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第31章『魔王と夜紅の決着-夜紅の秘技-』
第229話
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「結月、大丈夫か?」
《まだ特に何の変化もないわ。というより、影響を及ぼすには噂が届いてなさすぎなのよ。
同じ手を使って私の電話を穢そうなんて1万年早いわ》
強がりではなく、結月は特に変わった様子はなく元気そうだった。
《まあ、あいつのおかげもあるんだけどね》
「え?」
猫耳少女の姿になった結月は不安げに瞳を揺らしながらどこかへ走っていく。
後を追いかけると、いつの間にか目の前に恋愛電話が現れた。
「死者にかけたわね、人間」
「そういうの、分かるのか?」
「持ち主だもの、それくらい分かるわ。流石に冥界まで電話が通じた例なんてなかったはずだけど、調べるべきかしら」
結月がため息を吐きたくなるのも分かる。
純粋な気持ちで生者に恋愛電話を使った人間が大勢いるなかで、ごく一部の死者にかけた記録を探し出さなければならないのだ。
「私にも手伝えるか?」
「字を読むだけで退屈なことだらけよ?」
「構わないよ。授業がないから退屈してたところなんだ」
「…それならあんたはこっち。あそこの山になってる分は私じゃないと読めないから」
「分かった」
結月がまめに記録をつけてくれていたおかげでとても調べやすかった。
かけた人間と電話番号の相手の名前がしっかり綴られていて、黒丸印がつけられているのが亡くなった人と連絡をとろうとした人だろう。
「どの番号だったか分かるか?」
「…多分これね」
全く読めない文字で書かれたそれを、私でも読めるように書き直してくれた。
「染谷雄大…多分定時制の生徒だ。相手の番号も見覚えがある気がする」
「ここの生徒だった人間よ。あなたが対処したんじゃない?」
その言葉を聞いて納得する。
監査部として携わるのは、自ら命をたつところまで追いつめられてしまったケースも少なくない。
「多分この学校の生徒じゃない。隣町…死へ誘う少女の噂があった学校の近くだな」
あの学校とは別に、教員たちも追いつめられるほど崩壊した学校がある。
そこでいじめのターゲットになり、遺書を残して命を経った生徒がいたはずだ。
「あの子の番号かもしれない。もし知り合いがいるようなら心のケアをしっかりって情報共有されるんだ。
事故や病気の場合もそうだが、染谷雄大はどれなんだろうな…」
莫大な量の資料を読んでと見つけるのは難しいだろう。
「難病で亡くなった子はいる?」
「先月と8ヶ月前にいたはずだ」
「どちらかの可能性が高いわ。死んでから日が浅いから電話に出られた可能性が高いし、そもそもこの電話からかけて確実に相手に繋げるには携帯電話にかけるしかないもの」
「それもそうか。…携帯番号は個人情報だから分からない。先生なら知ってるのかな」
「…あんた、本当に夜紅なのよね?」
どうしてそんなことを訊かれたのか分からなかった。
「それ以外何に見えるんだ」
「…それもそうね」
やっぱり、私が人間ではない部分が増幅しているのだろうか。
偃月が近づくにつれ、なんだか体がふわふわしている。
どれだけ朝の日課の稽古をこなしてもほとんど疲れない。
「また夜来るよ。もしそれまでに何か現れたらすぐ呼んでくれ」
「分かった」
その場を離れ、真っ直ぐ旧校舎の保健室へ向かう。
今のまま陽向に会えば、確実に様子がおかしいと気づかれてしまうからだ。
それに、自分でもなんとなく分かっている。…おきてはいけない変化が現れていることに。
「先生、いるか?」
中に入ったものの人の気配を感じない。
恐る恐るさらに奥へ進むと、熟睡している先生の姿があった。
いつも採血やらに使う道具を近くに用意したままぐっすりだ。
【検診は先生の都合がいい時間にお願いします】
「これでいいかな…」
