301 / 302
終幕『絶望の先へ』
第247話
しおりを挟む
そして夜、私の前には大きな蜘蛛のような体をした怪異が立っている。
《ヴア!》
「…うるさいな」
紅を塗り、狙いを定めて矢を放つ。
目の前の巨体が崩れると同時に、わらわらと小さいものが現れはじめた。
「みんな、聞こえるか?本体はやったけど子どもをばらまいた。仕損じがあったら噂がまた広がってしまう」
『これから処理します!』
『旧校舎内は僕がやるよ』
入学式だからこそ、不安を喰らって成長する噂が蔓延りやすいのかもしれない。
「噂とは随分違う姿だな」
《アアン?》
言葉が通じているのかいないのか、私には分からない。
それでも、ここで足止めする以外思いつかなかった。
「悪いけど、このまま決めさせてもらう」
火炎刃を振り下ろすと、目の前から一気に邪気が消えた。
…ただの人間であれば、こんなことはできなかっただろう。
『終わりました!』
「お疲れ。これで体調不良の生徒が減るといいな」
『ですね。…それにしても先輩、大学生になってまた強くなりました?』
「どうだろうな。自分でもあんまり分かってない」
ばれるかばれないかぎりぎりのところを狙っているが、このままいくといつか必ず気づかれてしまうだろう。
《なマエ……》
「まだ話せたのか。最期だから教えてやる。…私は夜紅。夜紅っていうんだ」
《温かイ…ありガトう》
そのままさらさらと溶けていく姿を見守りながら、ゆっくり目を閉じて深呼吸する。
通信機越しに陽向たちに休むよう伝え、ひとり屋上へ向かった。
「……こう、か」
屋上の一角に、本来であればなかったはずの扉が現れる。
中に入ると、そこは予備のナイフや札とクローバー模様のベッドがひとつあるだけの部屋だった。
……先日先生に尋ねたのは、先生たちが持っている部屋をどうやって作ったかということだ。
いつか完全に人間ではなくなったそのとき過ごせる場所を、友人が近くにいるこの場所に作りたかった。
【イメージすればそれなりのものは出てくる】
猫のラグをイメージすると、一瞬でテーブルや椅子とセットで現れる。
ここを作ると、いよいよ人間ではないのだと自覚していく。
それでも、私はもう孤独じゃない。
その事実がひどく安心させてくれる。
部屋を出ると、先程とは別の妖が立っていた。
《おまえが夜紅姫か》
そんな名前になっているんだったと内心苦笑しつつ、札を数枚構える。
「一応そういうことになるんだろうな。…それで、依頼か?それとも戦いにきたのか?」
できることなら共存を目指したい。
これから先も、せめて周りの人たちが笑顔でいられる世界を護っていく。
──いつか人間ではなくなったとしても、私が私であることに変わりはない。
《ヴア!》
「…うるさいな」
紅を塗り、狙いを定めて矢を放つ。
目の前の巨体が崩れると同時に、わらわらと小さいものが現れはじめた。
「みんな、聞こえるか?本体はやったけど子どもをばらまいた。仕損じがあったら噂がまた広がってしまう」
『これから処理します!』
『旧校舎内は僕がやるよ』
入学式だからこそ、不安を喰らって成長する噂が蔓延りやすいのかもしれない。
「噂とは随分違う姿だな」
《アアン?》
言葉が通じているのかいないのか、私には分からない。
それでも、ここで足止めする以外思いつかなかった。
「悪いけど、このまま決めさせてもらう」
火炎刃を振り下ろすと、目の前から一気に邪気が消えた。
…ただの人間であれば、こんなことはできなかっただろう。
『終わりました!』
「お疲れ。これで体調不良の生徒が減るといいな」
『ですね。…それにしても先輩、大学生になってまた強くなりました?』
「どうだろうな。自分でもあんまり分かってない」
ばれるかばれないかぎりぎりのところを狙っているが、このままいくといつか必ず気づかれてしまうだろう。
《なマエ……》
「まだ話せたのか。最期だから教えてやる。…私は夜紅。夜紅っていうんだ」
《温かイ…ありガトう》
そのままさらさらと溶けていく姿を見守りながら、ゆっくり目を閉じて深呼吸する。
通信機越しに陽向たちに休むよう伝え、ひとり屋上へ向かった。
「……こう、か」
屋上の一角に、本来であればなかったはずの扉が現れる。
中に入ると、そこは予備のナイフや札とクローバー模様のベッドがひとつあるだけの部屋だった。
……先日先生に尋ねたのは、先生たちが持っている部屋をどうやって作ったかということだ。
いつか完全に人間ではなくなったそのとき過ごせる場所を、友人が近くにいるこの場所に作りたかった。
【イメージすればそれなりのものは出てくる】
猫のラグをイメージすると、一瞬でテーブルや椅子とセットで現れる。
ここを作ると、いよいよ人間ではないのだと自覚していく。
それでも、私はもう孤独じゃない。
その事実がひどく安心させてくれる。
部屋を出ると、先程とは別の妖が立っていた。
《おまえが夜紅姫か》
そんな名前になっているんだったと内心苦笑しつつ、札を数枚構える。
「一応そういうことになるんだろうな。…それで、依頼か?それとも戦いにきたのか?」
できることなら共存を目指したい。
これから先も、せめて周りの人たちが笑顔でいられる世界を護っていく。
──いつか人間ではなくなったとしても、私が私であることに変わりはない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



ねえ当近さんちょっとレトロだけどわたしと交換日記をしない?
なかじまあゆこ
ライト文芸
ねえ、当近さんちょっとレトロだけど交換日記をしない」と美衣佐から誘われたこの時から悪意や憎悪が始まっていたのかもしれない。にっこりと微笑みを浮かべるその裏側に。本当の秘密が隠されていた。青春は痛くて辛い……。
最後まで読んでいただけとわかる作品になっているかなと思います。 楽しかったはずの交換日記が形を変えていく。
台本保管所
赤羽根比呂
大衆娯楽
noteのマガジン『台本保管所』をこちらに引っ越し中です。
【明るめ・優しい感じ】【暗め・責める感じ】【朗読・呟く感じ】【恋文】【掛け合い・演じ分け】の大まかに五つのジャンルで構成してますので、好きな台本を読んでください。
※著作権は【赤羽根比呂】にありますがフリー台本なので、YouTubeやstand.fmなど音声投稿サイトなどでの公開は自由です!使用の際は、ご一報下されば聴きに行きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる