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第28章『再び訪れる悪夢』
第208話
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咆哮をあげて迫りくる巨大生物を横目に、思いきり助走をつけて窓から飛び降りる。
触手が絡まり動けなくなったのか、悲鳴のような声が響き渡った。
『詩乃先輩、大丈夫ですか?』
「うん。少し大声で煩いくらいだから平気だ。けど…」
あれを体育館まで引きつけるのは厳しい。
「作戦変更。…校庭で決着をつけようと思う」
『校庭ですか?』
「あのでかぶつ、体がつかえて動けなくなるみたいなんだ。体育館まで誘導していたら建物が崩れるかもしれない」
『了解しました。他の人たちにも知らせます』
「ありがとう」
桜良の声で落ち着きを取り戻したところで、相手の触手が窓を突き破って私を探しはじめた。
《ウ、ウウ…》
『声が明らか人間じゃないんですけど!?』
「あんなでかぶつが人間なんてあり得ない。八尺様を横に大きくした感じだな。
黒髪でもないし帽子は持ってないし、可憐な姿でもないけど」
正直接近戦になると弓を使うのは不利だ。
…どうやら予備のナイフを持ってきておいて正解だったらしい。
「そろそろ出てくる」
『え?』
陽向の声を聞きながらナイフを構えて1歩下がる。
「もうすぐ妹の受験なんだ。おまえみたいな奴をここに残しておくわけにはいかない」
《ギャア!》
まずは1本触手を燃やす。
一瞬タコのような見た目かと思ったが、それにしては頭が大きい。
ぎょろりとこちらを向いた大きな目は私を真っ直ぐ捉える。
《ギイ、ヴア!》
「…悪いが言葉の通じない相手には加減できない」
向かってくる相手を次々に捌いていく。
頭を落とせれば苦しめずに一気に終わらせられたが、硬すぎてナイフが2本折れてしまった。
「──燃やし尽くせ、何もかも」
火炎刃を握りしめ、いつものようにふってみせる。
威力が何倍も増幅していて、コントロールするのが大変だった。
草木が生えていない校庭で戦うことにして正解だったらしい。
『すご…』
「まだ奥の手があるけど、これで十分だと思ったんだ」
『校庭は燃えないんですか?』
「燃えないように火力を調節してる。…ただ、手元が狂ったら終わりだった」
少しでも気を抜くと余分な部分まで燃やしてしまう。
だからこそ扱うときは慎重にならなければならないのだ。
そして、普段使うには様々な力が喰われすぎる。
体力も霊力も半端になり、そのまま力尽きて倒れる可能性が高い。
『先輩、何か来てます』
「…ああ、視えてる」
目の前に魑魅魍魎が渦巻いて現れ、火炎刃を構えて相手の出方を待つ。
一向に近づいてこようとしないので弓に持ちかえる。
「ここを荒らしに来たのか?」
残念ながら私の問いかけに答えが返ってくることはなかった。
そのまま照準を定めて矢を放つ。
久しぶりに半月に戦った気がするが、ここまで威力が強かっただろうか。
「消されたくなかったらこの場を去れ」
なんだかゾンビのような反応を示しているような気がしてよく見ると、妖たちの頭上から無数の糸が伸びていた。
先生のものではなさそうなそれは、容赦なくこちらに向いてくる。
《ぐあ、あ!》
《殺ス!》
そんな殺伐とした声のなかにひとつだけ違うものが聞こえた。
《お願い、助けて…》
「誰かいるのか?」
大量に襲いかかる妖たちの糸を矢で破壊しながら問いかけると、咆哮に交ざって悲鳴に近い声が聞こえる。
《助けて!死にたくない!》
「…どうやって見分ければいいんだ」
「こういう系統ならこうすればいい」
「え?」
いつの間にか後ろに先生が立っていて、相手の糸を自分の糸で絡めとる。
瞬がすぐに飛び出し、無我夢中で包丁をふっていた。
「ふたりとも、どうしてここに…」
「説明は後だ。中に白い髪の子どもがいるのが視えるか?あいつにだけ糸がくっついていない」
「…ああ、あの子か」
涙を拭うその子は私たちに気づいていない。
【助けて、お姉ちゃん…私、もう…】
