王子と内緒の人魚姫

黒蝶

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茶園 渚篇

閑話『伝えたい気持ち、伝わらない言葉』白玉目線

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最近、家にとても綺麗な女の子が住みはじめた。
▼「おい、白玉」
(またおい呼ばわり...)
拾ってもらった身とは言え、おい呼ばわりはやめてほしかった。
彼との出会いについては...いつかまた、時がきたら語ることにする。
私は綺麗な黒髪の女の子にすりよってみた。
「ひゃっ...」
(驚かせてしまったかな...?)
「可愛い...」
▼「白玉だ」
めんどくさそうに渚は私の説明をしている。
(珍しい形の、林檎)
味はいつもと変わらないけれど、なんとなく家の雰囲気が明るい気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
▼「おい白玉」
渚はいつもおい呼ばわりする。
だから私は反抗して、目の前に差し出された人参を食べなかった。
黒羽の手は優しくて、離れたくないというのもあった。
▼「体調が悪いのか?」
「白玉、ご飯食べられないの...?」
黒羽は何か考え込むと、私を渚に預けてキッチンへ行ってしまった。
「これなら食べられる?」
(...花の形、それに...食べやすく小さくしてくれてる)
▼「な、何故だ...」
渚、ごめんね。私はこっちの方が好き。
その人参は、いつもより甘く感じられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒羽は渚を見ているとき、顔が赤い。
それに渚も、意識しているように見える。
「白玉」
渚や黒羽たちに頭を撫でられるのは、嫌いじゃない。
私は庭に咲いていた花を黒羽に渡した。
「私にくれるの?ありがとう、白玉」
ふわり。
(そのふわふわした笑顔、私は好き)
晩御飯のときに気づいたことがあった。
(渚も言えばいいのに)
ズボンに噛みつくと、
「いただきますって言ってって言ってるんじゃないかな?」
黒羽の方が先に悟ってくれた。それでも言わないから噛みついていたら、
▼「いただきます」
ちゃんと言ったので離した。
(黒羽は私の気持ちを察するのが上手い...。どうしてなのかな)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、黒羽は泣いていた。
(渚が泣かせたんだね)
渚のズボンを引っ張ったものの、
▼「お前も早く寝ろ」
と言われてしまった。
(そうじゃなくて黒羽の部屋にもう一回行ってほしかったのに...)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日。黒羽は部屋から出てこなかった。
ご飯も食べなかった。
▼「俺のせいだ...」
渚が呟いたのが聞こえたけれど、黒羽までは届いていない。
お昼になっても、黒羽は部屋から出てこなかった。
だから...
(この抜け道、小さいから嫌いなんだけど...)
「きゃっ、白玉!?」
私は林檎を渡した。
(これだけでも食べて)
「白玉といると、とっても落ち着くの。でも、渚といると、ドキドキして...」
黒羽は泣きながら色々な話をしてくれた。
私といると落ち着くこと。
渚の前では緊張して上手く話せなくなること。
文字が書けないこと。
「ごめんね、白玉。こんなこと話されても、困るよね...」
そんなことないよって、言ってあげたかった。
でも私の言葉は伝わらないから...
前足で涙をふこうとした。
(ダメ、黒羽の首までしか届かない)
「ふふ、白玉、くすぐったいよ...」
(早く入ってくればいいのに)
実は渚の気配がすることには気づいていた。
でも黒羽のズボンを引っ張ると、外に出たくないと言われてしまったので渚に自力で入ってもらうしかない。
まもなくして鍵が開き...
▼「悪かった」
黒羽を背中から渚が抱きしめていた。
「それでも、話してほしい...」
▼「それは考えさせてくれ。俺は、嫌われるのが怖い」
「...うん、分かった」
(嫌われるのが怖い?)
これだけ素直な渚を見たのは久しぶりだった。
▼「泣くなら俺の前で泣け」
「うん」
渚は不器用で、あんまり優しい言葉をかけられない。
でもね、黒羽。



渚のかたくなな心を、黒羽なら溶けるかもしれない。
それに...









この二人は、両思いかもしれない。
それが態度で見てとれた。
私は少し安心した。




渚を大切に想ってくれる女の子...渚が大切に想う女の子。
それはきっと、黒羽だけだよ。
それに...
渚の凍りついた心を温かくできるのも、きっとあなただけだよ。


黒羽の膝の上で、私は言いたいことをたくさん考えていた。
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