結局監査室には立ち寄らず、屋上への扉を開ける。
もし今私の体に変化がおきているならどんな感じなんだろう。
どうなっていくのか不安だが、知らずに生きていく自信はなかった。
《まだ特に何の変化もないわ。というより、影響を及ぼすには噂が届いてなさすぎなのよ。
同じ手を使って私の電話を穢そうなんて1万年早いわ》
強がりではなく、結月は特に変わった様子はなく元気そうだった。
《まあ、あいつのおかげもあるんだけどね》
「え?」
猫耳少女の姿になった結月は不安げに瞳を揺らしながらどこかへ走っていく。
後を追いかけると、いつの間にか目の前に恋愛電話が現れた。
「死者にかけたわね、人間」
「そういうの、分かるのか?」
「持ち主だもの、それくらい分かるわ。流石に冥界まで電話が通じた例なんてなかったはずだけど、調べるべきかしら」
結月がため息を吐きたくなるのも分かる。
純粋な気持ちで生者に恋愛電話を使った人間が大勢いるなかで、ごく一部の死者にかけた記録を探し出さなければならないのだ。
「私にも手伝えるか?」
「字を読むだけで退屈なことだらけよ?」
「構わないよ。授業がないから退屈してたところなんだ」
「…それならあんたはこっち。あそこの山になってる分は私じゃないと読めないから」
「分かった」
結月がまめに記録をつけてくれていたおかげでとても調べやすかった。
かけた人間と電話番号の相手の名前がしっかり綴られていて、黒丸印がつけられているのが亡くなった人と連絡をとろうとした人だろう。
「どの番号だったか分かるか?」
「…多分これね」
全く読めない文字で書かれたそれを、私でも読めるように書き直してくれた。
「染谷雄大…多分定時制の生徒だ。相手の番号も見覚えがある気がする」
「ここの生徒だった人間よ。あなたが対処したんじゃない?」
その言葉を聞いて納得する。
監査部として携わるのは、自ら命をたつところまで追いつめられてしまったケースも少なくない。
「多分この学校の生徒じゃない。隣町…死へ誘う少女の噂があった学校の近くだな」
あの学校とは別に、教員たちも追いつめられるほど崩壊した学校がある。
そこでいじめのターゲットになり、遺書を残して命を経った生徒がいたはずだ。
「あの子の番号かもしれない。もし知り合いがいるようなら心のケアをしっかりって情報共有されるんだ。
事故や病気の場合もそうだが、染谷雄大はどれなんだろうな…」
莫大な量の資料を読んでと見つけるのは難しいだろう。
「難病で亡くなった子はいる?」
「先月と8ヶ月前にいたはずだ」
「どちらかの可能性が高いわ。死んでから日が浅いから電話に出られた可能性が高いし、そもそもこの電話からかけて確実に相手に繋げるには携帯電話にかけるしかないもの」
「それもそうか。…携帯番号は個人情報だから分からない。先生なら知ってるのかな」
「…あんた、本当に夜紅なのよね?」
どうしてそんなことを訊かれたのか分からなかった。
「それ以外何に見えるんだ」
「…それもそうね」
やっぱり、私が人間ではない部分が増幅しているのだろうか。
偃月が近づくにつれ、なんだか体がふわふわしている。
どれだけ朝の日課の稽古をこなしてもほとんど疲れない。
「また夜来るよ。もしそれまでに何か現れたらすぐ呼んでくれ」
「分かった」
その場を離れ、真っ直ぐ旧校舎の保健室へ向かう。
今のまま陽向に会えば、確実に様子がおかしいと気づかれてしまうからだ。
それに、自分でもなんとなく分かっている。…おきてはいけない変化が現れていることに。
「先生、いるか?」
中に入ったものの人の気配を感じない。
恐る恐るさらに奥へ進むと、熟睡している先生の姿があった。
いつも採血やらに使う道具を近くに用意したままぐっすりだ。
【検診は先生の都合がいい時間にお願いします】
「これでいいかな…」
結局監査室には立ち寄らず、屋上への扉を開ける。
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