夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第32章『魔王と夜紅の決着-絶望の終わりへ-』

第241話

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刃と右腕がぶつかる音だけがその場に響き渡る。
しびれを切らしたのか、男は近くにいた邪気まみれの何かを投げつけてきた。
「おら!」
斬ろうとした瞬間、陽向の強烈パンチがとんでくる。
「先輩たちだけにいいかっこさせられないですからね」
「…ありがとう。助かる」
ひとりで全てを祓いきれるほど、私は決して強くない。
「おマエハ……」
「思った以上にやられてるな。邪気がないと何もできないんだろ?ほら、まずは俺を捕まえてみろ!」
陽向が走り去った方角に、黒い煤のようなものが飛んでいく。
邪気の塊と鬼ごっこだなんて命がけだ。
だが、その間一時的に男の力が弱まる。
もうひとりに気づかれないように血刀を構えた。
「言っておくけど、いつもの矢の数百倍は痛むと思え」
「ナンで、ワタシ、オレ……」
とうとう男は自我が崩壊してきているのか、がむしゃらに攻撃しはじめた。
その姿は駄々をこねる子どものようだ。
「…子どもならこんなに物を破壊しないか」
暴れまわる異形を必死に引き止め、なんとか刀で押さえつける。
「今だ!」
私が叫んだ直後、近くからひとつの影が飛びこんでくる。
それは間違いなく先程入ってきた人物で、1番攻撃が当たりそうだった。
「今度こそ断ち切る!」
鋏をかざした瞬間、右腕だったものから生えてくる糸…八尋さんはそれを切った。
「うわあ!」
かなり痛むのか、じたばたと体を動かす。
できるだけ校舎を傷つけないよう気をつけていたのに、壁にひびが入りはじめた。
「あんまりうるさくするならおまえごとたった斬る」
「オレガ、オレガオレガオレガ」
「…うるさいのは嫌いなんだ」
峰打ちになるよう気をつけながら、思いきり刀でたたく。
相手が気絶したのをいいことに、絡まっていた糸全てを焼き切った。
男の右腕は人間としての形を取り戻し、霊力が邪気と喰いあいながら散っていく。
「終わった、のか…?」
「八尋さんのおかげです。ありがとうございました」
「ううん。俺はただ切りきれていなかったものを切っただけで…。よかった、これでもう噂を強引に変えられる心配はなさそうだ」
その場に静寂が訪れ、全てが終わったかと思われた。
周りの小物たちも片づいて、八尋さんは瑠璃と一緒に帰っていく。
「先輩、お疲れ様でした!」
「全員お疲れ」
だが、私には分かる。
全てが終わったとはいえ、あまりに静かすぎるのだ。
もしかすると、アレの狙いは……
「先輩?」
「……!」
近づいてきていた陽向たちの体を突き飛ばし、なんとか刀で攻撃を防ぐ。
《なんだ、殺せたと思ったのに》
「この場所に生まれて数分の邪気に喰われるほど弱ってない」
真っ黒な異形はにやりと笑い、激しい連撃を仕掛けてきた。
素手で攻撃してきているが、相手の邪気は今まで男がやってきたことの業の数だけ強いはずだ。
《この刀、脆いのか?》
「そう思うなら折ってみろ」
私の血刀にはそれなりに霊力をこめてある。
邪気まみれの体では触れるだけで痛みがはしるだろう。
「どうした?折るんじゃなかったのか」
《いつまで余裕でいられるかな?》
パターン通りの連撃を避けたが、腹に勢いよく蹴りを入れられる。
「かは……」
「先輩!」
何がおきたか分からず立ち尽くしていたみんながこちらに来ようとする。
「駄目だ、私より先に…」
指さした方向にあるのは、愛を求めすぎて歪んでしまった男の体。
「信じ、ろ」
陽向たちは頷き、男の体を外へ運びはじめた。
《ねえ、どこ行くの?》
先生に飛びかかろうとした男の体に刀を突き刺す。
「どこへ行くつもりだ?おまえの遊び相手は私だというのに…」
《くそ、たしかに骨ごと砕いたはずなのに!》
…ああ、そのせいで足の感覚がないのか。
先ほど吹き飛ばされて床に叩きつけられたとき、たしかに足を強打した。
折れているかもしれないなんて考えていなかったが、やはり私は人間から遠ざかっているのだと自覚する。
「さあ、第二ラウンドといこうか」
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