王子と内緒の人魚姫

黒蝶

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茶園 渚篇

第15話

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次の日。
黒羽は近くの海にきていた。
(メモ書きをしてきたから、きっと大丈夫だよね...?)
鞄の中には、勝手に入り込んだ白玉がいる。
「白玉、潮風にやられたりしないの?」
白玉はぴょんぴょんと跳ねている。
「ふふ、そっか」
(魔王、私...幸せになれるかな?)
黒羽は海のことを少し思い出していた。
『いいか、黒羽...人は一人では生きていけないんだよ』
「一人では、生きていけない...」
(どうして、私に頼ってくれないんだろう...)
「白玉、私じゃ頼りないのかな?」
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家へ戻ると、メモが1枚ある。
▼「勝手に出掛けたのか...?」
《渚へ
少し近くの海にいってきます。
あんまりおそくならないように帰ります。
心配しないでね。
                                         黒羽》
▼「あいつ...」
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渚は海まできて黒羽の姿を見つけ、
▼「おい、何また一人で...」
注意しかけてやめた。
「...っ」
黒羽は泣いていた。
海のことを思い出してではなく...
「どうして何も話してくれないの...?」
渚の事で泣いていた。
渚はこっそり背後から近づき...
▼「...そんなの、おまえを巻き込みたくないからに決まってるだろ」
「渚...」
▼「白玉と仲がいいのはけっこうな事だが、俺に直接言え。...いいな?」
「私は、渚のことを聞きたい。教えて、渚...」
▼「黒羽...」
しばらく見つめあったあと、
「んっ...」
▼「俺の負けだ。ちゃんと話す。覚悟を、決める」
そっとキスしたあと、耳許で囁いた。
▼「ほら、泣くな...」
あふれでる涙を、渚は必死に拭っている。
「渚...」
▼「大丈夫だから」
渚は頭をぽん、と撫でた。
再び涙を拭おうとした時、
「渚、後ろ!」
黒羽は悲鳴に近い声で叫んだ。
ー「ぐっ...。『鍵』を寄越せ。あいつらを滅茶苦茶に...」
男に蹴りを喰らわせたあと、渚は強く言い放った。
▼「それは言ったろう。あんたには俺の『鍵』を使う資格はない。売る気もねえ。帰れ」
ー「ちっ...」
男は退散していった。
▼「怪我はないか?」
「うん...」
(鍵って、何?売るとか使うとか...分からない)
▼「...半分くらい知られてしまったか」
渚はため息をつく。
「どういうこと?」
▼「帰ってから説明する。...取り敢えず今は、」
「わっ...」
白玉と一緒に抱きかかえられる。
▼「足、痛むんだろ?試しに使ってほしい薬がある。それに...ここじゃ話せねえよ」
「うん、分かった。ありがとう、渚」
ふわり。
▼「走るぞ」
渚は少しずつ歩調を早め、家路を急いだ。
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