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第32章『魔王と夜紅の決着-絶望の終わりへ-』
第238話
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「でも、それで誰かを傷つけることになるかもしれない」
「そんなの、やってみないと分からないだろ。それに、困ったときは助けてほしいって言葉にされた方がありがたい。
少なくとも、俺は信頼してもらえていると感じる。…また救えないのは困るから」
先生の言葉には重みがある。
瞬を救えなかったことをずっと後悔しているんだろう。
「多分折原は、自分で自分を赦せていないんだ。ご家族のことも、監査部で対処した事件も全部。
助けを求めることは強さだ。難しいことだとは思うが、おまえには仲間がいる」
「…そうですよ先輩。もっと俺らに寄りかかってください」
「陽向…」
体をおこした陽向はすっかり元気になっていて、洋服だけ新しいものに着替えていた。
「先輩はなんでもひとりでやろうとするけど、俺たちだって手伝いたいんです。
いくら先輩が強くても、まともじゃないのを相手するには数が多い方がいいでしょ?みんなで痛みを分け合えるから」
『私は、詩乃先輩たちに出会えて沢山幸せをもらいました。
普通になれない私でも、ここにいていいんだって思えたんです』
今度はラジオ越しに、桜良の優しい声が流れてくる。
『私は、戦闘要員としてできることは少ないけれど…みんなの側にいたい、支えあえる関係でありたいと思っています』
「桜良…ありがとう」
助けてなんて言えないと思っていた。
言うのが怖くて、全部ひとりで背負おうと思っていたんだ。
だけど、もし助けを乞うことが赦されるなら……
「頼む。みんなの力を貸してほしい。あの男は、自分が噂と融合して怪異になりかけていることに気づいていない。
このままだと人間に戻れなくなるし、周りへの被害も甚大だ。私ひとりじゃ止められそうにない」
頭を下げると、先生に顔をあげるよう言われる。
「はじめからそう言えばいいんだよ。今この場におまえに頼られて嬉しくない奴なんていないんだから」
温かい言葉が私を救ってくれる。
これから向かうのは戦場だ。それでも、仲間が一緒に来てくれる心強さを強く感じた。
「おまエノセいで、どれだケ苦労シたことカ」
「人を貶めるような真似を平然とするおまえにだけは言われたくない。
…やっぱりあのとき斬りきれてなかったんだ。俺の鋏の扱いが下手だったから…」
「オマエのせいデ視エナいンダ!」
体育館から響く声に少し怯んだが、ここで立ち止まっている場合じゃない。
「八尋さんの保護を最優先に…あとは後方支援を頼む。あの男の周りにいた奴等が暴走したら終わりだ」
先生たちが頷くのを確認して、持っていたナイフに札を巻きつける。
このまま上手くやれれば、あの男の力を完全に殺せるはずだ。
「こレデ終わリダ!」
「……!」
転んでしまったのか、床で目をぎゅっと閉じる八尋さんの姿が目に入る。
弓にナイフをあてがい、そのまま発射した。
「あ、熱……熱イイ!」
「灼熱の炎はそんなに気持ちいいか?」
「おマ、エ…」
「詩乃さん、ごめん。俺は…」
先が少し黒くなった鋏を見れば、必死に戦ってくれたことくらい分かる。
「今は一旦引いてくれ。…ありがとう。止めておいてくれたおかげでなんとかなりそうだ」
陽向たちのことは目に入っていないのか、男は真っ直ぐ私を見ていた。
槍の先は先程より削れてはいるものの、なんとか使える状態のようだ。
「さア、寄越セ!」
槍の猛攻に耐えながら紅をさす。
「…ここからは本当に手加減なしでいく」
槍の先に小さな袋を大量に置き、動かせないように固定する。
苦戦している男の懐に入り、そのまま拳をくらわせた。
「ぐっ…」
「普通の人間の体はこんなに硬くない。…自分がどんな姿なのかも分かってないんだろ?」
「何を言っテイる?」
「見せてやるよ。真実の鏡ってやつで」
持っていた手鏡を思い切り男に当てる。