神宮寺の家でのことがフラッシュバックして、突き動かされるように火炎刃を持って突撃した。
「大丈夫。私が護るから」
触手が絡まり動けなくなったのか、悲鳴のような声が響き渡った。
『詩乃先輩、大丈夫ですか?』
「うん。少し大声で煩いくらいだから平気だ。けど…」
あれを体育館まで引きつけるのは厳しい。
「作戦変更。…校庭で決着をつけようと思う」
『校庭ですか?』
「あのでかぶつ、体がつかえて動けなくなるみたいなんだ。体育館まで誘導していたら建物が崩れるかもしれない」
『了解しました。他の人たちにも知らせます』
「ありがとう」
桜良の声で落ち着きを取り戻したところで、相手の触手が窓を突き破って私を探しはじめた。
《ウ、ウウ…》
『声が明らか人間じゃないんですけど!?』
「あんなでかぶつが人間なんてあり得ない。八尺様を横に大きくした感じだな。
黒髪でもないし帽子は持ってないし、可憐な姿でもないけど」
正直接近戦になると弓を使うのは不利だ。
…どうやら予備のナイフを持ってきておいて正解だったらしい。
「そろそろ出てくる」
『え?』
陽向の声を聞きながらナイフを構えて1歩下がる。
「もうすぐ妹の受験なんだ。おまえみたいな奴をここに残しておくわけにはいかない」
《ギャア!》
まずは1本触手を燃やす。
一瞬タコのような見た目かと思ったが、それにしては頭が大きい。
ぎょろりとこちらを向いた大きな目は私を真っ直ぐ捉える。
《ギイ、ヴア!》
「…悪いが言葉の通じない相手には加減できない」
向かってくる相手を次々に捌いていく。
頭を落とせれば苦しめずに一気に終わらせられたが、硬すぎてナイフが2本折れてしまった。
「──燃やし尽くせ、何もかも」
火炎刃を握りしめ、いつものようにふってみせる。
威力が何倍も増幅していて、コントロールするのが大変だった。
草木が生えていない校庭で戦うことにして正解だったらしい。
『すご…』
「まだ奥の手があるけど、これで十分だと思ったんだ」
『校庭は燃えないんですか?』
「燃えないように火力を調節してる。…ただ、手元が狂ったら終わりだった」
少しでも気を抜くと余分な部分まで燃やしてしまう。
だからこそ扱うときは慎重にならなければならないのだ。
そして、普段使うには様々な力が喰われすぎる。
体力も霊力も半端になり、そのまま力尽きて倒れる可能性が高い。
『先輩、何か来てます』
「…ああ、視えてる」
目の前に魑魅魍魎が渦巻いて現れ、火炎刃を構えて相手の出方を待つ。
一向に近づいてこようとしないので弓に持ちかえる。
「ここを荒らしに来たのか?」
残念ながら私の問いかけに答えが返ってくることはなかった。
そのまま照準を定めて矢を放つ。
久しぶりに半月に戦った気がするが、ここまで威力が強かっただろうか。
「消されたくなかったらこの場を去れ」
なんだかゾンビのような反応を示しているような気がしてよく見ると、妖たちの頭上から無数の糸が伸びていた。
先生のものではなさそうなそれは、容赦なくこちらに向いてくる。
《ぐあ、あ!》
《殺ス!》
そんな殺伐とした声のなかにひとつだけ違うものが聞こえた。
《お願い、助けて…》
「誰かいるのか?」
大量に襲いかかる妖たちの糸を矢で破壊しながら問いかけると、咆哮に交ざって悲鳴に近い声が聞こえる。
《助けて!死にたくない!》
「…どうやって見分ければいいんだ」
「こういう系統ならこうすればいい」
「え?」
いつの間にか後ろに先生が立っていて、相手の糸を自分の糸で絡めとる。
瞬がすぐに飛び出し、無我夢中で包丁をふっていた。
「ふたりとも、どうしてここに…」
「説明は後だ。中に白い髪の子どもがいるのが視えるか?あいつにだけ糸がくっついていない」
「…ああ、あの子か」
涙を拭うその子は私たちに気づいていない。
【助けて、お姉ちゃん…私、もう…】
神宮寺の家でのことがフラッシュバックして、突き動かされるように火炎刃を持って突撃した。
「大丈夫。私が護るから」
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