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第31章『魔王と夜紅の決着-夜紅の秘技-』
第230話
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屋上で寝転んでいると気配を感じ、勢いよく体をおこす。
《なにひとりで考えこんでるの?》
「…ああ、おかげさんか」
ぬるぬると現れたおかげさんはフードから一瞬複雑そうな様子に見えたが、いつもどおりにぱっと明るく話しはじめる。
《なんだか疲れてるんじゃないかと思って…。いつもならほぼ不死の子と話してるのに、ひとりなんだね》
「今日はそういう気分だったんだ。陽向は鋭いし、表情から読みとられたくないと思った」
《やっぱり悩み事?まあ、あの瓶を自分から飲んじゃう人なんて珍しいからね…》
「知ってたのか」
おかげさんはくくっと声を殺すように笑う。
《俺はあの場所の番人だよ?好きな時代や時間、場所を見ることができる。
…久しぶりに外を見ていたら槍の人に貫かれて、薬を飲んでる詩乃ちゃんが写ってた》
「だから助けに来てくれたのか」
《まあね。夜は暗い場所だらけで、その全体を影とカウントできるから動きやすかったよ。
…それで、詩乃ちゃんは妖とか怪異になりたいの?》
「分からない。ただ、人間でいたくなかった」
本心だった。一生神宮寺一族や私に嫌がらせをして嘲笑ってる奴等と同類なんて死んでもごめんだ。
それに、傷が早く治るならそれでいいと思った。
《そっか。迷ってるから蒼い小瓶は持ってないんだ》
「うん。…だから今の私は分類不能な何かなんだろ?」
《そういうことになるね。しかも分かる人にしか分からないくらいの微々たるものだよ》
おかげさんにはそういうふうに見えているのか。
「少し本を読んでもいいか?」
《いいけど…》
「気になるなら読んでみるか?」
《いいの!?》
「ああ。今日はここで時間をつぶすつもりだから」
全3巻までの小説のうち、3巻目の半分まではもう読み終えている。
おかげさんが1巻から楽しそうに読む様子は、間違いなくただの純粋な子どもだった。
…そのまま夜を迎え、弓の手入れをしてから屋上を出ようとする。
《ねえ、詩乃ちゃん》
「どうした?」
《…また遊びに来てもいい?》
「勿論。おまえが飽きても離してやらないから」
《ありがとう!友だちがいるってこんなに楽しいんだね》
心の霧が晴れたのか、おかげさんは前に話したときより楽しそうだ。
今度こそ屋上を後にして階段を駆け下りる。
恋愛電話の周りには異様な空気が流れていた。
「あ、先輩!」
「何があった?」
「それが、突然恋愛電話が故障したって…」
たしかにさっきからずっとぷすぷす音がする。
よく見てみるとダイヤルが外れていた。
《…最悪よ。乱暴な人間がくるくる回すから…》
黒猫の声にはいつもの明るさがない。
これだけ破壊されてしまってはそうなるだろう。
ただ、それよりも電話を見た瞬間から違和感がある。
「なあ結月。電話の色は変えたのか?」
《何を言って…何よこれ、ペンキ?それとも噂の影響で変色してるの?》
以前視たときは真っ黒なダイヤル式電話だったが、今目の前にあるのは赤黒いものがこびりついてダイヤルが外れてしまったものだ。
「前より怖い雰囲気になってますね…」
「噂のせいだとすると元に戻せば変色した部分はもとに戻る」
ただ、回転ダイヤルまで戻るかは不明だ。
「大丈夫。先生がきっと修理してくれる」
《…幸いこっちは無事だしなんとかするわ。ただ、ダイヤルが壊れるほど電話をかけられたんだとしたら──》
結月の言葉はあたっていたらしい。
目の前からうじゃうじゃと湧き出てくるのは大量の死霊だ。
「え、もしかしてこれ全部電話かけられた人ですか!?」
「いや。多分電話の相手が出てくるところを見てついてきた奴もいるんだろう。
…今回は屋上に誘導する。おまえは結月と恋愛電話の死守。いいな?」
「先輩ひとりじゃ、」
《今日はまあまあな月だから俺も手伝うよ》
「おまえ…んじゃ頼むわ、おかげさん」
先生が今も疲れて寝ているなら、瞬もその近くにいるだろう。
桜良にはできるだけ力を使ってほしくないので、今動けるのはこれで全員だ。
