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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』
第201話
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「先輩!」
監査室に戻った直後、背後の扉が勢いよく開かれる。
「流石に扉が壊れるぞ、陽向」
私の言葉で一瞬動きが止まったが、すぐにこちらへ近づいてきた。
「急に通信が切れるし、先輩がいなくなって吃驚したんですから…」
「ごめん。ちょっと色々あったんだ」
今は暴走傾向ではなかったとこの場で話すのは危険だ。
あの男に聞かれてしまったら、今度こそ影山みずきという人物そのものを消す以外方法がなくなるだろう。
「桜良に流してほしい噂がある」
「急にどうしたんですか?」
「悪いが事情を説明している時間はない。大まかな原稿を書くから渡してくれないか?」
「分かりました」
私が考えなしにこんなことを言わないと察してくれたらしく、陽向はメモ書きしている間黙って待っていてくれた。
「できた。放送室近くまでは一緒に行く」
「先輩が、俺の護衛ってことですか?」
「まあ、そんなところだ」
もしあの男と放送室で戦闘になったら終わりだ。
それに、ふたりをできるだけ巻きこみたくない。
「ここまでだな」
「ひとりで無理しないでくださいね」
「ありがとう。気をつけるよ」
陽向の後ろ姿を見送り、すぐに監査室へ戻る。
桜良が原稿を完成させるまでにどれだけ時間がかかるか分からないが、上手くいけば明日には決着がつきそうだ。
「何かあったのか?」
先生は監査室に入るなり、開口一番そう尋ねてきた。
特に何もないと答えたものの、納得している様子はない。
「御蔭さん、大丈夫かな…」
「きっと大丈夫だ。そう簡単にやられる奴じゃないだろ?」
瞬の不安げな声にそう答えつつ、頭の中でぼんやり考える。
先生や桜良なら陣が書いてある記事を持っているかもしれない。
少なくとも、私がスクラップしているものの中にそれらしきものはなかった。
「昼食はきちんと摂るように」
「そうか、もう昼休みは終わりか」
「瞬、残すな」
「無理」
「ちゃんと計算して作ってる。もっと肉を食べないと体力が尽きるぞ」
会話を微笑ましく思っていたが、瞬が肉をあまり食べていないことに驚いた。
「肉料理が苦手なのか?」
「そういうわけじゃないけど…元々あんまり量を食べられる方じゃないんだ」
「そうなのか。知らなかった」
少しだけ和やかなムードになってほっとした。
空気がずっと張りつめていて嫌な感じだったので、いい意味で緊張がほぐれたかもしれない。
「…先生、この事件の記事で妙な陣が書いてあるとか、そういう情報はなかったか?」
加害者の不審死の記事を指さして尋ねると、先生は苦笑しながら教えてくれた。
「たしかにあったし、人を殺せそうな呪いではあった。…まさか誰かが意図的にかけたのか?」
「そういうことになるかな」
間違いなく影山みずきの妹がかけたのだろう。
当然殺人だなどと言うつもりはないが、影山みずきという人物がどれだけ家族に愛されていたか分かる。
「先生、次も授業だろ?」
「そうだな。…もう行かないと間に合わないか」
先生は少し考える仕草を見せた後、紙切れを数枚机に出した。
「これって、」
「人間を殺すほどの呪いをかける為に使う陣の一覧だ。それらしかったものには印をつけてある」
「ありがとう」
ひとりになった監査室、陣の下に書かれた説明を読んでただただ驚いた。
【相手を確実に殺せる呪い】
【じわじわ苦しんで24時間以内に必ず死ぬ呪い】
「…こんなものがあるのか」
思わず声に出してしまうほど驚愕する。
本来であれば禁忌とされているはずのものが偶然買った本に載っていた、ということだろうか。
それにしても呪いが成功するなんて、やはりそれだけ素質があったということだろう。
『先輩、聞こえますか?』
「どうした?」
『桜良が原稿仕上げてくれました。今は疲れて寝ちゃってます』
「そうか、ありがとう。今はゆっくり休んでほしい」
『了解です』
桜良に頼らざるを得ないのは申し訳ないがどうしようもない。
