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第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』
第225話
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「さっきの生徒、乃木原ビルで自殺した女の子の弟でした」
「やっぱりか」
あの白い腕から感じたのは、憎しみではなく不安と恐怖だった。
どんな手を使っても飛び降りるのを止めたかったんだろう。
「にしても、なんで屋上の鍵開いてたんですかね…」
「それは私も疑問に思った」
副校長からもらった私の他に鍵を持っているのは、天文部としても活動していた室星先生だけのはずだ。
「…これもあの男が関係しているのか」
「噂絡みって可能性もありますよね…。あと、あの白い腕って腕単体なんですかね?
それとも、まさか千切れた腕が勝手に動いてるとか…」
「不明だ」
飛び降りたときに体の一部が欠損したのか、腕だけでも残しておけば引き止められると思ったのか…答えは本人に訊いてみないと分からない。
「夜になるまで現れない可能性が高いな。…今は多分新校舎の屋上から飛び降りてるんだろう」
「ずっと飛び降り続けたら心がすり減る気がしますけど、そのへん大丈夫なんですかね…」
「正直、大丈夫だって言えるような状態じゃなかった」
柵を持って体重をかけないと体が勝手に落ちてしまう。
それが続けば続くほど心も体も弱っていく一方だ。
「自我が消失するまでどれくらい猶予があるか分からない。とにかくやるしかない」
「ですね。今夜も頑張りましょう」
陽向をその場に置いたまま、先生がいる旧校舎の保健室へ向かう。
「やっと来たか」
「ごめん。不自然じゃないように抜けるのが難しかったんだ」
いつもどおりの血液検査なはずなのに、体がふらつくのは何故だろう。
半月が近づいてきているからか、連日血液を抜きすぎたせいか…自分では判断がつかない。
「……ら、折原」
「ああ、ごめん。もう終わりか」
「顔色がよくない。少し休んでいけ」
「そうさせてもらおうかな」
そういえば、最近床で寝ていることが多かった気がする。
久しぶりの布団に安堵しつつ、そのままゆっくり眠りに落ちていった。
【詩乃】
お母さんの声がする。
ぼんやり目を開けると、想像通りの人物がいた。
【ごめんね。あなたにばかり頑張らせてしまって…】
「もういいんだ。謝らないでくれ」
ただの夢だと分かっていても、謝られるのは辛い。
【あなたは優しい子よ。だけど、やっぱり──】
いつもこの先が聞こえない。
なんて言っているのか知りたいような、知りたくないような気持ちになる。
…結局、またここまでで終わってしまった。
「起きたか」
「ああ…ごめん」
「別にいい。体調を崩しているときくらいしっかり休め」
「ありがとう。けど、早く解決してやりたいから行かないと」
「それなら俺が調べてきましたよ」
いつの間に来ていたのか、資料を抱えた陽向がいつもどおり微笑んでいる。
「ごめん。私もやろうと思っていたのに…」
「具合悪いときくらいしっかり休んでほしいです。資料まとめるくらいならできますから。だって俺、監査部ですよ?」
疲れた顔ひとつせず笑ってくれるのがありがたい。
丁寧にまとめられた資料に目を通していると、どうしても気になった部分があった。
「下に弟や妹がいたという話は聞いたが、上にお兄さんがいたのは知らなかったな」
「そうなんですか?一緒に暮らさないうちに忘れちゃったんですかね…」
兄と書かれた人物の名前の横には失踪の2文字が並んでいる。
「失踪した時期が分かるものはないか?」
「一応調べてみましたけど、そこまで詳しく触れられている記事はなかったです」
「そうか。…年齢不詳ってことは、兄がいることさえ知らずに亡くなったのかもな」
学園に在籍していたわけではない個人の情報を私たちが集めるのは難しい。
「それも本人に訊くしかないのか…」
「そういえば、夜しか飛び降りないんですかね?けど、それなら噂が広まった理由が分からないままだし…謎だらけですね」
言われてみればそうだ。
噂になるくらいなんだから誰かひとりくらい目撃者がいないとおかしい。
「今夜も旧校舎の屋上で待ってみるよ。陽向は新校舎で待ってみてくれ。
別棟には定時制の生徒たちがいるから可能性は低いはずだ」
「了解です!」
こうして、今夜も帰りはかなり遅くなることが決定した。
なんとか今夜で解決できるだろうか。
「やっぱりか」
あの白い腕から感じたのは、憎しみではなく不安と恐怖だった。
どんな手を使っても飛び降りるのを止めたかったんだろう。
「にしても、なんで屋上の鍵開いてたんですかね…」
「それは私も疑問に思った」
副校長からもらった私の他に鍵を持っているのは、天文部としても活動していた室星先生だけのはずだ。
「…これもあの男が関係しているのか」
「噂絡みって可能性もありますよね…。あと、あの白い腕って腕単体なんですかね?