その片腕は異形と化していて、このまま暴走を続ければどうなるか…流石にこの男でも分かるだろう。
「おまえが色々な噂に干渉して、何の弊害もないと思ったのか?…霊力も優しさもないあんたにはお似合いの姿かもな」
「そんなの、やってみないと分からないだろ。それに、困ったときは助けてほしいって言葉にされた方がありがたい。
少なくとも、俺は信頼してもらえていると感じる。…また救えないのは困るから」
先生の言葉には重みがある。
瞬を救えなかったことをずっと後悔しているんだろう。
「多分折原は、自分で自分を赦せていないんだ。ご家族のことも、監査部で対処した事件も全部。
助けを求めることは強さだ。難しいことだとは思うが、おまえには仲間がいる」
「…そうですよ先輩。もっと俺らに寄りかかってください」
「陽向…」
体をおこした陽向はすっかり元気になっていて、洋服だけ新しいものに着替えていた。
「先輩はなんでもひとりでやろうとするけど、俺たちだって手伝いたいんです。
いくら先輩が強くても、まともじゃないのを相手するには数が多い方がいいでしょ?みんなで痛みを分け合えるから」
『私は、詩乃先輩たちに出会えて沢山幸せをもらいました。
普通になれない私でも、ここにいていいんだって思えたんです』
今度はラジオ越しに、桜良の優しい声が流れてくる。
『私は、戦闘要員としてできることは少ないけれど…みんなの側にいたい、支えあえる関係でありたいと思っています』
「桜良…ありがとう」
助けてなんて言えないと思っていた。
言うのが怖くて、全部ひとりで背負おうと思っていたんだ。
だけど、もし助けを乞うことが赦されるなら……
「頼む。みんなの力を貸してほしい。あの男は、自分が噂と融合して怪異になりかけていることに気づいていない。
このままだと人間に戻れなくなるし、周りへの被害も甚大だ。私ひとりじゃ止められそうにない」
頭を下げると、先生に顔をあげるよう言われる。
「はじめからそう言えばいいんだよ。今この場におまえに頼られて嬉しくない奴なんていないんだから」
温かい言葉が私を救ってくれる。
これから向かうのは戦場だ。それでも、仲間が一緒に来てくれる心強さを強く感じた。
「おまエノセいで、どれだケ苦労シたことカ」
「人を貶めるような真似を平然とするおまえにだけは言われたくない。
…やっぱりあのとき斬りきれてなかったんだ。俺の鋏の扱いが下手だったから…」
「オマエのせいデ視エナいンダ!」
体育館から響く声に少し怯んだが、ここで立ち止まっている場合じゃない。
「八尋さんの保護を最優先に…あとは後方支援を頼む。あの男の周りにいた奴等が暴走したら終わりだ」
先生たちが頷くのを確認して、持っていたナイフに札を巻きつける。
このまま上手くやれれば、あの男の力を完全に殺せるはずだ。
「こレデ終わリダ!」
「……!」
転んでしまったのか、床で目をぎゅっと閉じる八尋さんの姿が目に入る。
弓にナイフをあてがい、そのまま発射した。
「あ、熱……熱イイ!」
「灼熱の炎はそんなに気持ちいいか?」
「おマ、エ…」
「詩乃さん、ごめん。俺は…」
先が少し黒くなった鋏を見れば、必死に戦ってくれたことくらい分かる。
「今は一旦引いてくれ。…ありがとう。止めておいてくれたおかげでなんとかなりそうだ」
陽向たちのことは目に入っていないのか、男は真っ直ぐ私を見ていた。
槍の先は先程より削れてはいるものの、なんとか使える状態のようだ。
「さア、寄越セ!」
槍の猛攻に耐えながら紅をさす。
「…ここからは本当に手加減なしでいく」
槍の先に小さな袋を大量に置き、動かせないように固定する。
苦戦している男の懐に入り、そのまま拳をくらわせた。
「ぐっ…」
「普通の人間の体はこんなに硬くない。…自分がどんな姿なのかも分かってないんだろ?」
「何を言っテイる?」
「見せてやるよ。真実の鏡ってやつで」
持っていた手鏡を思い切り男に当てる。
その片腕は異形と化していて、このまま暴走を続ければどうなるか…流石にこの男でも分かるだろう。
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