夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第31章『魔王と夜紅の決着-夜紅の秘技-』

幕間『その裏で』

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「先生、先輩と連絡が上手くとれません」
「悪いが今はこっち優先だ。後にしてくれ」
岡副には小物妖怪たちの対処を頼み、目の前の電話を修理していく。
先程から小さな爆発音が聞こえているが、折原は大丈夫だろうか。
《悪いわね…》
「もう黙ってろ。憎まれ口をたたく元気も残ってないんだろ」
黒猫の目がすっと閉じられる。
そんな様子を心配そうに見ていた瞬に託し、恋愛電話の作業を続行した。
複雑なダイヤルになっているのは、本人の性格が反映されているのかもしれない。
「…直る?」
「心配しなくてももうすぐ終わる」
そのもうすぐに時間がかかりそうだが、仕組みさえ分かれば直せないものではない。
《力、欲シ、》
「……」
迫ってきた妖たちを糸でひとまとめにする。
できればグロいものを見せずにいきたいところだが、これ以上数が増えれば止められなくなるだろう。
《電話、力!》
「駄目だよ。今忙しいんだから」
瞬が投げた包丁は、瞬く間に相手をその場から消していく。
相手は小さく悲鳴をあげ、瞬はほっとしたようにこちらを見た。
「先生のこと、僕だってちゃんと護れるから」
頼もしくなった…が、まだ詰めが甘い。
だが、これ以上強くなられても心配事が増えるだけだ。
「そうか」
瞬に喰らいつこうとした妖をしっかり絡めとり、一切の身動きを封じた。
このまま上手くやれれば、誰の手を煩わせることもなく修理を終えられるかもしれない。
「先生、先輩からの連絡が…」
「折原を信じるしかない。それより、今は目の前の小物たちをどうにかしてほしい」
「了解です」
折原の体の影響か、向こうで何かおきているのか…今日読んだ予知日記には新たな手紙についてしか書かれていなかった。
「…直った」
「さっきまであんなにばらばらだったのに…どうやつて直したの?」
「頭の中の設計図と照らし合わせながらやった」
「本当になんでもできちゃうんだね」
いくつかの糸を切り離しながら、なんとか体育館までの道を作る。
「ふたりには悪いが、もう少しここで小物の相手をしていてほしい」
「了解です。先輩のこと、お願いします」
「ああ」
ずっと不安げにこちらを見つめている瞬の頭を撫で、そのまま真っ直ぐ走った。
扉を開けようとしたが、火力が強すぎて扉を掴んだだけでグローブ越しに手が焼ける。
かろうじで隙間から見えたのは、膨大な霊力がこめられた炎だった。
「……」
そして俺はあのあとすぐに扉を開け、疲れている折原に近づいた。
流石に疲れてしまったのかぐっすり眠っている。
「先輩、倒れちゃったんですか?」
「霊力の使いすぎで寝てる」
「そうですか…」
岡副は心配なのか、なかなか離れてくれそうにない。
できれば今のうちに体に変化がおこっていないか調べたかったが、残念ながら無理そうだ。
「…今は休んでいろ。木嶋が心配するだろ」
「ですね。そうします」
岡副と入れ違いにやってきた瞬も、流石に疲れたのかうつらうつらしている。
「詩乃ちゃん、大丈夫なんだよね…?」
「休めばよくなる」
「そっか…」
スイッチが切れたように寝息をたてはじめた姿を見て、すぐに折原の採血をすませる。
本人が望んだことを否定するつもりはないが、やはり人間ではない部分が増幅してくると不安だ。
「…このまま持たせられればいいが」
ろくに食事を摂っていなかったのか、軽い栄養失調と脱水の症状がみられる。
点滴を用意して、折原が目を覚ますのを待つ。
そんな状態の折原から、目を開けて開口一番放たれた言葉はとんでもないものだった。
「ごめん、先生。どうしても今日だけは行かないといけないんだ」
「だが…」
「頼む。穂乃に関する重大任務なんだ」
妹のことを大切に想っているのを知っている以上、引き止められるはずがない。
「…分かった。結果はまた後で報告する。気をつけろ」
「ありがとう」
折原はそのまま駆け出していく。
柔らかい日差しがさしこむなか、近くで寝ている瞬の頭を撫でながらその背中を見送った。
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