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第28章『再び訪れる悪夢』
第210話
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うろ覚えではあるが形にはできるものがある。
「私には大技なんてできない。けど、これに耐えられるか?」
ナイフを振り回しながら、体を大きく動かす。
この動きを知らない人間たちからすれば滑稽かもしれないが、私にとってはとても大切なものだ。
《ウ、ウア…》
そのまま無言で息を切らさないよう気をつけながら、本来は刀を使う舞を札を巻きつけたナイフで続ける。
火炎刃でやると更に効果が出やすいだろうが、それはまだ奥の手として残しておきたい。
『詩乃先輩、何をして…』
《ギャアアアあ!》
相手の悲鳴が耳に届くのと舞い終えたのはほぼ同時だった。
いつの間にか目を覚ましたらしい陽向が駆け寄ってくる。
「先輩、さっきの何ですか!?」
「一応魔除けの舞。本当は刀でやるんだけど、蔵に仕舞ったまま触ってないからナイフで代用した」
「代用できちゃうもんなんだ…」
糸がはらはらと周囲に落ちていき、目の前の妖たちは呆然と立ち尽くしていた。
《今まで一体何を…》
《今宵は宴の準備をしていたはずなのに、何故集落の外にいるんだ?》
ざわめく彼らに問いかける。
「この中に妹がいる人はいるか?多分、さっきまでのことを覚えてる奴がいるはずだ」
《僕ですが…》
「妹さんを見つけている。ついてきてほしい」
名乗り出てくれてよかった。
まだ混乱している集落の人たちには陽向からある程度説明してもらうことにして、兄だと名乗った人物を連れて先生のところへ戻る。
《お兄ちゃん!》
《ごめんよ、怖い思いをさせて…》
《お兄ちゃん…》
こっちまで胸が痛くなる展開だったものの、ふたりは一礼してそのまま消えていった。
陽向と桜良がどうなったか気になって呼びかける。
「陽向、桜良。聞こえていたら返事をしてくれ」
『聞こえてます!なんか集落に帰るって行っちゃいましたけど、ひとつ情報を手に入れました』
『私も、調べていて分かったことがあります』
どちらの話から聞こうか迷ったものの、まずは陽向が手に入れた情報を教えてもらうことにした。
『やっぱりあの槍男に会ったって話してる人がいました。それから記憶が曖昧で、何がおきたか分からないらしいです』
「いつもの手口だな」
そういえば、神宮寺義仁の姿を1度も見ていない。
今までならそろそろ出てきそうなのに、何故出てこないのだろう。
『私が仕入れたのは、学園内で広まっていた噂についてです。
口が裂けた男がのこぎりを持って徘徊しているという話ですが…さっき倒した相手はのこぎりを持っていましたか?』
「…いや、どっちも持ってなかった」
つまり、まだ襲われる可能性があるということだ。
あることに気づいた私は嫌な予感がして先生に尋ねる。
「…先生、瞬はどこだ?」
「折原と一緒じゃなかったのか?」
たったこれだけ会話をしただけで問題が浮き彫りになった。
『え、ちびいないんですか?』
「いない。少なくとも、視界に入ってない」
『…すぐ探します』
「先生、心当たりは?」
「妙にそわそわしていた気はするが、はっきりしたことは分からない」
先生が頭を抱えてその場に崩れ落ちる。
自分のせいで失うのではと恐れているのが手にとるように分かった。
「大丈夫、すぐ見つけるから」
旧校舎へ小走りで向かうと、金属同士がぶつかりあっている音がする。
「見つけたかもしれない。ついでに怪異の方も」
『え、ちび戦ってるんですか?』
「音が響いているおかげで大体の位置は分かった」
どこまでだって走っていけそうなほど体が軽い。
久しぶりに半月に戦ったが、ここまで疲れないのは夏と冬の特訓の成果だろう。
ようやく金属音の元に辿り着いた瞬間、のこぎりが瞬に向かって振り下ろされようとしていた。
「やめろ!」
火炎刃を投げつけ、相手の注意を私に向ける。
「詩乃、ちゃん…」
死霊だって全く怪我をしないわけじゃない。
ぼろぼろの瞬の方を向かせないように、より一層気合を入れた。
「おまえの狙いは私だろう。卑怯な真似をせず私に直接かかってこい」
