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第28章『再び訪れる悪夢』
第206話
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「おまえなあ…」
「ごめん。けど、あの場でできる最大限のことがこれだったんだ」
血が滴る手首を軽く押さえながら監査室へ向かっていると、途中で先生に見つかってしまった。
付き添ってくれた結月が大まかな状況を説明してくれて、すぐに手当てを受けることになったのだ。
「次同じようなことになったら迷わず走れ。ひとりで対処しようとするな」
「そうだよ。血で誓約書を書くなんて無茶苦茶だし、心配になる…」
「…ごめん」
先生と瞬には頭が上がらない。
だが、同じ状況になれば私は迷わず同じ手を使うだろう。
「ねえ」
「どうした?」
「……さっきはありがとう」
結月の言葉に周りがかなり驚いている。
いつもは素直に言葉にしないようなことを言っているから不自然な反応ではない。
「私たちは仲間で友人だろ?あれくらい当然だ。…それに、いつまでもあの男と決着をつけられない私にも原因はある」
「詩乃ちゃん…」
攻撃する度昔のことを思い出す。
あの家にいた頃の恐ろしいことを忘れたことはない。
忘れたくても忘れられなかった。
「…前々から聞きたかったんだけど、ひらひらした服を着たり、髪を結べなかったりするのはあの男が関係してるの?」
「そういえば、詩乃ちゃんって自分の髪は結ばないんだよね?穂乃ちゃんの髪は綺麗に結んでいるのに…」
猫耳少女たちの質問は鋭かった。
誤魔化そうとも考えたが、それができるような状況でもなさそうだ。
「……関係ないわけじゃない。けど、あんまり思い出したくないんだ。
色々あって今でもスカートやワンピースは着られないし、髪を結ぶのは抵抗がある」
夜紅としての力が覚醒したと神宮寺の家に知られてからろくなことがなかった。
人は信じるけど人間なんて信じない、もう二度と救いは求めないと覚悟を決めた出来事だ。
だが、やはり人に話すのは抵抗があった。
「…そう」
「まあ、話して楽になることばかりでもないだろうからな。…それ以上は聞いてやるな」
先生が止めてくれたのは、自分のことがあるからかもしれない。
「ごめん。今は無理だけど、いつかちゃんと話すよ」
「分かった。僕たちは待ってるね」
『大丈夫、俺たちも待ちますから』
ラジオから聞こえてくる声にも申し訳なく思いつつ、心配をかけないように笑ってみせた。
「ありがとう」
陽向や桜良のような人たちや出会ってきた妖たちは別として、人間全般が苦手だ。
…もしかすると、先生にはその考えを見抜かれてしまったのかもしれない。
「そういえば、あの男の怪異状態が進んでいる気がしたんだけどどう思う?」
『あの男、やっぱり怪異になったんですか?』
「はっきりと分からないけど、普通の人間とは別の気配がするんだ」
「でも、相手は怪異を毛嫌いしているんでしょ?その存在と同じになりたいなんて思うかしら?」
結月が言うことももっともだ。
妖全てを敵とみなしているあの男がいきなり怪異に近い存在になるなんて、一体どんな風の吹き回しだろうか。
『その男も噂に左右されるということでしょうか?』
「分からない。ただ、前と違うのは白フードを被っていることだ。…私が知っている頃は黒かった」
相手がいつ攻撃してくるか分からないうえ、あの槍にあたったら厄介だ。
それに、私にはもうひとつ疑問がある。
「噂を変えてどうにかなる存在なら、槍が使えていることが矛盾するんだ。
あの槍には退魔の力があるから、あいつが怪異になっているなら自滅することになる」
『たしかに…!謎だらけですね』
「困ったことにな」
あの男の今の力の源は何だろう。
考えれば考えるほど分からなくなってきた。
『…先輩、たった今やばい情報を仕入れました』
「どうした?」
陽向の声には深刻さがつまっていた。
『殺人鬼の噂が広まってます。…バレンタインなのにジャック・オ・ランタンの噂が再来してるみたいです』
「ごめん。けど、あの場でできる最大限のことがこれだったんだ」
血が滴る手首を軽く押さえながら監査室へ向かっていると、途中で先生に見つかってしまった。
付き添ってくれた結月が大まかな状況を説明してくれて、すぐに手当てを受けることになったのだ。
「次同じようなことになったら迷わず走れ。ひとりで対処しようとするな」
「そうだよ。血で誓約書を書くなんて無茶苦茶だし、心配になる…」
「…ごめん」
先生と瞬には頭が上がらない。
だが、同じ状況になれば私は迷わず同じ手を使うだろう。
「ねえ」
「どうした?」
「……さっきはありがとう」
結月の言葉に周りがかなり驚いている。
いつもは素直に言葉にしないようなことを言っているから不自然な反応ではない。
「私たちは仲間で友人だろ?あれくらい当然だ。…それに、いつまでもあの男と決着をつけられない私にも原因はある」
「詩乃ちゃん…」
攻撃する度昔のことを思い出す。
あの家にいた頃の恐ろしいことを忘れたことはない。
忘れたくても忘れられなかった。
「…前々から聞きたかったんだけど、ひらひらした服を着たり、髪を結べなかったりするのはあの男が関係してるの?」
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人は信じるけど人間なんて信じない、もう二度と救いは求めないと覚悟を決めた出来事だ。
だが、やはり人に話すのは抵抗があった。
「…そう」
「まあ、話して楽になることばかりでもないだろうからな。…それ以上は聞いてやるな」
先生が止めてくれたのは、自分のことがあるからかもしれない。
「ごめん。今は無理だけど、いつかちゃんと話すよ」
「分かった。僕たちは待ってるね」
『大丈夫、俺たちも待ちますから』
ラジオから聞こえてくる声にも申し訳なく思いつつ、心配をかけないように笑ってみせた。
「ありがとう」
陽向や桜良のような人たちや出会ってきた妖たちは別として、人間全般が苦手だ。
…もしかすると、先生にはその考えを見抜かれてしまったのかもしれない。
「そういえば、あの男の怪異状態が進んでいる気がしたんだけどどう思う?」
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「でも、相手は怪異を毛嫌いしているんでしょ?その存在と同じになりたいなんて思うかしら?」
結月が言うことももっともだ。
妖全てを敵とみなしているあの男がいきなり怪異に近い存在になるなんて、一体どんな風の吹き回しだろうか。
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それに、私にはもうひとつ疑問がある。
「噂を変えてどうにかなる存在なら、槍が使えていることが矛盾するんだ。
あの槍には退魔の力があるから、あいつが怪異になっているなら自滅することになる」
『たしかに…!謎だらけですね』
「困ったことにな」
あの男の今の力の源は何だろう。
考えれば考えるほど分からなくなってきた。
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