夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』

第203話

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「おまえのせいじゃない。そんな理不尽なことを仕掛けた奴が悪い。…大切な家族なんだろ?だったらきっと妹さんにとってもそうだったはずだ」
ありふれた慰めなんてしたくなかったが、それくらいしか言葉が思いつかない。
《君モ、家族好キ?》
「私の家族は妹ひとりだけだけど…すごく大切なんだ。母親が病気で死んでからも、母親を忘れたことがない。
父親と呼べる存在はいないけど、全然寂しくないんだ」
《…俺ノ父親は事故死だっタンだ。だいぶ前に死んだカラ、妹は覚エてないダロウけド》
少し正気に戻ってきたのか、話し方が普段の御蔭さんに近づいている。
インカム越しに桜良が何か話しているのが聞こえるが、残念なことに聞き取ることはできなかった。
「憎しみだけじゃ解決できないこともある。それに、この場所にひとりきりじゃ寂しいよな」
《…俺を殺しテ》
「それはできない。やっぱり私はおまえにも生きていてほしいんだ。
…それで、いつか影山ゆずきと再会できればいいと思ってるよ」
《ゆず、き…そうだ、そンな名前ダッた》
「視えるなら会えるかもしれないだろ?私も手伝うから、消えたいとか殺されたいなんて思わないでほしい」
影山みずきは孤独に耐えてきた。
それなら少しは希望ある結末になったっていいじゃないか。
『【……別の世界への切符、それは誰もが手に入れられるものではないのです。あなたは異界への扉の番人の話を知っていますか?】』
桜良がぽつりぽつりと話すうちに、目の前の御蔭さんの姿が少しずつ変わっていく。
いつも着ていたパーカーから星のローブを纏った姿になった。
《まさかこんな方法があるなんて…》
「言っただろ。私は諦めないって」
影山みずきという存在を殺さない。
なんとか達成することができたが、まだあの男に接触できていないことに焦りを感じる。
《あの男、しばらく現れないかもしれないよ》
「どうしてそう思うんだ?」
《何をしたか知らないけど、望まない形で半怪異になったなら体が持つはずないんだ。…そういう人たちを何人も見送ったから分かる》
「…なあ、影山みずき。加害者がどうなったか知りたいか?」
目の前の少年は少し考える仕草を見せた後、決意したように小さく言った。
《教えて》
「全員死んだんだ。別の事件の遺族に滅多刺しにされて…」
《てっきり、みんな幸せに幸せになりましたとさ状態だと思ってたのに、そんなことになってたんだ》
主犯格は妹が呪い殺した、とは言えなかった。
全員が死んだという言葉に安堵した様子の少年を見たら、誰だって言えないだろう。
《…ねえ。俺はもう1度妹に会えるのかな?》
「会えるよ。いつかきっと、信じていればそのうち」
《そっか。そうだといいな…》
なんとなく影山みずきが微笑んだ気がして、つい口元が緩んでしまう。
「なあ、あの男はここには来てないのか?」
《言ったでしょ、入れないはずだって。…俺が会ったのは外の世界。木陰で休んでいたところを邪魔されたんだ。
焼け焦げた体だからか、日の光に当たると体中が痛くて…》
「だから影から現れて人助けをしてたのか」
《助けになってたか分からないけどね》
先生によると、御蔭さんという噂は元々影から現れる少年が困りごとを解決してくれるというものだったらしい。
それが捻じ曲げられ、本人が1番望まないであろう人を傷つける噺にされてしまった。
傷つけるくらいなら死んでもいい…影山みずきは本気だったんだろう。
《まさかまだ生きられるとは思ってなかったけど》
「長生きしてくれ。友人が減るのは寂しいんだ」
《まさか友人なんて言ってもらえるとはね。…俺のフードの下を見ても、気味悪がらなかったもんね。
君にしろ流山瞬にしろ、この町だから悪いことばかりじゃないのかもしれない》
めくれたフードの下の顔は真っ黒のままだ。
ただ、なんとなく口元が緩んでいるのが見えた気がした。
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