかと思うと、少しだけ悲しくなる。
ただ、慣れというものは恐ろしく、昔ほど嫌な思いはしていない。
見分けがつかないと不自由さは感じるものの、孤独感はなくなっていた。
『今夜は早かったんですね』
「瑠璃…もしかして、ずっと待ってたの?」
『今夜は沢山星が降ってくる予感がするのです』
「流星群か、知らなかったな…」
『…その翡翠色の瞳のこと、ばれてしまったんですか?』
「いや、全然。いつも隠しているし、眼鏡よりこっちの方がやりやすい」
光の屈折を利用した眼鏡にただの眼帯…色々試してはみたものの、眼鏡は見る角度によって全く違う色になってしまうこと、眼帯は周囲に心配をかけてしまうことから今のやり方になった。
「さっきみたいに急な風が吹いてくると、どうしても対処できないけどね」
『…人間とは難儀ですね』
「そうかな?結構単純だと思うよ」
話をしているうちに、いつも星を眺めている海に到着した。
「そろそろ別の場所を探さないといけないかもしれない」
『寒くなってきましたからね…』
「…きた」
ひとつ、またひとつと流れるものを見つめていると、嫌なことも全部忘れられる。
『カラコン入れてるんだろ?すぐ外しなさい』
『違います!元からこういう色で、』
『嘘を吐くな!』
…大人はいつだって信じてくれなかった。
それが辛いと思った時期もあったが、今は最小限の生活だけできていれば問題ないのでそれでいい。
結局赤ん坊の頃の写真を提出して信じてもらえたものの、そうすると今度は気味悪がられるようになるまでに時間はかからなかった。
『…昔のことを思い出していたんですか?』
「まあ、ちょっとね」
『八尋はあの頃から変わりませんよ』
「…いや、少しは変わったかもしれない。というか、ちょっとは大人になったと思いたい」
『ああ、それならなっていると思いますよ』
羽を休めたかったのか、肩の上に止まられる。
それを嫌だと思ったことはなく、寧ろ心地いい。
いつも空を見ていると沢山の星たちは、嫌なことを忘れさせてくれる。
「…もうそろそろ行こうか」
体を壊してしまったら大変だし、瑠璃は結構寒がりだ。
だが、いつも俺に最後までつきあってくれている。
それはきっと、彼女なりの優しさなのだろう。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
私達、怪奇研究部!!
たけまる
キャラ文芸
京都にある緑沢中学校に交換留学生と転校生が同時にやってきた!
怪奇研究部に新たな仲間が参戦!!
だけど何やら不穏な空気……
平安時代に起きた殺人事件、呪い……不老不死の仙薬……って人間の魂なんですか?!
転校生はなぜ交換留学生と同時期に来たのか。主人公美玲の知られざる秘密とは。
個性豊かな怪奇研究部員たちは各々が抱える秘密があって……?!
「お前を救うためなら何度でも転生する」
平安時代の先祖の因縁を今、私たち怪奇研究部員が解き明かす!
これは切ない転生と呪いの物語……
10万文字以内の作品です。日々の応援励みになります
魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~
橘花やよい
キャラ文芸
京都嵐山には、魔法使い(四分の一)と、化け猫の少年が出迎えるドーナツ屋がある。おひとよしな魔法使いの、ほっこりじんわり物語。
☆☆☆
三上快はイギリスと日本のクォーター、かつ、魔法使いと人間のクォーター。ある日、経営するドーナツ屋の前に捨てられていた少年(化け猫)を拾う。妙になつかれてしまった快は少年とともに、客の悩みに触れていく。人とあやかし、一筋縄ではいかないのだが。
☆☆☆
あやかし×お仕事(ドーナツ屋)×ご当地(京都)×ちょっと謎解き×グルメと、よくばりなお話、完結しました!楽しんでいただければ幸いです。
感想は基本的に全体公開にしてあるので、ネタバレ注意です。
新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~
朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
長きに渡る日本奪還の戦いも、いよいよこれで最終章。
圧倒的な力を誇る邪神軍団に、鶴と誠はどのように立ち向かうのか!?
この物語、とうとう日本を守りました!
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
ようこそ、不運の駄菓子屋へ
ちみあくた
ホラー
濃い霧が発生した或る日の早朝、東野彩音は、元暴走族の恋人・大矢千秋が運転する改造車の助手席にいた。
視界が悪い上、二日酔いでハンドルを握る千秋にヒヤヒヤさせられっぱなしの彩音。
そのせいか酷く喉が渇き、飲み物を求めて小さな駄菓子屋へ入っていくが、そこは噂に名高い幻の店だ。
極めて不運な人間しか辿り着く事ができず、その不運を解消する不思議な駄菓子を売っていると言う。
しかし、時に奇妙で、時に奇跡とも思える駄菓子の効果には恐るべき副作用があった……
エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。
妖怪屋敷のご令嬢が魔術アカデミーに入学します
音喜多子平
キャラ文芸
由緒正しい妖怪一家の長女である山本亜夜子(さんもと あやこ)はかび臭い実家とそこに跋扈する妖怪たちに心底嫌気のさした生活を送っていた。
そんなある日の事、妖怪たちから魔王として慕われる実父が突如として、
「そろそろ家督を誰に譲るか決めるわ」
と言い出した。
それは亜夜子を含めた五人キョウダイたちが血で血を洗う戦いの序章となる。
だが家にいる妖怪たちは父の血と才能を色濃く受け継いだ末弟に取り入り、彼を次代の跡取りとなるように画策する始末。
もう日本の妖怪は話にならない…。
それなら、西洋の悪魔たちを使えばいいじゃない!
こうして亜夜子は海を渡り、アメリカにある魔法アカデミーに下僕を募るために入学を決意したのだった。
秘伝賜ります
紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は
その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。
失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり
継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。
その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが……
◆◇◆◇◆
《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》
(ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?)
《ぐぅっ》……これが日常?
◆◇◆
現代では恐らく最強!
けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ!
【毎週水曜日0時頃投稿予定】
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる