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第28章『再び訪れる悪夢』
第209話
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抱きかかえたその子は軽くて、そのまま先生の側におろす。
周りの妖たちを斬った私より先生の方が怖くないだろう。
《助けてくれてありがとう》
「どういたしまして。…何があったか教えてくれないか?」
視線を合わせて問いかけると、子どもは少しずつ話してくれた。
集落に戻ってきた若者の様子がおかしかったこと、何かに引きずられるようにその場にいたみんなが動きはじめたこと、自分には糸がついていなくて別の団体に紛れたこと…。
「つまり、他にも糸をくくりつけられた人たちがいるんだな」
《お兄ちゃんは鍬で糸を切っていたんだけど、はぐれちゃった…》
私のことを怖がらないのは、周りの妖たちを怖い人たちと認識しているからなのかもしれない。
《お願い、お兄ちゃんを探して!私のせいで怪我をして…》
それと同時に中庭の方から爆発音のようなものが聞こえてくる。
「あっちも臨戦状態みたいだな。…桜良、今の爆発音はどのあたりからだ?」
『新校舎の1階からだと思います。陽向が行くと話していたので…』
「分かった、ありがとう。こっちは片づいたから行ってみる。…先生、ちょっと頼んだ」
「あ、おい…」
女の子を先生に預け、両手に武器を抱えて走る。
集団が複数いてあの子の集落の妖を斬らなければならない状況になったら…そう思うと現場を見せたくない。
《デバア…!》
「はいはい、待たないって…」
頭から血を流して走り続けている陽向に声をかけた。
「さっきの爆音は何だったんだ?」
「あれ、先輩…?さっきのは、あいつが投げつけてきた爆弾ですよ」
相手は真っ赤な帽子を目深に被っていて表情が確認できない。
その両手には威力不明の爆弾が握られていた。
「さっきは砕けたけど、あとふたつが限界ですかね…」
どうやら拳で砕いたらしく、建物にはほとんど被害がないようだ。
「頭以外で怪我してるところはあるか?」
「大丈夫です。…多分」
「どういうことだ」
陽向は満面の笑みを向けてくるものの、いつもより元気がないのは明白だった。
「疲れているなら隠れて休んでいてくれ。あの帽子の怪獣は私がなんとかする」
「流石に先輩でも無茶です…!」
「ふたりで逃げ切れると思うか?」
迫りくる足音はとんでもなく大きい。
そして恐らく、あれもさっきのでかぶつと構造は同じだ。
「…来い。狙いは私だろう」
相手に声をかけると、遊び相手を見つけた子どものように向かってくる。
《遊ボ遊ボ!》
きゃはきゃはと笑い声をあげて迫ってきたそれの攻撃をかわし、体を宙で反転させたところで矢を放つ。
相手は悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
《あア、絡まッチャっタ…》
背中と両足、そして帽子に突き刺さるように糸が取り付けられているようだ。
急いで火炎刃を構えてそのまま突進する。
思ったより糸が固く、5本しか斬れていなかった。
「…斬りどころがまずかったか」
きゃはきゃはと声をあげる体は立ちあがろうとしていたが、中から別の力が働いているようだった。
《殺シたい…!》
《そレは遊びジャなイデす》
《俺はただ外に出たいんだ。どいてくれ》
集合体になるうえで必要なのは、同じ目的を果たそうという意思だ。
噂に呑まれている者、正気を取り戻しつつある者、全く影響を受けていない者…見た目だけで判断するのは難しい。
どこを攻撃するべきか考えこんでいると、勢いよく爆弾が投げつけられる。
「先輩!」
素早く壁走りして火炎刃で燃やし尽くす。
どこまでやれるか不透明だったが、なんとか地面に落とさずすんだようだ。
「すご…」
「陽向、逃げろ!」
矢を放とうとしたが間に合わない。
陽向の首を鋭い爪が貫通した直後に相手の腕を落とす。
喉に刺さっていた長い爪を抜くと、目を見開いたまま息絶えていた。
「…ごめん。私の考えが甘かった」
どうにかできると思っていた。
だが、相手は手を抜いていいような存在ではなかったのだ。
ばらばらの意思では動かせないと思っていた体が滑らかに動き出す。
