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第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』
第227話
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「さっきぶりだな。また飛び降りるのか?」
目玉が飛び出し、もう少女だった面影は殆どない。
《と、止まラナい…》
「少し熱いと思うが我慢してくれ」
ここで全ての技を使うわけにはいかない。
だからといって、このまま放っておけばこの少女は手遅れになる。
悩んだ末、弓より火炎刃の方が対処しやすいと判断した。
「──燃えあがれ」
噂が原因でできたと思われる傷を少しずつ焼き払っていく。
炎を使い方を間違えれば殺してしまうが、この程度なら消毒ですむだろう。
じたばた暴れていた少女は少ししておとなしくなった。
《あれ、私…そうだ、弟はどうなったの?》
「なんとか止められたよ。…あの腕はおまえのだったんだよな?」
《切り離すのは痛かったけど、私は死んでるんだから…最期くらい、いいお姉ちゃんでいたかった》
少女の心はどこまでも優しい。
今でも気にしているのは弟妹のことだろう。
「乃木原ビルの事件について調べた。おまえの一件の後、弟妹はすぐに施設に引き取られたらしい。
母親は行方不明のままだが、父親は虐待で逮捕された」
《…もう、私がいなくても大丈夫なんだね。ありがとう。最後にあなたと話せて、私がここにいた意味があったんだって実感できた。
あの男は、あなたを消したがっていたわ。あとは全てを自分のものにするとか話していたけど、正気じゃなかった…》
その体は少しずつ天に向かってのぼっていく。
《すごく寂しかったんだと思うの。お願い、あの男を止めて》
その言葉を最後に少女は消えてしまった。
あの男の噂を捻じ曲げる力があれば、たしかに全てを支配するなんてこともできないわけではないのかもしれない。
…そんなことをしても虚しいだけだろうが。
「墓参り、行ってもいいかな」
『喜んでもらえますよ。無縁仏になってるみたいでしたから』
「起きたのか。体は平気か?」
『落ちてくる人間を受け止めるのって結構痛いんですね』
陽向が苦笑する声がインカム越しに心地よく届く。
「墓がなかったのか、親が何もしなかったのか…」
『内情までは分からないですね。ただ、あの男が絡んでたのは間違いないんですよね?』
「うん。本人から聞いた。全てを支配してどうのと正気じゃない様子で話していたと」
『世界征服ですか?そんなことして何が面白いんだが』
「…自分を認めてくれる世界を造ろうとしているのかもしれないな」
あの男は私みたいに大切なものがあるわけじゃない。
家に縛られ、家から不遇な扱いを受け、怪異たちを使って愛を得ようとした人間だ。
やったことは赦されないが、認められたい気持ちは分からなくもない。
私はたまたま私自身を見てくれる母親と楽しく過ごせる妹がいたが、陽向や瞬にはそれがいなかったし桜良に至っては怖がられていると聞いている。
「八尋さんに連絡してみる。情報共有するって話しておいたからな」
『そういえばあの男、味方いるんですかね?俺たちと総力戦になったとして、本気で勝てると思ってるなら笑えます』
「味方か…いないだろうな。強いて言えば、強引に噂を捻じ曲げられた人たちか」
『絆がない仲間ってやつですね。最悪じゃないですか、百鬼夜行みたいに来られたら…自分で言っといてゾッとしました』
「そうならないことを祈ろう」
屋上で月を眺めながら話す。
しばらく沈黙が流れた後、陽向が尋ねてきた。
『…先輩が卒業しても、俺たち一緒に夜仕事続けていいですか?』
「陽向たちがいいなら。私はひとりになっても見回りをやめるつもりはない」
『それならよかった…。先輩に会えないんじゃないかと思ってたので、安心しました』
「人間相手に話すのは得意じゃないけど、大事な友人に会いに行くくらいはしても罰は当たらないだろう」
ひと段落した後の夜風はとても気持ちよくて、その場に腰を下ろして薄荷飴を口に入れる。
