夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』

第202話

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「まず、報告しておきたいことがある」
夜集合した私たちは決戦前に話をすることにした。
「桜良、頼んでおいたもの、仕上げてくれてありがとう」
『ついでに頼まれたものは陽向に渡しておきました』
「助かるよ。…やっぱりか」
「え、何がです?」
話すかどうか迷っていたが、念の為伝えておこう。
ここまで協力してもらっているのに、私しか知らないというのもおかしな話だ。
「先生から人を殺すほどの強さを持つ呪いについて教えてもらったんだ。
この加害者の足元にある陣と、先生に借りたこの資料の陣…似てると思わないか?」
「てことは、この加害者は呪い殺されたってことですか?けど、おかげさんがやるのは無理ってことに…」
「そうだ。そもそもおかげさんは加害者たちが死んだことさえ未だに知らない。
だが、それが可能な人物がひとりいる。影山ゆずき…影山みずきの妹だ」
調べるのに苦労したが、遺族のインタビュー記事に1度だけ名前が書かれていた。
「やっぱり妹さんって視える人だったってことですか?」
「そうらしい。実際御蔭さんに確認してきた」
「…昼間ですか?」
「そこは黙秘する。好きなように想像してもらって構わない」
自分の過去なんて誰にでも見せられるものではないだろう。
他の人には知られたくないと考えている可能性だって充分にある。
それを勝手にぺらぺら話すなんてことは、どうしてもしたくなかった。
「分かりました。…まあ、取り敢えず主犯格の死に方は相当辛いものだったってことは分かりました」
『陽向は呪い殺されたことがあるんです』
「そうなのか?」
「まあ、ひととおりの死に方はしてきましたから」
目の前の陽向は笑っているが、全然笑えない。
感触を訊いてしまってもいいだろうか。
「死に心地としてはあんまりよくなかったです。できれば二度と経験したくないです。
じわじわ系はじわじわ系でいつ終わるか分からない辛さがあるし、一瞬で終わる系はこれでもかってほど痛いし…」
「どっちも最悪なのは分かった」
影山妹からの恨みが強かったのか、主犯格はもがき苦しみながら死んでいったようだ。
数時間痛みを味わいながら、この加害者は何を考えていたんだろう。
自分は悪くないと思っていたのだろうか。
『詩乃先輩、そろそろ時間です』
集まったのは午前2時すぎだったのに、時計の針はもう4時をさしている。
「作戦ってほどじゃないけど、陽向にはこっちに残っててほしい」
「ひとりで行くんですか?」
「なんとなくだけど、相手がそれを望んでる気がするんだ」
「それじゃあ、危なくなったらすぐ呼んでください。絶対行きますから」
「ありがとう」
あまり効果はないと分かっていてもつい紅を塗ってしまう。
火炎刃を使えるほどの余力が残っているか分からないが、とにかく早く御蔭さんを助け出したい。
「先輩、気をつけてくださいね」
「ありがとう。こっちのことを頼む」
先生たちが姿を見せないのは何か理由があるのだろう…そんなことを考えながら階段を踏んでいく。
昨夜以上に血みどろになった階段に飛び乗ると、体が一瞬で沈んでいった。
《あ、あはは…ヤッパリ来タカ》
「ほとんど理性が飛んでるのか」
《結構、ギリギリなンダ》
御蔭さんは予想どおりの言葉を叫ぶ。
《モウ、殺シテ。俺ハ家族ヲ苦シメル》
勢いよく飛んできた大きな鏡には、燃えさかる炎とふたつの影が見えた。
意識を失っている妹を抱える兄…彼は下にいる人々に大声で指示を出す。
それから間もなくして、ベランダから妹を投げた。
【なんで、どうして…】
自分も飛び降りようとしたが炎が迫ってきて無理だった。
再び屋内に戻ったものの、先程まで開いていたはずの扉が開かない。
【お願い、ここから出して!お願い……】
激しく咳きこみ、その場に崩れ落ちる。
外側にはにやにやしながら板を置いている人物が立っていた。
その人間がどうなったか、私は記事でしか知らない。
《生キタママ焼カレテ、苦シカッタ。妹ハ多分、顔に火傷ヲ負ッタ》
「はじめ読んだ記事には妹と母親は外出中だったってあったけど、違ったんだな」
御蔭さんはとても悲しげな声ではっきり告げた。
《……戻ッテ来タンだ。俺ノ様子ガ変ダカラッテ、用事ヲ切リアゲテ…。俺ハ、妹ヲ壊シタンダ》
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