御蔭さんの噂がさらにおかしな方向へ捻じ曲げられていないことを祈りながら、黙々と禁術について調べた。
監査室に戻った直後、背後の扉が勢いよく開かれる。
「流石に扉が壊れるぞ、陽向」
私の言葉で一瞬動きが止まったが、すぐにこちらへ近づいてきた。
「急に通信が切れるし、先輩がいなくなって吃驚したんですから…」
「ごめん。ちょっと色々あったんだ」
今は暴走傾向ではなかったとこの場で話すのは危険だ。
あの男に聞かれてしまったら、今度こそ影山みずきという人物そのものを消す以外方法がなくなるだろう。
「桜良に流してほしい噂がある」
「急にどうしたんですか?」
「悪いが事情を説明している時間はない。大まかな原稿を書くから渡してくれないか?」
「分かりました」
私が考えなしにこんなことを言わないと察してくれたらしく、陽向はメモ書きしている間黙って待っていてくれた。
「できた。放送室近くまでは一緒に行く」
「先輩が、俺の護衛ってことですか?」
「まあ、そんなところだ」
もしあの男と放送室で戦闘になったら終わりだ。
それに、ふたりをできるだけ巻きこみたくない。
「ここまでだな」
「ひとりで無理しないでくださいね」
「ありがとう。気をつけるよ」
陽向の後ろ姿を見送り、すぐに監査室へ戻る。
桜良が原稿を完成させるまでにどれだけ時間がかかるか分からないが、上手くいけば明日には決着がつきそうだ。
「何かあったのか?」
先生は監査室に入るなり、開口一番そう尋ねてきた。
特に何もないと答えたものの、納得している様子はない。
「御蔭さん、大丈夫かな…」
「きっと大丈夫だ。そう簡単にやられる奴じゃないだろ?」
瞬の不安げな声にそう答えつつ、頭の中でぼんやり考える。
先生や桜良なら陣が書いてある記事を持っているかもしれない。
少なくとも、私がスクラップしているものの中にそれらしきものはなかった。
「昼食はきちんと摂るように」
「そうか、もう昼休みは終わりか」
「瞬、残すな」
「無理」
「ちゃんと計算して作ってる。もっと肉を食べないと体力が尽きるぞ」
会話を微笑ましく思っていたが、瞬が肉をあまり食べていないことに驚いた。
「肉料理が苦手なのか?」
「そういうわけじゃないけど…元々あんまり量を食べられる方じゃないんだ」
「そうなのか。知らなかった」
少しだけ和やかなムードになってほっとした。
空気がずっと張りつめていて嫌な感じだったので、いい意味で緊張がほぐれたかもしれない。
「…先生、この事件の記事で妙な陣が書いてあるとか、そういう情報はなかったか?」
加害者の不審死の記事を指さして尋ねると、先生は苦笑しながら教えてくれた。
「たしかにあったし、人を殺せそうな呪いではあった。…まさか誰かが意図的にかけたのか?」
「そういうことになるかな」
間違いなく影山みずきの妹がかけたのだろう。
当然殺人だなどと言うつもりはないが、影山みずきという人物がどれだけ家族に愛されていたか分かる。
「先生、次も授業だろ?」
「そうだな。…もう行かないと間に合わないか」
先生は少し考える仕草を見せた後、紙切れを数枚机に出した。
「これって、」
「人間を殺すほどの呪いをかける為に使う陣の一覧だ。それらしかったものには印をつけてある」
「ありがとう」
ひとりになった監査室、陣の下に書かれた説明を読んでただただ驚いた。
【相手を確実に殺せる呪い】
【じわじわ苦しんで24時間以内に必ず死ぬ呪い】
「…こんなものがあるのか」
思わず声に出してしまうほど驚愕する。
本来であれば禁忌とされているはずのものが偶然買った本に載っていた、ということだろうか。
それにしても呪いが成功するなんて、やはりそれだけ素質があったということだろう。
『先輩、聞こえますか?』
「どうした?」
『桜良が原稿仕上げてくれました。今は疲れて寝ちゃってます』
「そうか、ありがとう。今はゆっくり休んでほしい」
『了解です』
桜良に頼らざるを得ないのは申し訳ないがどうしようもない。
御蔭さんの噂がさらにおかしな方向へ捻じ曲げられていないことを祈りながら、黙々と禁術について調べた。
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