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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』
第200話
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噂を管理するというのは、先生みたいな立ち位置ということだろうか。
「この場所そのものが噂だから、御蔭さんは半怪異ってことか」
《御名答。流石の推理力だ》
なんとなく笑っている気もするが、やはりフードで表情は確認できない。
「ひとつ確認したいことがあるんだ。教えてくれ、御蔭さん。…いや、影山みずき」
《なんだ、もうそこまで調べられちゃったんだ。相変わらず早いね。…それに免じて答えよう。何が知りたい?》
こんなことを言えば暴走の引き金になるかもしれない。
そう分かってはいても、どうしても訊いておきたかった。
「妹さんは呪術が使えたか?」
《なんで妹のことを訊いてくるの?》
「どうしても知りたいんだ」
御蔭さんは少し考えるような仕草を見せた後、大きな鏡を運んできた。
《これを見終われたら答えが分かるかもね》
「…そうか」
流れてきた映像は、この前見たものの続きのようだった。
【お兄ちゃん、見て!お母さんがぬいぐるみ作ってくれたの!こっちのキーホルダーもだよ】
【そっか。よかったね】
【お兄ちゃんにエプロンを渡しておいてって頼まれたから持ってきたよ】
母親は忙しい合間をぬって兄妹と会話を試みていたようだ。
【プロの料理人がつけるには寂しいだろうけどって…】
【そんなことないのにね。というか、俺はお母さんと──が喜んでくれればそれで充分だし】
【私がバイトできる年になったら、お兄ちゃんのカフェで働くね】
【うん。楽しみにしてる】
兄妹は母親に食事を作ったり、家のことはとにかくふたりでやっていたようだ。
……場面が切り替わり、悲しむ妹と無表情でその場に立つ兄が映し出された。
【お母さ、の、ぬいぐるみ……】
【大丈夫だよ。俺が元に戻すから】
満面の笑みでそう話した兄は、目の前で下品に嘲笑う奴等を思いきり殴った。
【てめえ、いきなりなにすんだよ!】
【……はあ?それはこっちの台詞なんだけど】
兄は低い声で相手を牽制し、数人束にかかられても傷ひとつ負っていなかった。
【お兄ちゃん、もうやめて】
【大丈夫、ここまでにするから。…あそこにいるものに捕まったらまずいだろうしね】
人間ではない何かが近づいてきているのがよく視える。
妹がはっとした表情を浮かべ、兄に手をひかれながら走り出す。
覚えておけという遠吠えを背に、そのまま真っ直ぐ帰宅していた。
「視えてるってことは、使えた可能性もあるってことか」
《おまじないが好きだったんだ。もう名前も思い出せないけど、妹が占いと呪いが得意だったことは覚えてる。
…実際に呪いの効果が出て、嫌がらせをした同級生何人かが軽い怪我をしたこともあった。それからは使わないように止めてたよ》
「…妹さんがおまえの復讐をした可能性があるって言ったら信じるか?」
御蔭さん…影山みずきは笑った。
《そんなことするはずないよ。あんなに優しい子が、誰かを呪うなんてこと…》
「おまえを殺した奴等は全員殺されてる。別の事件の遺族にめった刺しにされたらしいんだ。…ひとりを除いては」
《まさか…嘘だよね?》
ここまで話すと察しているようだった。
どんないい人間でも大切なものを壊されると変わってしまう。
ただ、彼女は勿論無差別に殺そうとしたわけではなく、主犯格から狙っていた。
残りの加害者たちが釈放されるのを待っていたら、同じことを考えていた遺族に先にやられた…ということではないだろうか。
「あくまで可能性の話だ」
《そっかそっか。だけど多分、妹がやったんだろうな…陣が分かれば判別できるけど難しそうだ》
周りのことばかりで自分のことは話そうとしない。
どうすれば切り崩せるか考えていたが、いきなり突き飛ばされる。
《あいつらがいないなら、俺がいる意味もうないや。…やっぱり殺してよ、詩乃ちゃん》
