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今できること
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昼間、時間があるうちに新聞に記されていた町に行ってみる。
案外近い距離だったのはよかったものの、人を探すのはやはり難しい。
それでも手当たり次第にあたってみる以外に方法がなく、新聞の切り抜きを見せて道行く人に声をかけた。
「あの、すみません。この近くに住んでいる服部さんという方を探しているんですけど…」
「服部は俺ですが何か?」
…見た目が変わりすぎていて分からなかった。
写真に写っているのはやや短い髪にスーツ姿、そして鍛えられているであろう体だ。
だが、今目の前にいる人物は、身だしなみはぼろぼろで頬が痩せこけている。
「あの…恋人さんについて少し話を聞きたいんです」
「なんだあんた、記者か?」
「違います。俺はただ、あなたに一緒に来てほしい場所があって…」
「いいよ、ついてってやる。普段はこんなこと絶対しないけど、もう何もかもどうでもいいんだ」
投げやりになっている人に来てもらうのは大変かもしれないと思っていたものの、すんなり承諾してくれて助かった。
夜遅くにと約束してその場を離れる。
そしていつもの時間、ふたりで彼女の元を訪ねた。
「…こんばんは」
『こんばん…政宗?知り合いだったの!?」
「いえ。お願いしてきてもらいました」
彼女の背後で大きな手が揺れている。
今夜を逃せばきっと時間がない。
「…?誰と話してるんだ?」
「ここに、あなたの恋人さんがいます」
「そんなわけないだろ。だってあいつは、」
「…ストーカーに殺されたんですよね?だけど彼女は、あなたからもらった黄色いビーズみたいなものがついてるブレスレットをして、ここにいるんです」
「誰も信じなかった話を、なんで…」
彼の反応で確信した。
証拠がないと警察は動けない場合がある。
それなら、相談しても解決しなかったんじゃないか…その予想は当たっていたようだ。
「記事を読んで予測したんです。彼女は、自分がストーカー被害に遭っていた証拠も掴んでいたみたいです。
だから口封じに襲われてしまった。そして今、目の前にいるあなたの方を見ています」
『政宗…」
普通ならこんな話を信じたりはしないだろう。
だが、彼女は少しずつ力が強くなっている。少しものを動かす程度ならできるはずだ。
『私、事務所の引き出しに4桁の暗証番号をかけておいたの。もしもまだ誰も調べていないなら、その中に証拠が入ってる。
パスワードは、政宗の誕生日!…お願い、他の人たちが同じ被害に遭わないようにあの男を捕まえてもらって」
彼女の言葉は目の前にいる恋人に届いていない。
だからこうして、間に入り訳すのが今の役割だ。
「恋人さんが今、事務所の4桁の暗証番号がかかっている引き出しを調べてほしいと言っています。
パスワードはあなたの誕生日だって…他の人たちが、自分みたいにならないように捕まえてほしいそうです」
案外近い距離だったのはよかったものの、人を探すのはやはり難しい。
それでも手当たり次第にあたってみる以外に方法がなく、新聞の切り抜きを見せて道行く人に声をかけた。
「あの、すみません。この近くに住んでいる服部さんという方を探しているんですけど…」
「服部は俺ですが何か?」
…見た目が変わりすぎていて分からなかった。
写真に写っているのはやや短い髪にスーツ姿、そして鍛えられているであろう体だ。
だが、今目の前にいる人物は、身だしなみはぼろぼろで頬が痩せこけている。
「あの…恋人さんについて少し話を聞きたいんです」
「なんだあんた、記者か?」
「違います。俺はただ、あなたに一緒に来てほしい場所があって…」
「いいよ、ついてってやる。普段はこんなこと絶対しないけど、もう何もかもどうでもいいんだ」
投げやりになっている人に来てもらうのは大変かもしれないと思っていたものの、すんなり承諾してくれて助かった。
夜遅くにと約束してその場を離れる。
そしていつもの時間、ふたりで彼女の元を訪ねた。
「…こんばんは」
『こんばん…政宗?知り合いだったの!?」
「いえ。お願いしてきてもらいました」
彼女の背後で大きな手が揺れている。
今夜を逃せばきっと時間がない。
「…?誰と話してるんだ?」
「ここに、あなたの恋人さんがいます」
「そんなわけないだろ。だってあいつは、」
「…ストーカーに殺されたんですよね?だけど彼女は、あなたからもらった黄色いビーズみたいなものがついてるブレスレットをして、ここにいるんです」
「誰も信じなかった話を、なんで…」
彼の反応で確信した。
証拠がないと警察は動けない場合がある。
それなら、相談しても解決しなかったんじゃないか…その予想は当たっていたようだ。
「記事を読んで予測したんです。彼女は、自分がストーカー被害に遭っていた証拠も掴んでいたみたいです。
だから口封じに襲われてしまった。そして今、目の前にいるあなたの方を見ています」
『政宗…」
普通ならこんな話を信じたりはしないだろう。
だが、彼女は少しずつ力が強くなっている。少しものを動かす程度ならできるはずだ。
『私、事務所の引き出しに4桁の暗証番号をかけておいたの。もしもまだ誰も調べていないなら、その中に証拠が入ってる。
パスワードは、政宗の誕生日!…お願い、他の人たちが同じ被害に遭わないようにあの男を捕まえてもらって」
彼女の言葉は目の前にいる恋人に届いていない。
だからこうして、間に入り訳すのが今の役割だ。
「恋人さんが今、事務所の4桁の暗証番号がかかっている引き出しを調べてほしいと言っています。
パスワードはあなたの誕生日だって…他の人たちが、自分みたいにならないように捕まえてほしいそうです」
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