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終幕『絶望の先へ』
第247話
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そして夜、私の前には大きな蜘蛛のような体をした怪異が立っている。
《ヴア!》
「…うるさいな」
紅を塗り、狙いを定めて矢を放つ。
目の前の巨体が崩れると同時に、わらわらと小さいものが現れはじめた。
「みんな、聞こえるか?本体はやったけど子どもをばらまいた。仕損じがあったら噂がまた広がってしまう」
『これから処理します!』
『旧校舎内は僕がやるよ』
入学式だからこそ、不安を喰らって成長する噂が蔓延りやすいのかもしれない。
「噂とは随分違う姿だな」
《アアン?》
言葉が通じているのかいないのか、私には分からない。
それでも、ここで足止めする以外思いつかなかった。
「悪いけど、このまま決めさせてもらう」
火炎刃を振り下ろすと、目の前から一気に邪気が消えた。
…ただの人間であれば、こんなことはできなかっただろう。
『終わりました!』
「お疲れ。これで体調不良の生徒が減るといいな」
『ですね。…それにしても先輩、大学生になってまた強くなりました?』
「どうだろうな。自分でもあんまり分かってない」
ばれるかばれないかぎりぎりのところを狙っているが、このままいくといつか必ず気づかれてしまうだろう。
《なマエ……》
「まだ話せたのか。最期だから教えてやる。…私は夜紅。夜紅っていうんだ」
《温かイ…ありガトう》
そのままさらさらと溶けていく姿を見守りながら、ゆっくり目を閉じて深呼吸する。
通信機越しに陽向たちに休むよう伝え、ひとり屋上へ向かった。
「……こう、か」
屋上の一角に、本来であればなかったはずの扉が現れる。
中に入ると、そこは予備のナイフや札とクローバー模様のベッドがひとつあるだけの部屋だった。
……先日先生に尋ねたのは、先生たちが持っている部屋をどうやって作ったかということだ。
いつか完全に人間ではなくなったそのとき過ごせる場所を、友人が近くにいるこの場所に作りたかった。
【イメージすればそれなりのものは出てくる】
猫のラグをイメージすると、一瞬でテーブルや椅子とセットで現れる。
ここを作ると、いよいよ人間ではないのだと自覚していく。
それでも、私はもう孤独じゃない。
その事実がひどく安心させてくれる。
部屋を出ると、先程とは別の妖が立っていた。
《おまえが夜紅姫か》
そんな名前になっているんだったと内心苦笑しつつ、札を数枚構える。
「一応そういうことになるんだろうな。…それで、依頼か?それとも戦いにきたのか?」
できることなら共存を目指したい。
これから先も、せめて周りの人たちが笑顔でいられる世界を護っていく。
──いつか人間ではなくなったとしても、私が私であることに変わりはない。
《ヴア!》
「…うるさいな」
紅を塗り、狙いを定めて矢を放つ。
目の前の巨体が崩れると同時に、わらわらと小さいものが現れはじめた。
「みんな、聞こえるか?本体はやったけど子どもをばらまいた。仕損じがあったら噂がまた広がってしまう」
『これから処理します!』
『旧校舎内は僕がやるよ』
入学式だからこそ、不安を喰らって成長する噂が蔓延りやすいのかもしれない。
「噂とは随分違う姿だな」
《アアン?》
言葉が通じているのかいないのか、私には分からない。
それでも、ここで足止めする以外思いつかなかった。
「悪いけど、このまま決めさせてもらう」
火炎刃を振り下ろすと、目の前から一気に邪気が消えた。
…ただの人間であれば、こんなことはできなかっただろう。
『終わりました!』
「お疲れ。これで体調不良の生徒が減るといいな」
『ですね。…それにしても先輩、大学生になってまた強くなりました?』
「どうだろうな。自分でもあんまり分かってない」
ばれるかばれないかぎりぎりのところを狙っているが、このままいくといつか必ず気づかれてしまうだろう。
《なマエ……》
「まだ話せたのか。最期だから教えてやる。…私は夜紅。夜紅っていうんだ」
《温かイ…ありガトう》
そのままさらさらと溶けていく姿を見守りながら、ゆっくり目を閉じて深呼吸する。
通信機越しに陽向たちに休むよう伝え、ひとり屋上へ向かった。
「……こう、か」
屋上の一角に、本来であればなかったはずの扉が現れる。
中に入ると、そこは予備のナイフや札とクローバー模様のベッドがひとつあるだけの部屋だった。
……先日先生に尋ねたのは、先生たちが持っている部屋をどうやって作ったかということだ。
いつか完全に人間ではなくなったそのとき過ごせる場所を、友人が近くにいるこの場所に作りたかった。
【イメージすればそれなりのものは出てくる】
猫のラグをイメージすると、一瞬でテーブルや椅子とセットで現れる。
ここを作ると、いよいよ人間ではないのだと自覚していく。
それでも、私はもう孤独じゃない。
その事実がひどく安心させてくれる。
部屋を出ると、先程とは別の妖が立っていた。
《おまえが夜紅姫か》
そんな名前になっているんだったと内心苦笑しつつ、札を数枚構える。
「一応そういうことになるんだろうな。…それで、依頼か?それとも戦いにきたのか?」
できることなら共存を目指したい。
これから先も、せめて周りの人たちが笑顔でいられる世界を護っていく。
──いつか人間ではなくなったとしても、私が私であることに変わりはない。
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