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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』
第204話
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「先輩…!」
「なんでそんなに慌ててるんだ?」
「桜良が噂変えてくれた後も全然応答がなかったからです」
戻って早々気づいたのは、インカムからがちゃがちゃと音が流れていることだ。
いつどんなふうに壊れてしまったのか全く分からない。
「ごめん。壊れていたことに全く気づいてなかった」
「御蔭さんとの話に夢中になりすぎでしょ…。まあ、それだけ濃厚な内容だったんでしょうけど」
陽向はほとんど怪我がないことに安堵した様子で、そのまま監査室まで来てくれた。
御蔭さんについてどこまで話すべきか迷ったものの、中で待っていた全員が黙って待ってくれている。
「…まず、御蔭さんは無事だ。桜良のおかげでなんとか無事に助け出せたよ。ありがとう」
ラジオに向かって話しかけてみていると、陽向が言いづらそうにしながら教えてくれた。
「すみません。桜良今寝てるんです。力を使いすぎたのか、いつも以上に噂が広まってたからかは分からないんですけど、ぐったり熟睡中で…」
「疲れさせたんだな…起きたら謝りに行く」
心のなかで感謝しつつ、そのまま話を続けた。
「それから、御蔭さんはあの男と接触してた。ただ、異界への階段には入れないらしい」
「入れないのに接触ですか?」
「影を伝って出てきている間にばったり会ったってことだろ」
「そっか、そういうことか…」
先生の説明と陽向の納得する声に紛れて、瞬が心配そうに瞳を揺らしている。
「そんなに心配しなくていい。私は疑い程度のことを相手に話したりしないよ、瞬」
「あ…そっか、そうだよね」
「加害者1名の死因についてか」
「確証はないし調べようがない。だから御蔭さんには伝えなかった」
相手が傷つくことを知っていながら、疑い程度のことを話すなんてできない。
「おかげさんはどうしてるの?」
「今は多分疲れて休んでるんじゃないかな。…だいぶぎりぎりのところで粘ってたみたいだったから」
「とにかく全員しっかり休め。こっちはこっちで色々あったからな」
詳しくは教えてもらえなかったが、噂に引き寄せられるように妖たちが集まってきたであろうことは容易に想像できる。
みんなが監査室から出たところで、自分の影の形が変形していることに気づいた。
「……いるなら出てきてくれないか」
《ごめんごめん。詩乃ちゃんの影が1番安心なんだよね》
「入りやすさがあるのか?」
《合う合わないがあるのかもしれない。校門近くの大きな木とか中庭の大きな木の影には入りづらい》
「中庭の木はもう住んでる人がいるからかもしれないな」
御蔭さんは自分の姿を見ながら、少し戸惑った様子でゆっくり話しはじめた。
《まさかこんな姿になるとは思ってなかったけど、今はちょっとだけ心が軽くなった気がするんだ。
生きてた頃に助けてくれた人がいなかったから、どうせ今回もどうにもならないって…あの男に会った時点で諦めてた》
悪質な嫌がらせを受けると周りを信じられなくなる。
…私自身もそうだったから、その気持ちは漠然とではあるものの理解できてしまう。
《だけど、今回は諦めなくてよかったってちょっと思ってるよ。俺を信じてくれる人もいるんだって思えた。
だから…ありがとう詩乃ちゃん。ちゃんと話ができてよかった》
「お礼を言われるほどのことはしてないよ。…なあ、また会いに行ってもいいか?」
《気が向いたら俺の方から会いに行くかも》
すっと影からその姿が消え、帰っていったんだと悟る。
それにしても、今回はあの男が現れなかった。
私が知らないだけかもしれないが、もしそうだとしたらその理由はなんだろう。
御蔭さんの噂は解決したものの、なんだかもやもやしたものが残る終わり方になってしまった。
…考えてもしかたない。
「穂乃にメッセージでも送っておくか」
それからはいつもどおり過ごした。
もうすぐ監査部員ではなくなってしまうのが寂しいなんて言えない。
ただ、卒業式まで何事もなければいいとだけ願う。