「…珍しい夜仕事になりそうだ」
「頑張りましょう」
まずは矢を3本放つ。
私に興味を向けさせ、全力鬼ごっこが始まった。
《なにひとりで考えこんでるの?》
「…ああ、おかげさんか」
ぬるぬると現れたおかげさんはフードから一瞬複雑そうな様子に見えたが、いつもどおりにぱっと明るく話しはじめる。
《なんだか疲れてるんじゃないかと思って…。いつもならほぼ不死の子と話してるのに、ひとりなんだね》
「今日はそういう気分だったんだ。陽向は鋭いし、表情から読みとられたくないと思った」
《やっぱり悩み事?まあ、あの瓶を自分から飲んじゃう人なんて珍しいからね…》
「知ってたのか」
おかげさんはくくっと声を殺すように笑う。
《俺はあの場所の番人だよ?好きな時代や時間、場所を見ることができる。
…久しぶりに外を見ていたら槍の人に貫かれて、薬を飲んでる詩乃ちゃんが写ってた》
「だから助けに来てくれたのか」
《まあね。夜は暗い場所だらけで、その全体を影とカウントできるから動きやすかったよ。
…それで、詩乃ちゃんは妖とか怪異になりたいの?》
「分からない。ただ、人間でいたくなかった」
本心だった。一生神宮寺一族や私に嫌がらせをして嘲笑ってる奴等と同類なんて死んでもごめんだ。
それに、傷が早く治るならそれでいいと思った。
《そっか。迷ってるから蒼い小瓶は持ってないんだ》
「うん。…だから今の私は分類不能な何かなんだろ?」
《そういうことになるね。しかも分かる人にしか分からないくらいの微々たるものだよ》
おかげさんにはそういうふうに見えているのか。
「少し本を読んでもいいか?」
《いいけど…》
「気になるなら読んでみるか?」
《いいの!?》
「ああ。今日はここで時間をつぶすつもりだから」
全3巻までの小説のうち、3巻目の半分まではもう読み終えている。
おかげさんが1巻から楽しそうに読む様子は、間違いなくただの純粋な子どもだった。
…そのまま夜を迎え、弓の手入れをしてから屋上を出ようとする。
《ねえ、詩乃ちゃん》
「どうした?」
《…また遊びに来てもいい?》
「勿論。おまえが飽きても離してやらないから」
《ありがとう!友だちがいるってこんなに楽しいんだね》
心の霧が晴れたのか、おかげさんは前に話したときより楽しそうだ。
今度こそ屋上を後にして階段を駆け下りる。
恋愛電話の周りには異様な空気が流れていた。
「あ、先輩!」
「何があった?」
「それが、突然恋愛電話が故障したって…」
たしかにさっきからずっとぷすぷす音がする。
よく見てみるとダイヤルが外れていた。
《…最悪よ。乱暴な人間がくるくる回すから…》
黒猫の声にはいつもの明るさがない。
これだけ破壊されてしまってはそうなるだろう。
ただ、それよりも電話を見た瞬間から違和感がある。
「なあ結月。電話の色は変えたのか?」
《何を言って…何よこれ、ペンキ?それとも噂の影響で変色してるの?》
以前視たときは真っ黒なダイヤル式電話だったが、今目の前にあるのは赤黒いものがこびりついてダイヤルが外れてしまったものだ。
「前より怖い雰囲気になってますね…」
「噂のせいだとすると元に戻せば変色した部分はもとに戻る」
ただ、回転ダイヤルまで戻るかは不明だ。
「大丈夫。先生がきっと修理してくれる」
《…幸いこっちは無事だしなんとかするわ。ただ、ダイヤルが壊れるほど電話をかけられたんだとしたら──》
結月の言葉はあたっていたらしい。
目の前からうじゃうじゃと湧き出てくるのは大量の死霊だ。
「え、もしかしてこれ全部電話かけられた人ですか!?」
「いや。多分電話の相手が出てくるところを見てついてきた奴もいるんだろう。
…今回は屋上に誘導する。おまえは結月と恋愛電話の死守。いいな?」
「先輩ひとりじゃ、」
《今日はまあまあな月だから俺も手伝うよ》
「おまえ…んじゃ頼むわ、おかげさん」
先生が今も疲れて寝ているなら、瞬もその近くにいるだろう。
桜良にはできるだけ力を使ってほしくないので、今動けるのはこれで全員だ。
「…珍しい夜仕事になりそうだ」
「頑張りましょう」
まずは矢を3本放つ。
私に興味を向けさせ、全力鬼ごっこが始まった。
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