王子と内緒の人魚姫

黒蝶

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茶園 渚 続篇

第2話

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家に着いた頃には、もう夜中だった。
▼「...」
「渚?怒ってる...?」
そう聞くと、黒羽はいきなり強く抱きしめられた。
「渚、痛いよ」
▼「ちょっと黙ってろ」
「でも、」
▼「あんな奴に笑顔を見せつけやがって」
「?」
▼「...あんなに嬉しそうな顔、他の奴に見せるなよ」
「!」
渚の小さな呟きに、黒羽はとても心踊った。
「ありがとう、渚」
ふわり。
▼「なっ...」
「渚、嫉妬してくれたんでしょ?」
▼「う、うるせえ」
「ふふ...」
『なぎ すなおに なって』
▼「白玉まで言うのかよ...」
黒羽は白玉にも微笑みかけた。
「嫉妬してくれて、ありがとう」
▼「なんでおまえはいつもそうなんだよ...」
「?」
▼「おまえといると、どんなことでも悪くないと思う。嫉妬なんてカッコ悪くて言えねえと思ってたけど、おまえとならいいと思う。ただ、バレないようにと思ったのに...くそっ」
「私は、そんな渚も好きだよ」
ふわり。
▼「白玉。ちょっと部屋に行ってろ」
「え、え、」
身体が少し浮いたかと思うと、渚の唇が触れて...
「んっ!」
▼「もう少し、このまま声聞かせろよ」
「渚、待っ...」
▼「待てない」
「ぁ...はぅ...な、ぎ」
どさりとソファにおろされる。
▼「おまえの声なら、俺が独占したい」
「渚...」
二人で溶けていきながら、そのまま夜は更けていった。
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▼「悪い」
「何が?」
▼「おまえが危険かもしれないときに、俺は...」
「気にしないで、渚はすごく優しいから...私は嫌じゃないよ」
黒羽はいつものようにふわりと笑った。
しばらく見つめあっていると、白玉がとてとてと寄ってくる。
『なぎ くれはと らぶらぶ』
▼「う、うるせえ」
『いちゃいちゃ なかよし』
▼「恥ずかしいからもう言うな」
渚は恥ずかしそうにぱっと顔を背けた。
「白玉、私も恥ずかしいから...」
『くれは』
「どうしたの?」
『ありがとう』
「!」
二人に向かって、白玉が微笑んでくれたような気がした。
「ご飯作るね!」
▼「あ、ああ...。そしたらまた出掛けるか」
「うん!」
実は二人で決めたことがある。
それは、《いつもどおりに過ごす》こと。
出掛けられるのは黒羽にとって、最高の喜びだ。
▼「但し、今日は仕事を手伝ってもらう」
「お仕事?」
▼「ああ。いい加減、漢方屋をあけないと客が困るからな」
(渚はやっぱり優しいな...)
「お仕事教えて?」
▼「準備はいいか?」
「うん」
黒羽は渚とともに...白玉も一緒に店へと向かった。
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