【あの男には気をつけて。やたら左腕を気にしていたから】
……御蔭さんから受けた忠告を忘れないようにしながら。
「なんでそんなに慌ててるんだ?」
「桜良が噂変えてくれた後も全然応答がなかったからです」
戻って早々気づいたのは、インカムからがちゃがちゃと音が流れていることだ。
いつどんなふうに壊れてしまったのか全く分からない。
「ごめん。壊れていたことに全く気づいてなかった」
「御蔭さんとの話に夢中になりすぎでしょ…。まあ、それだけ濃厚な内容だったんでしょうけど」
陽向はほとんど怪我がないことに安堵した様子で、そのまま監査室まで来てくれた。
御蔭さんについてどこまで話すべきか迷ったものの、中で待っていた全員が黙って待ってくれている。
「…まず、御蔭さんは無事だ。桜良のおかげでなんとか無事に助け出せたよ。ありがとう」
ラジオに向かって話しかけてみていると、陽向が言いづらそうにしながら教えてくれた。
「すみません。桜良今寝てるんです。力を使いすぎたのか、いつも以上に噂が広まってたからかは分からないんですけど、ぐったり熟睡中で…」
「疲れさせたんだな…起きたら謝りに行く」
心のなかで感謝しつつ、そのまま話を続けた。
「それから、御蔭さんはあの男と接触してた。ただ、異界への階段には入れないらしい」
「入れないのに接触ですか?」
「影を伝って出てきている間にばったり会ったってことだろ」
「そっか、そういうことか…」
先生の説明と陽向の納得する声に紛れて、瞬が心配そうに瞳を揺らしている。
「そんなに心配しなくていい。私は疑い程度のことを相手に話したりしないよ、瞬」
「あ…そっか、そうだよね」
「加害者1名の死因についてか」
「確証はないし調べようがない。だから御蔭さんには伝えなかった」
相手が傷つくことを知っていながら、疑い程度のことを話すなんてできない。
「おかげさんはどうしてるの?」
「今は多分疲れて休んでるんじゃないかな。…だいぶぎりぎりのところで粘ってたみたいだったから」
「とにかく全員しっかり休め。こっちはこっちで色々あったからな」
詳しくは教えてもらえなかったが、噂に引き寄せられるように妖たちが集まってきたであろうことは容易に想像できる。
みんなが監査室から出たところで、自分の影の形が変形していることに気づいた。
「……いるなら出てきてくれないか」
《ごめんごめん。詩乃ちゃんの影が1番安心なんだよね》
「入りやすさがあるのか?」
《合う合わないがあるのかもしれない。校門近くの大きな木とか中庭の大きな木の影には入りづらい》
「中庭の木はもう住んでる人がいるからかもしれないな」
御蔭さんは自分の姿を見ながら、少し戸惑った様子でゆっくり話しはじめた。
《まさかこんな姿になるとは思ってなかったけど、今はちょっとだけ心が軽くなった気がするんだ。
生きてた頃に助けてくれた人がいなかったから、どうせ今回もどうにもならないって…あの男に会った時点で諦めてた》
悪質な嫌がらせを受けると周りを信じられなくなる。
…私自身もそうだったから、その気持ちは漠然とではあるものの理解できてしまう。
《だけど、今回は諦めなくてよかったってちょっと思ってるよ。俺を信じてくれる人もいるんだって思えた。
だから…ありがとう詩乃ちゃん。ちゃんと話ができてよかった》
「お礼を言われるほどのことはしてないよ。…なあ、また会いに行ってもいいか?」
《気が向いたら俺の方から会いに行くかも》
すっと影からその姿が消え、帰っていったんだと悟る。
それにしても、今回はあの男が現れなかった。
私が知らないだけかもしれないが、もしそうだとしたらその理由はなんだろう。
御蔭さんの噂は解決したものの、なんだかもやもやしたものが残る終わり方になってしまった。
…考えてもしかたない。
「穂乃にメッセージでも送っておくか」
それからはいつもどおり過ごした。
もうすぐ監査部員ではなくなってしまうのが寂しいなんて言えない。
ただ、卒業式まで何事もなければいいとだけ願う。
【あの男には気をつけて。やたら左腕を気にしていたから】
……御蔭さんから受けた忠告を忘れないようにしながら。
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