卒業してもみんなと離れたくない。…今だけは、そんな我儘を言ってもいいだろうか。
「逃サナい。俺の世界ヲ造ッてやル!」
…まだ全てが片づいていなかったことを知らないまま。
目玉が飛び出し、もう少女だった面影は殆どない。
《と、止まラナい…》
「少し熱いと思うが我慢してくれ」
ここで全ての技を使うわけにはいかない。
だからといって、このまま放っておけばこの少女は手遅れになる。
悩んだ末、弓より火炎刃の方が対処しやすいと判断した。
「──燃えあがれ」
噂が原因でできたと思われる傷を少しずつ焼き払っていく。
炎を使い方を間違えれば殺してしまうが、この程度なら消毒ですむだろう。
じたばた暴れていた少女は少ししておとなしくなった。
《あれ、私…そうだ、弟はどうなったの?》
「なんとか止められたよ。…あの腕はおまえのだったんだよな?」
《切り離すのは痛かったけど、私は死んでるんだから…最期くらい、いいお姉ちゃんでいたかった》
少女の心はどこまでも優しい。
今でも気にしているのは弟妹のことだろう。
「乃木原ビルの事件について調べた。おまえの一件の後、弟妹はすぐに施設に引き取られたらしい。
母親は行方不明のままだが、父親は虐待で逮捕された」
《…もう、私がいなくても大丈夫なんだね。ありがとう。最後にあなたと話せて、私がここにいた意味があったんだって実感できた。
あの男は、あなたを消したがっていたわ。あとは全てを自分のものにするとか話していたけど、正気じゃなかった…》
その体は少しずつ天に向かってのぼっていく。
《すごく寂しかったんだと思うの。お願い、あの男を止めて》
その言葉を最後に少女は消えてしまった。
あの男の噂を捻じ曲げる力があれば、たしかに全てを支配するなんてこともできないわけではないのかもしれない。
…そんなことをしても虚しいだけだろうが。
「墓参り、行ってもいいかな」
『喜んでもらえますよ。無縁仏になってるみたいでしたから』
「起きたのか。体は平気か?」
『落ちてくる人間を受け止めるのって結構痛いんですね』
陽向が苦笑する声がインカム越しに心地よく届く。
「墓がなかったのか、親が何もしなかったのか…」
『内情までは分からないですね。ただ、あの男が絡んでたのは間違いないんですよね?』
「うん。本人から聞いた。全てを支配してどうのと正気じゃない様子で話していたと」
『世界征服ですか?そんなことして何が面白いんだが』
「…自分を認めてくれる世界を造ろうとしているのかもしれないな」
あの男は私みたいに大切なものがあるわけじゃない。
家に縛られ、家から不遇な扱いを受け、怪異たちを使って愛を得ようとした人間だ。
やったことは赦されないが、認められたい気持ちは分からなくもない。
私はたまたま私自身を見てくれる母親と楽しく過ごせる妹がいたが、陽向や瞬にはそれがいなかったし桜良に至っては怖がられていると聞いている。
「八尋さんに連絡してみる。情報共有するって話しておいたからな」
『そういえばあの男、味方いるんですかね?俺たちと総力戦になったとして、本気で勝てると思ってるなら笑えます』
「味方か…いないだろうな。強いて言えば、強引に噂を捻じ曲げられた人たちか」
『絆がない仲間ってやつですね。最悪じゃないですか、百鬼夜行みたいに来られたら…自分で言っといてゾッとしました』
「そうならないことを祈ろう」
屋上で月を眺めながら話す。
しばらく沈黙が流れた後、陽向が尋ねてきた。
『…先輩が卒業しても、俺たち一緒に夜仕事続けていいですか?』
「陽向たちがいいなら。私はひとりになっても見回りをやめるつもりはない」
『それならよかった…。先輩に会えないんじゃないかと思ってたので、安心しました』
「人間相手に話すのは得意じゃないけど、大事な友人に会いに行くくらいはしても罰は当たらないだろう」
ひと段落した後の夜風はとても気持ちよくて、その場に腰を下ろして薄荷飴を口に入れる。
卒業してもみんなと離れたくない。…今だけは、そんな我儘を言ってもいいだろうか。
「逃サナい。俺の世界ヲ造ッてやル!」
…まだ全てが片づいていなかったことを知らないまま。
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