夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』

第228話

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「この前旧校舎から飛び降りようとした人がいたらしいよ」
「え、やば」
あの生徒の顔は漠然としか覚えていないが、この学園のどこかにいるはずだ。
それともうひとつ、どうにも気になっていることがある。
「おは、」
「うるさい!俺のことなんて分かるはずない!」
「ちょっと落ち着いて、もうちょい話を…」
声の主は間違いなくあの日屋上にいた男子生徒だ。
もうひとつの声にも聞き覚えがある。
「取り込み中ですか?」
「せ…監査部長、おはようございます」
陽向は困惑した表情を浮かべながら、なんとか男子生徒をなだめようとしている。
「単刀直入に聞きます。…あなたのお姉さんが亡くなられた原因をこの学園の生徒が握っているという話でしたが、詳しく聞かせていただけませんか?」
「なんで見ず知らずの人に話さないといけないんですか?」
「私がお姉さんの知り合いだから、という個人的事情は置いておいて…この学園にあるというなら、それを訴えるのが監査部の仕事だからです」
目は血走り、頬はこけ、とてもじゃないけど健康とは言い難い状態だ。
錯乱して刃物を振り回されたら止められる自信はない。
「姉のことをお母さんって小馬鹿にした奴がいた。けど、姉がいてくれたから俺たちは生きてこられたわけで…」
「これはあくまで仮定の話ですが、その方は小馬鹿にしたわけではなく褒めていたのではありませんか?」
「はあ?」
反抗的な反応だったものの、驚いたように目を見開いている。
「面倒見がよく、炊事に洗濯、小さな子たちの迎えもしていたと聞いています。
その方はきっと馬鹿にしたわけではなく、それだけのことができるお姉さんを褒めていたのではないでしょうか?」
「だけど、あのお兄さんは馬鹿にされたんだって…」
「お兄さん?」
嫌な予感しかしなかった。
できればこの先を知りたくなかったが、そうも言っていられない。
「君は馬鹿にされたんだ、だからそんな奴倒していいって…」
「おまえはそいつに唆されたんだ。それまでは相手の生徒に対して、憎しみなんてなかったんじゃないか?
お姉さんは人を憎むような性格じゃなかったし、今自分の弟が暴力をふるったと知ればきっと傷つく」
目の前の生徒ははっとした表情を見せた後、涙を流しはじめた。
「……ごめんなさい。俺が悪かったです。なんか、急に憎くなっちゃって、殴っちゃって…施設に馴染めないのもあって、ぐちゃぐちゃになってました」
「相手としっかり話し合ってください。きっと今ならまだ分かりあえる」
男子生徒が頷いた直後、別の生徒が入ってきた。
「…失礼します」
「おまえ、それ…」
頬にガーゼを貼った少年は頭を下げた。
「ごめん。お姉さんのこと、馬鹿にしたつもりはなかったんだ。小さい頃から放置されてるから寧ろ羨ましくて…理想のお母さんみたいだって思っただけなんだ。
またお姉さんの話も聞かせてほしいって思ってる。…俺たち、まだ友だちでいられるかな?」
「おまえがいいなら、友だちでいたい」
私たちの介入なんて必要なかったようだ。
強いて言うなら、弟の方にカウンセラーを紹介するくらいだろうか。
頭を下げて帰っていくふたりを見送り、嫌な予感が的中したことに息を吐く。
「どうしたんですか?もしかして、あのふたりを疑ってるとか…」
「違うよ。ただ、あの男が生きてる人間にも精神干渉できるようになってるってことを知って困惑してるだけだ」
「そういえば、お兄さんとやらから話を聞いてからって…まさか、あの男なんですか?」
「ほぼ確定だろうな」
今までは噂を広めるときにしか人間に干渉しなかったわけだが、これからは精神攻撃をしてくる可能性もあるということだ。
「先生に知らせよう。もう新しい噂も広まりはじめてるから」




「恋愛電話で死者にかけると、復活させてくれるんだって!」
「え、そうなの?」
「うん。だけど…その代わりに──」
「全員そろそろ教室入れ。ホームルームだぞ」
「は、はい!」
「室星先生に声かけられちゃった。ラッキー!」
なんとか全てが話される直前に止めた教師は盛大なため息を吐く。
《死者を復活させるなんてできないわよ》
不機嫌な猫耳少女にキャラメルを渡し、自分の教室に入る教師。
その表情は、かなり険しいものだった。
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