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第30章『魔王と夜紅の決着-新たな絶望の幕開け-』
第224話
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「あれ、お姉ちゃん…?」
「おはよう」
夜中に帰ってきたのを知らない穂乃は、ぱっと笑って小走りで駆け寄ってきた。
菜箸を置いて頭を撫で、完成した弁当を渡す。
「お姉ちゃんのお弁当、やっぱり可愛い…。今度作り方教えて」
「動物ハンバーグか?」
「うん。なかなか上手く焼けなかったから…」
「また今度な。それじゃあいってくる」
「いってらっしゃい」
もうすぐ穂乃も卒業式だ。
どんな服装で参加しようか、穂乃の髪をどうやって結おうか…考えるだけで楽しい。
旧校舎の出入り口まで辿り着くと、そわそわしていた瞬に声をかけられた。
「おはよう詩乃ちゃん」
「瞬…おはよう。昨日はどこにいたんだ?」
「先生に頼まれて、探しものをしてたんだ。全然見つからなくて、結局早朝までかかっちゃった」
「大丈夫なのか?」
流石に休まないと体が辛いだろう。
それでもここにいたということは、誰かを待っているのだろうか。
「詩乃ちゃんと話がしたくて待ってたんだ」
「私と?」
意外だった。
陽向と話しているところはよく見かけるが、私が相手では退屈させてしまいそうだ。
考えていることを察されたのか、瞬はにこりと笑って私の手をひく。
「僕は今、猛烈に詩乃ちゃんと話がしたい気分なんだ。お願い、ちょっとつきあって」
「今日は監査部の仕事もないだろうし、別に構わないけど…」
「じゃあ決まり!一緒に来て」
手を引かれて辿り着いたのは瞬の部屋だった。
なんだか前来たときよりものが増えている気がするが、それだけ想い出が増えたと捉えていいのだろうか。
「僕は、詩乃ちゃんたちのおかげで今楽しく過ごせてる。…だから、これはそのお礼」
手にのせられたのは、金平糖が見え隠れしている袋だった。
「ありがとう。大切に食べるよ」
「プラネタリウム、見ていかない?」
「そうさせてもらおうかな」
そういえば、最近ゆっくり星を眺めることもなかった。
たまにこういうゆったりした時間が欲しくなる。
「…ありがとう、瞬」
ぐっすり眠ってしまった瞬の頭を撫で、感謝の気持ちを綴った手紙を置いてその場を離れる。
結局呼び止められた理由ははっきりと分からなかったが、もらった金平糖はありがたくいただこうと思う。
『詩乃先輩、聞こえますか?』
「どうした?」
『至急旧校舎の屋上に向かってください。私じゃ走っても、間に合わな、くて…』
「分かった、すぐ向かう」
何故そんなことを言われたのか不明なままだが、とにかく足を動かす。
いつもなら閉まっている屋上の鍵は何故か開いていて、そのまま中に突入した。
「監査部です。そこで何をしているのか、」
「うるさい!僕に近寄るな!」
相手は興奮しているのか、会話できる状態ではなさそうだ。
よく見ると相手の首に真っ白な手が巻きついている。
左腕だけが、だ。
「そこから飛び降りるつもりなのか?」
「あ、当たり前だろ。姉ちゃんが通えなかったこの場所で…姉ちゃんを追いつめた関係者がいるこの場所で死ぬ!」
通えなかったというのは試験に落ちたのか、それとも…。
男子生徒の足は震えている。
この高さから落下すれば、冗談抜きで怪我程度ではすまされない。
「あいつは懲らしめた。だから、僕も姉ちゃんのところに行くね…」
足が離れるのとほぼ同時に地面を蹴る。
なんとか相手の腕を掴んだが、思った以上に暴れられてしまう。
「離して!…お願いだから、もう死なせてくれ」
「無理だ。私にはできない」
己の非力さを悔い、もう二度と光の道を歩けないと思っていた。
だが、そんな私でも今こうしてここにいる。
まだ断定はできないが、男子生徒の正体が分かったかもしれない。
「もう誰かがいなくなるのは嫌なんだ」
「や、やめろ…」
相手が振り回したカッターが左手に直撃する。
ぽたぽたと滴り落ちる血に構わず、そのまま離さなかった。
…と、相手の体が突然軽くなりなんとか引き上げる。
「よかった、ぎりぎりセーフ」
陽向だった。
「取り敢えず、君には一緒に来てもらおうかな。そっちで先生やカウンセラーさんが待ってるから」
「なんでだよ…」
「そんなことをしてもお姉さんは還ってこないし喜ばない。
…けど、護れなくて悔しい気持ちは私にも分かるよ」
男子生徒は涙を流しながら白井先生や室星先生に連れて行かれる。
昔の自分を見ているようで、少し苦しくなった。
「…燃えろ」