大男はのこぎりを振り回しながらこちらに向かって走ってくる。
受け止めるには重すぎる攻撃だった。
「私には大技なんてできない。けど、これに耐えられるか?」
ナイフを振り回しながら、体を大きく動かす。
この動きを知らない人間たちからすれば滑稽かもしれないが、私にとってはとても大切なものだ。
《ウ、ウア…》
そのまま無言で息を切らさないよう気をつけながら、本来は刀を使う舞を札を巻きつけたナイフで続ける。
火炎刃でやると更に効果が出やすいだろうが、それはまだ奥の手として残しておきたい。
『詩乃先輩、何をして…』
《ギャアアアあ!》
相手の悲鳴が耳に届くのと舞い終えたのはほぼ同時だった。
いつの間にか目を覚ましたらしい陽向が駆け寄ってくる。
「先輩、さっきの何ですか!?」
「一応魔除けの舞。本当は刀でやるんだけど、蔵に仕舞ったまま触ってないからナイフで代用した」
「代用できちゃうもんなんだ…」
糸がはらはらと周囲に落ちていき、目の前の妖たちは呆然と立ち尽くしていた。
《今まで一体何を…》
《今宵は宴の準備をしていたはずなのに、何故集落の外にいるんだ?》
ざわめく彼らに問いかける。
「この中に妹がいる人はいるか?多分、さっきまでのことを覚えてる奴がいるはずだ」
《僕ですが…》
「妹さんを見つけている。ついてきてほしい」
名乗り出てくれてよかった。
まだ混乱している集落の人たちには陽向からある程度説明してもらうことにして、兄だと名乗った人物を連れて先生のところへ戻る。
《お兄ちゃん!》
《ごめんよ、怖い思いをさせて…》
《お兄ちゃん…》
こっちまで胸が痛くなる展開だったものの、ふたりは一礼してそのまま消えていった。
陽向と桜良がどうなったか気になって呼びかける。
「陽向、桜良。聞こえていたら返事をしてくれ」
『聞こえてます!なんか集落に帰るって行っちゃいましたけど、ひとつ情報を手に入れました』
『私も、調べていて分かったことがあります』
どちらの話から聞こうか迷ったものの、まずは陽向が手に入れた情報を教えてもらうことにした。
『やっぱりあの槍男に会ったって話してる人がいました。それから記憶が曖昧で、何がおきたか分からないらしいです』
「いつもの手口だな」
そういえば、神宮寺義仁の姿を1度も見ていない。
今までならそろそろ出てきそうなのに、何故出てこないのだろう。
『私が仕入れたのは、学園内で広まっていた噂についてです。
口が裂けた男がのこぎりを持って徘徊しているという話ですが…さっき倒した相手はのこぎりを持っていましたか?』
「…いや、どっちも持ってなかった」
つまり、まだ襲われる可能性があるということだ。
あることに気づいた私は嫌な予感がして先生に尋ねる。
「…先生、瞬はどこだ?」
「折原と一緒じゃなかったのか?」
たったこれだけ会話をしただけで問題が浮き彫りになった。
『え、ちびいないんですか?』
「いない。少なくとも、視界に入ってない」
『…すぐ探します』
「先生、心当たりは?」
「妙にそわそわしていた気はするが、はっきりしたことは分からない」
先生が頭を抱えてその場に崩れ落ちる。
自分のせいで失うのではと恐れているのが手にとるように分かった。
「大丈夫、すぐ見つけるから」
旧校舎へ小走りで向かうと、金属同士がぶつかりあっている音がする。
「見つけたかもしれない。ついでに怪異の方も」
『え、ちび戦ってるんですか?』
「音が響いているおかげで大体の位置は分かった」
どこまでだって走っていけそうなほど体が軽い。
久しぶりに半月に戦ったが、ここまで疲れないのは夏と冬の特訓の成果だろう。
ようやく金属音の元に辿り着いた瞬間、のこぎりが瞬に向かって振り下ろされようとしていた。
「やめろ!」
火炎刃を投げつけ、相手の注意を私に向ける。
「詩乃、ちゃん…」
死霊だって全く怪我をしないわけじゃない。
ぼろぼろの瞬の方を向かせないように、より一層気合を入れた。
「おまえの狙いは私だろう。卑怯な真似をせず私に直接かかってこい」
大男はのこぎりを振り回しながらこちらに向かって走ってくる。
受け止めるには重すぎる攻撃だった。
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