それとも、まさか千切れた腕が勝手に動いてるとか…」
「不明だ」
飛び降りたときに体の一部が欠損したのか、腕だけでも残しておけば引き止められると思ったのか…答えは本人に訊いてみないと分からない。
「夜になるまで現れない可能性が高いな。…今は多分新校舎の屋上から飛び降りてるんだろう」
「ずっと飛び降り続けたら心がすり減る気がしますけど、そのへん大丈夫なんですかね…」
「正直、大丈夫だって言えるような状態じゃなかった」
柵を持って体重をかけないと体が勝手に落ちてしまう。
それが続けば続くほど心も体も弱っていく一方だ。
「自我が消失するまでどれくらい猶予があるか分からない。とにかくやるしかない」
「ですね。今夜も頑張りましょう」
陽向をその場に置いたまま、先生がいる旧校舎の保健室へ向かう。
「やっと来たか」
「ごめん。不自然じゃないように抜けるのが難しかったんだ」
いつもどおりの血液検査なはずなのに、体がふらつくのは何故だろう。
半月が近づいてきているからか、連日血液を抜きすぎたせいか…自分では判断がつかない。
「……ら、折原」
「ああ、ごめん。もう終わりか」
「顔色がよくない。少し休んでいけ」
「そうさせてもらおうかな」
そういえば、最近床で寝ていることが多かった気がする。
久しぶりの布団に安堵しつつ、そのままゆっくり眠りに落ちていった。
【詩乃】
お母さんの声がする。
ぼんやり目を開けると、想像通りの人物がいた。
【ごめんね。あなたにばかり頑張らせてしまって…】
「もういいんだ。謝らないでくれ」
ただの夢だと分かっていても、謝られるのは辛い。
【あなたは優しい子よ。だけど、やっぱり──】
いつもこの先が聞こえない。
なんて言っているのか知りたいような、知りたくないような気持ちになる。
…結局、またここまでで終わってしまった。
「起きたか」
「ああ…ごめん」
「別にいい。体調を崩しているときくらいしっかり休め」
「ありがとう。けど、早く解決してやりたいから行かないと」
「それなら俺が調べてきましたよ」
いつの間に来ていたのか、資料を抱えた陽向がいつもどおり微笑んでいる。
「ごめん。私もやろうと思っていたのに…」
「具合悪いときくらいしっかり休んでほしいです。資料まとめるくらいならできますから。だって俺、監査部ですよ?」
疲れた顔ひとつせず笑ってくれるのがありがたい。
丁寧にまとめられた資料に目を通していると、どうしても気になった部分があった。
「下に弟や妹がいたという話は聞いたが、上にお兄さんがいたのは知らなかったな」
「そうなんですか?一緒に暮らさないうちに忘れちゃったんですかね…」
兄と書かれた人物の名前の横には失踪の2文字が並んでいる。
「失踪した時期が分かるものはないか?」
「一応調べてみましたけど、そこまで詳しく触れられている記事はなかったです」
「そうか。…年齢不詳ってことは、兄がいることさえ知らずに亡くなったのかもな」
学園に在籍していたわけではない個人の情報を私たちが集めるのは難しい。
「それも本人に訊くしかないのか…」
「そういえば、夜しか飛び降りないんですかね?けど、それなら噂が広まった理由が分からないままだし…謎だらけですね」
言われてみればそうだ。
噂になるくらいなんだから誰かひとりくらい目撃者がいないとおかしい。
「今夜も旧校舎の屋上で待ってみるよ。陽向は新校舎で待ってみてくれ。
別棟には定時制の生徒たちがいるから可能性は低いはずだ」
「了解です!」
こうして、今夜も帰りはかなり遅くなることが決定した。
なんとか今夜で解決できるだろうか。
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