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第31章『魔王と夜紅の決着-夜紅の秘技-』
第231話
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どこまでも追いかけてくる死者たちの顔つきは、決して正常といえるものではなかった。
《屋上まで逃げて何するつもり?》
「ちょっと知り合いに手伝ってもらおうと思う。屋上からなら多分呼び出せるだろうから」
おかげさんは首を傾げながらも一緒に走ってくれた。
恨み言やもっと生きたいという切実な願いを聞きながら、とにかく恋愛電話から離れる。
《アイツヲ、殺スノ…》
《マダ、死ニタクナカッタ!》
《その体、貸してくれ》
「…ちょっと会話できそうなのは、多分電話で呼び出された人だ」
足を止めないまま、おかげさんは驚いたような声をあげた。
《…あんな姿の人たちのことも、人って呼んでくれるんだね。まあ、俺のことも人だって言ってくれる詩乃ちゃんだからだと思うけど》
「ちゃんと生きてた人たちだろ?それ以外にどう表現するんだ?」
首を傾げると、おかげさんは声を出して笑った。
《そんなの詩乃ちゃんが初めてだよ。…化け物だって言われてる人たちしか知らないんだ》
「そうか」
私からすれば生きている人間の方が何百倍も怖い。
他人と少しでも違えばすぐ差別、軽蔑、迫害…もう疲れた。
だから私は、人間でいない道を選んだのだ。
「着いた」
《すごいよ、後ろからの圧力が》
「大丈夫。ここに来てもらうから」
線路の跡が残っていれば、すぐに来てくれるはずだ。
胸ポケットに入れておいたものを取り出し、空に向かってかかげる。
「来てくれ、車掌」
夜空を駆け抜ける列車は、汽笛を鳴らしながら真っ直ぐ近づいてきた。
《こんばんは。お久しぶりです。…あなた、何をしたんですか?》
《俺はただ、彼女と一緒に死者をここに集めただけだよ。最近おかしな噂が流行ってて…》
《それもですが、》
「ふたりとも、話すのは後にしてくれ。…車掌、助けてほしい。
この死者たちを消すなんて私にはできない。列車に乗せることは可能か?」
車掌は若干険しい表情を見せる。
《正直、少し厳しいです。これだけ大勢の…それも、死んでから時間が経った者たちを運んだことはありません》
それもそうだ。
この列車は、どちらかといえば死んで間もない人たちを運んでいるはずだ。
大勢いるので全員の身元を調べるのは不可能、それもあの世からもう一度こっち側に戻ってきたなんて前例がないだろう。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「人任せにするのは申し訳ないと思ってる。けど、これしか方法がないんだ。…頼む」
《そんなに頭を下げられてしまったら、仕方ありませんね…。今日は非番ですし、私の車両を使ってお客様たちをお連れします》
「ありがとう」
理性が飛んだ相手を列車に誘導するのは簡単ではなかったが、このままかたをつけたい。
降りていってしまわないように、最後尾と思われる場所まで火炎刃を投げつけた。
「──燃えろ」
札の何十倍と効果を発揮する炎を使っても、今の私はそこまで疲れていない。
《あなたは、人間であることを捨てたんですね》
「やっぱり分かるのか。…色々あって、人間の部分を殺す薬を飲んだ。
けど、人でありたいとは思ってる。人間より別の人たちと関わってた方が楽しいから」
《ご自分で選択されたのなら、私に文句を言う資格はありませんね》
背後から迫る炎に驚いたのか、死者たちは屋上へ全力ダッシュでやってきた。
《お客様、こちらへどうぞ》
車掌に誘導され、続々と乗っていく死霊たちの背中を見送る。
「…今日はここまでかな。ありがとう。きてくれて本当に助かった」
《駆けつけると約束しましたから》
車掌は爽やかな笑顔を残して、そのまま列車を走らせた。
あとは恋愛電話を修理してもらえば終わり…この考えは甘かったらしい。
『…すみません、先輩』
「陽向?どうしたんだ?」
『俺、電話…死……』
「陽向、応答しろ。陽向」
ずっと雑音が響いていて、何を話しているのか全く分からない。
「ごめん、いってくる」
そのまま階段を駆け下りると、左腕を潰された少年が倒れている。