陽向を安全そうなところまで運んですぐ現場に舞い戻った。
「…次は本気で当てる」
周りの妖たちを斬った私より先生の方が怖くないだろう。
《助けてくれてありがとう》
「どういたしまして。…何があったか教えてくれないか?」
視線を合わせて問いかけると、子どもは少しずつ話してくれた。
集落に戻ってきた若者の様子がおかしかったこと、何かに引きずられるようにその場にいたみんなが動きはじめたこと、自分には糸がついていなくて別の団体に紛れたこと…。
「つまり、他にも糸をくくりつけられた人たちがいるんだな」
《お兄ちゃんは鍬で糸を切っていたんだけど、はぐれちゃった…》
私のことを怖がらないのは、周りの妖たちを怖い人たちと認識しているからなのかもしれない。
《お願い、お兄ちゃんを探して!私のせいで怪我をして…》
それと同時に中庭の方から爆発音のようなものが聞こえてくる。
「あっちも臨戦状態みたいだな。…桜良、今の爆発音はどのあたりからだ?」
『新校舎の1階からだと思います。陽向が行くと話していたので…』
「分かった、ありがとう。こっちは片づいたから行ってみる。…先生、ちょっと頼んだ」
「あ、おい…」
女の子を先生に預け、両手に武器を抱えて走る。
集団が複数いてあの子の集落の妖を斬らなければならない状況になったら…そう思うと現場を見せたくない。
《デバア…!》
「はいはい、待たないって…」
頭から血を流して走り続けている陽向に声をかけた。
「さっきの爆音は何だったんだ?」
「あれ、先輩…?さっきのは、あいつが投げつけてきた爆弾ですよ」
相手は真っ赤な帽子を目深に被っていて表情が確認できない。
その両手には威力不明の爆弾が握られていた。
「さっきは砕けたけど、あとふたつが限界ですかね…」
どうやら拳で砕いたらしく、建物にはほとんど被害がないようだ。
「頭以外で怪我してるところはあるか?」
「大丈夫です。…多分」
「どういうことだ」
陽向は満面の笑みを向けてくるものの、いつもより元気がないのは明白だった。
「疲れているなら隠れて休んでいてくれ。あの帽子の怪獣は私がなんとかする」
「流石に先輩でも無茶です…!」
「ふたりで逃げ切れると思うか?」
迫りくる足音はとんでもなく大きい。
そして恐らく、あれもさっきのでかぶつと構造は同じだ。
「…来い。狙いは私だろう」
相手に声をかけると、遊び相手を見つけた子どものように向かってくる。
《遊ボ遊ボ!》
きゃはきゃはと笑い声をあげて迫ってきたそれの攻撃をかわし、体を宙で反転させたところで矢を放つ。
相手は悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
《あア、絡まッチャっタ…》
背中と両足、そして帽子に突き刺さるように糸が取り付けられているようだ。
急いで火炎刃を構えてそのまま突進する。
思ったより糸が固く、5本しか斬れていなかった。
「…斬りどころがまずかったか」
きゃはきゃはと声をあげる体は立ちあがろうとしていたが、中から別の力が働いているようだった。
《殺シたい…!》
《そレは遊びジャなイデす》
《俺はただ外に出たいんだ。どいてくれ》
集合体になるうえで必要なのは、同じ目的を果たそうという意思だ。
噂に呑まれている者、正気を取り戻しつつある者、全く影響を受けていない者…見た目だけで判断するのは難しい。
どこを攻撃するべきか考えこんでいると、勢いよく爆弾が投げつけられる。
「先輩!」
素早く壁走りして火炎刃で燃やし尽くす。
どこまでやれるか不透明だったが、なんとか地面に落とさずすんだようだ。
「すご…」
「陽向、逃げろ!」
矢を放とうとしたが間に合わない。
陽向の首を鋭い爪が貫通した直後に相手の腕を落とす。
喉に刺さっていた長い爪を抜くと、目を見開いたまま息絶えていた。
「…ごめん。私の考えが甘かった」
どうにかできると思っていた。
だが、相手は手を抜いていいような存在ではなかったのだ。
ばらばらの意思では動かせないと思っていた体が滑らかに動き出す。
陽向を安全そうなところまで運んですぐ現場に舞い戻った。
「…次は本気で当てる」
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