夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第27章『おかげさん-異界への階段・肆-』

第199話

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「そうか。御蔭さんの過去を…」
陽向を治療できる場所まで運び、どんなことがあったか大まかに説明した。
あまり詳細に伝えるのはマナー違反な気がしてざっくりとしか話せていないが、先生は革の日記を開いて小さく呟く。
「…そういう意味だったのか」
「どういうことだ?」
先生が見せてくれた頁にははっきり書かれていた。
【御蔭さんの正体に徐々に迫っていくことになる】
「結構具体的だな」
「ああ」
「…ねえ、ふたりとも。今日また噂が広がったら、御蔭さんはどうなるの?」
瞬が不安がるのも無理はない。
今でさえぎりぎりのところを持ちこたえているような様子だったのに、あることないこと振りまかれたら身がもたないだろう。
「はっきりどうこう言えることはないけど、私は御蔭さんを消すつもりはない。なんとかできないか探ってみるよ」
あの映像には続きがありそうな雰囲気だった。
もし最後まで見られたら何か変えられるかもしれない。
「気をつけろ。特におまえたちふたりは」
「…?どうして?」
「私たちは御蔭さんに影に入られたことがあるからってことか」
瞬がそうだったのは死霊について教えてもらったという話を聞いた時点で予想はしていた。
御蔭さんにとって移動手段が影を伝うことなら、入られたことがないはずがない。
「そっか、表に出てきちゃったら暴走するかもしれないってことだよね…」
「それって、俺たちも危なかったりします?」
ゆっくり起きあがった陽向の額にはガーゼがつけられていて、見ているだけで申し訳なくなる。
「陽向と桜良は影に入られたことはあるか?」
「私はありません」
「俺もないです」
「それならまず大丈夫だ。ふたりには放送室にいてほしい。
それから、瞬は先生の近くを離れないように。…今はあまり私の近くにいない方がいいだろうから」
今はまだ昼間だし、あの男の1番の狙いは私だろう。
だったらひとりでいた方がなにかと動きやすい。
「これ、持っていてください」
「ありがとう」
渡されたインカムのスイッチを入れて、先生たちは授業へ、陽向たちは放送室の資料を調べに行く。
今の状況で家に帰ったら穂乃に被害が及ぶかもしれない。
申し訳なく感じながらも帰れそうにないと連絡を入れる。
バイト先にも欠席の連絡したところでインカムから声が聞こえた。
『詩乃先輩、少しいいですか?』
「どうした?」
『加害者がひとり不審死したじゃないですか?桜良と調べていたら、その原因らしきものが分かったんです』
御蔭さんは殺してやりたいほど憎いとは話していたが、殺したとは一言も言っていない。
伝えそこねたが相手が全員亡くなっていることにも気づいていない様子だった。
『実は妹さんも視える体質だったみたいで──』
《……ねエ、何、話しテルの?》
「御蔭さ──」
背後から口を押さえられ、そのまま体が地面に沈んでいくのを感じる。
振りほどこうとすると、今度は軽く首を絞められた。
『先輩、どうしました?先輩?』
「く……やめ……」
《ごめん、今はこうするしかないんだ》
一瞬いつもの御蔭さんの声が聞こえた直後、私の意識は深い闇へと落ちていった。


──次に目を開けたときに視界いっぱいに入ったのは、不安そうな様子の御蔭さんだった。
《あ、気がついた?》
「ありがとう。助けてくれたんだろ?」
《まあね》
桜良か先生が何かしてくれたのかもしれない。
体を起こすと、相変わらずフードを被ったままの御蔭さんが話しはじめた。
《俺のところにもあの男は来ていたんだ。…いつかこうなると思ってた。
ただ、御蔭さんとしての俺は壊せてもこの場所は簡単に壊せない。特に早朝以外ならここが影響することはないんだ》
「どういうことだ?」
御蔭さんは小さく笑ってはっきり言った。
《どうして俺が噂に左右されるんだと思う?…ただの死霊が怪異になるパターンなんてふたつしかない。
ひとつは長く同じ場所に留まりすぎたこと、もうひとつは…噂を管理する立場になることだよ》
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