その下から這い出てきた黒猫は体を震わせていた。
《屋上まで逃げて何するつもり?》
「ちょっと知り合いに手伝ってもらおうと思う。屋上からなら多分呼び出せるだろうから」
おかげさんは首を傾げながらも一緒に走ってくれた。
恨み言やもっと生きたいという切実な願いを聞きながら、とにかく恋愛電話から離れる。
《アイツヲ、殺スノ…》
《マダ、死ニタクナカッタ!》
《その体、貸してくれ》
「…ちょっと会話できそうなのは、多分電話で呼び出された人だ」
足を止めないまま、おかげさんは驚いたような声をあげた。
《…あんな姿の人たちのことも、人って呼んでくれるんだね。まあ、俺のことも人だって言ってくれる詩乃ちゃんだからだと思うけど》
「ちゃんと生きてた人たちだろ?それ以外にどう表現するんだ?」
首を傾げると、おかげさんは声を出して笑った。
《そんなの詩乃ちゃんが初めてだよ。…化け物だって言われてる人たちしか知らないんだ》
「そうか」
私からすれば生きている人間の方が何百倍も怖い。
他人と少しでも違えばすぐ差別、軽蔑、迫害…もう疲れた。
だから私は、人間でいない道を選んだのだ。
「着いた」
《すごいよ、後ろからの圧力が》
「大丈夫。ここに来てもらうから」
線路の跡が残っていれば、すぐに来てくれるはずだ。
胸ポケットに入れておいたものを取り出し、空に向かってかかげる。
「来てくれ、車掌」
夜空を駆け抜ける列車は、汽笛を鳴らしながら真っ直ぐ近づいてきた。
《こんばんは。お久しぶりです。…あなた、何をしたんですか?》
《俺はただ、彼女と一緒に死者をここに集めただけだよ。最近おかしな噂が流行ってて…》
《それもですが、》
「ふたりとも、話すのは後にしてくれ。…車掌、助けてほしい。
この死者たちを消すなんて私にはできない。列車に乗せることは可能か?」
車掌は若干険しい表情を見せる。
《正直、少し厳しいです。これだけ大勢の…それも、死んでから時間が経った者たちを運んだことはありません》
それもそうだ。
この列車は、どちらかといえば死んで間もない人たちを運んでいるはずだ。
大勢いるので全員の身元を調べるのは不可能、それもあの世からもう一度こっち側に戻ってきたなんて前例がないだろう。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「人任せにするのは申し訳ないと思ってる。けど、これしか方法がないんだ。…頼む」
《そんなに頭を下げられてしまったら、仕方ありませんね…。今日は非番ですし、私の車両を使ってお客様たちをお連れします》
「ありがとう」
理性が飛んだ相手を列車に誘導するのは簡単ではなかったが、このままかたをつけたい。
降りていってしまわないように、最後尾と思われる場所まで火炎刃を投げつけた。
「──燃えろ」
札の何十倍と効果を発揮する炎を使っても、今の私はそこまで疲れていない。
《あなたは、人間であることを捨てたんですね》
「やっぱり分かるのか。…色々あって、人間の部分を殺す薬を飲んだ。
けど、人でありたいとは思ってる。人間より別の人たちと関わってた方が楽しいから」
《ご自分で選択されたのなら、私に文句を言う資格はありませんね》
背後から迫る炎に驚いたのか、死者たちは屋上へ全力ダッシュでやってきた。
《お客様、こちらへどうぞ》
車掌に誘導され、続々と乗っていく死霊たちの背中を見送る。
「…今日はここまでかな。ありがとう。きてくれて本当に助かった」
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あとは恋愛電話を修理してもらえば終わり…この考えは甘かったらしい。
『…すみません、先輩』
「陽向?どうしたんだ?」
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「陽向、応答しろ。陽向」
ずっと雑音が響いていて、何を話しているのか全く分からない。
「ごめん、いってくる」
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その下から這い出てきた黒猫は体を震わせていた。
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