「絶対に救ってみせる」
《頑固だね…》
その言葉を最後に、気づくと外に出ていた。
あの男から護ってもらった恩は、近々必ず返してみせる。
「この場所そのものが噂だから、御蔭さんは半怪異ってことか」
《御名答。流石の推理力だ》
なんとなく笑っている気もするが、やはりフードで表情は確認できない。
「ひとつ確認したいことがあるんだ。教えてくれ、御蔭さん。…いや、影山みずき」
《なんだ、もうそこまで調べられちゃったんだ。相変わらず早いね。…それに免じて答えよう。何が知りたい?》
こんなことを言えば暴走の引き金になるかもしれない。
そう分かってはいても、どうしても訊いておきたかった。
「妹さんは呪術が使えたか?」
《なんで妹のことを訊いてくるの?》
「どうしても知りたいんだ」
御蔭さんは少し考えるような仕草を見せた後、大きな鏡を運んできた。
《これを見終われたら答えが分かるかもね》
「…そうか」
流れてきた映像は、この前見たものの続きのようだった。
【お兄ちゃん、見て!お母さんがぬいぐるみ作ってくれたの!こっちのキーホルダーもだよ】
【そっか。よかったね】
【お兄ちゃんにエプロンを渡しておいてって頼まれたから持ってきたよ】
母親は忙しい合間をぬって兄妹と会話を試みていたようだ。
【プロの料理人がつけるには寂しいだろうけどって…】
【そんなことないのにね。というか、俺はお母さんと──が喜んでくれればそれで充分だし】
【私がバイトできる年になったら、お兄ちゃんのカフェで働くね】
【うん。楽しみにしてる】
兄妹は母親に食事を作ったり、家のことはとにかくふたりでやっていたようだ。
……場面が切り替わり、悲しむ妹と無表情でその場に立つ兄が映し出された。
【お母さ、の、ぬいぐるみ……】
【大丈夫だよ。俺が元に戻すから】
満面の笑みでそう話した兄は、目の前で下品に嘲笑う奴等を思いきり殴った。
【てめえ、いきなりなにすんだよ!】
【……はあ?それはこっちの台詞なんだけど】
兄は低い声で相手を牽制し、数人束にかかられても傷ひとつ負っていなかった。
【お兄ちゃん、もうやめて】
【大丈夫、ここまでにするから。…あそこにいるものに捕まったらまずいだろうしね】
人間ではない何かが近づいてきているのがよく視える。
妹がはっとした表情を浮かべ、兄に手をひかれながら走り出す。
覚えておけという遠吠えを背に、そのまま真っ直ぐ帰宅していた。
「視えてるってことは、使えた可能性もあるってことか」
《おまじないが好きだったんだ。もう名前も思い出せないけど、妹が占いと呪いが得意だったことは覚えてる。
…実際に呪いの効果が出て、嫌がらせをした同級生何人かが軽い怪我をしたこともあった。それからは使わないように止めてたよ》
「…妹さんがおまえの復讐をした可能性があるって言ったら信じるか?」
御蔭さん…影山みずきは笑った。
《そんなことするはずないよ。あんなに優しい子が、誰かを呪うなんてこと…》
「おまえを殺した奴等は全員殺されてる。別の事件の遺族にめった刺しにされたらしいんだ。…ひとりを除いては」
《まさか…嘘だよね?》
ここまで話すと察しているようだった。
どんないい人間でも大切なものを壊されると変わってしまう。
ただ、彼女は勿論無差別に殺そうとしたわけではなく、主犯格から狙っていた。
残りの加害者たちが釈放されるのを待っていたら、同じことを考えていた遺族に先にやられた…ということではないだろうか。
「あくまで可能性の話だ」
《そっかそっか。だけど多分、妹がやったんだろうな…陣が分かれば判別できるけど難しそうだ》
周りのことばかりで自分のことは話そうとしない。
どうすれば切り崩せるか考えていたが、いきなり突き飛ばされる。
《あいつらがいないなら、俺がいる意味もうないや。…やっぱり殺してよ、詩乃ちゃん》
「絶対に救ってみせる」
《頑固だね…》
その言葉を最後に、気づくと外に出ていた。
あの男から護ってもらった恩は、近々必ず返してみせる。
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