男子生徒の首と首に巻きついていた青白い手の間に炎を通すと、陽の光から隠れるように消えていった。
「おはよう」
夜中に帰ってきたのを知らない穂乃は、ぱっと笑って小走りで駆け寄ってきた。
菜箸を置いて頭を撫で、完成した弁当を渡す。
「お姉ちゃんのお弁当、やっぱり可愛い…。今度作り方教えて」
「動物ハンバーグか?」
「うん。なかなか上手く焼けなかったから…」
「また今度な。それじゃあいってくる」
「いってらっしゃい」
もうすぐ穂乃も卒業式だ。
どんな服装で参加しようか、穂乃の髪をどうやって結おうか…考えるだけで楽しい。
旧校舎の出入り口まで辿り着くと、そわそわしていた瞬に声をかけられた。
「おはよう詩乃ちゃん」
「瞬…おはよう。昨日はどこにいたんだ?」
「先生に頼まれて、探しものをしてたんだ。全然見つからなくて、結局早朝までかかっちゃった」
「大丈夫なのか?」
流石に休まないと体が辛いだろう。
それでもここにいたということは、誰かを待っているのだろうか。
「詩乃ちゃんと話がしたくて待ってたんだ」
「私と?」
意外だった。
陽向と話しているところはよく見かけるが、私が相手では退屈させてしまいそうだ。
考えていることを察されたのか、瞬はにこりと笑って私の手をひく。
「僕は今、猛烈に詩乃ちゃんと話がしたい気分なんだ。お願い、ちょっとつきあって」
「今日は監査部の仕事もないだろうし、別に構わないけど…」
「じゃあ決まり!一緒に来て」
手を引かれて辿り着いたのは瞬の部屋だった。
なんだか前来たときよりものが増えている気がするが、それだけ想い出が増えたと捉えていいのだろうか。
「僕は、詩乃ちゃんたちのおかげで今楽しく過ごせてる。…だから、これはそのお礼」
手にのせられたのは、金平糖が見え隠れしている袋だった。
「ありがとう。大切に食べるよ」
「プラネタリウム、見ていかない?」
「そうさせてもらおうかな」
そういえば、最近ゆっくり星を眺めることもなかった。
たまにこういうゆったりした時間が欲しくなる。
「…ありがとう、瞬」
ぐっすり眠ってしまった瞬の頭を撫で、感謝の気持ちを綴った手紙を置いてその場を離れる。
結局呼び止められた理由ははっきりと分からなかったが、もらった金平糖はありがたくいただこうと思う。
『詩乃先輩、聞こえますか?』
「どうした?」
『至急旧校舎の屋上に向かってください。私じゃ走っても、間に合わな、くて…』
「分かった、すぐ向かう」
何故そんなことを言われたのか不明なままだが、とにかく足を動かす。
いつもなら閉まっている屋上の鍵は何故か開いていて、そのまま中に突入した。
「監査部です。そこで何をしているのか、」
「うるさい!僕に近寄るな!」
相手は興奮しているのか、会話できる状態ではなさそうだ。
よく見ると相手の首に真っ白な手が巻きついている。
左腕だけが、だ。
「そこから飛び降りるつもりなのか?」
「あ、当たり前だろ。姉ちゃんが通えなかったこの場所で…姉ちゃんを追いつめた関係者がいるこの場所で死ぬ!」
通えなかったというのは試験に落ちたのか、それとも…。
男子生徒の足は震えている。
この高さから落下すれば、冗談抜きで怪我程度ではすまされない。
「あいつは懲らしめた。だから、僕も姉ちゃんのところに行くね…」
足が離れるのとほぼ同時に地面を蹴る。
なんとか相手の腕を掴んだが、思った以上に暴れられてしまう。
「離して!…お願いだから、もう死なせてくれ」
「無理だ。私にはできない」
己の非力さを悔い、もう二度と光の道を歩けないと思っていた。
だが、そんな私でも今こうしてここにいる。
まだ断定はできないが、男子生徒の正体が分かったかもしれない。
「もう誰かがいなくなるのは嫌なんだ」
「や、やめろ…」
相手が振り回したカッターが左手に直撃する。
ぽたぽたと滴り落ちる血に構わず、そのまま離さなかった。
…と、相手の体が突然軽くなりなんとか引き上げる。
「よかった、ぎりぎりセーフ」
陽向だった。
「取り敢えず、君には一緒に来てもらおうかな。そっちで先生やカウンセラーさんが待ってるから」
「なんでだよ…」
「そんなことをしてもお姉さんは還ってこないし喜ばない。
…けど、護れなくて悔しい気持ちは私にも分かるよ」
男子生徒は涙を流しながら白井先生や室星先生に連れて行かれる。
昔の自分を見ているようで、少し苦しくなった。
「…燃えろ」
男子生徒の首と首に巻きついていた青白い手の間に炎を通すと、陽の光から隠れるように消えていった。
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