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閑話『寒空の合宿』
星参り
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「星参りの噂?」
「ああ。この時期いつも流行るんだ」
もし見つけられたら辿り着けた者の幸福を祈ってくれるらしい…などというありがちな噂だが、効果は絶大だと聞く。
夜ふかししながら布団の中でそんな話をしていると、瞬がわくわくしたように立ちあがった。
「それ、今から探さない?」
「そう簡単に見つかるとは思えないが…」
「お参り、したい。駄目?」
自分でも分かっているが、どうにもこいつのお願いに弱いらしい。
「…全員行けそうか?」
「私は平気。陽向たちは?」
「行けます。ただ、筋肉痛で死にそうなのであんまりペースをあげられるとちょっと…」
「私は大丈夫です」
連日で特訓してもらったようなものだ、筋肉痛にもなるだろう。
それでも気になるものなのかと不思議に思ったが、行きたいと思っているなら止める必要はない。
「夜の間しか道は開かれない。今から準備して屋上前の階段に集合」
「了解です!」
瞬と先に行って待っていると、動きやすい服に着替えた3人が音を立てないように注意しながら小走りで駆け寄ってきた。
「ここから行くのか?」
「…黄泉行列車を覚えてるか?」
「そういうことか」
「え、どういうことですか?」
折原はすぐに察知したらしいが、岡副たちは首を傾げていた。
…もし、本来ならここを通るはずがない列車が年に1度だけやってくるとすればどうだろう。
《今年は行くつもりなんですね》
「まあ、そんなところだな」
「車掌、久しぶり。あれから変なことはないか?」
《おかげさまでなんとかやっています》
誤魔化しているということもなさそうなので、本当になんとかやっているのだろう。
死者の見送りなんていう仕事だ、疲れないはずがない。
《星参りでしたらこちらへどうぞ》
「先生、知ってたの?」
「行けることは知ってた」
「どうして行かなかったの?」
「あまり必要性を感じなかったから」
瞬の質問に淡々と答えながら、列車が向かう先を見つめる。
辿り着いた場所では星が輝いていた。
「ねえ、先生。あれってプレアデス星団…?」
「恐らくな」
「本物だ…!」
瞬の表情がぱっと明るくなって、そのまま奥の方へ走っていく。
「悪い。15分後にここに集合ってことに」
「分かった」
瞬を追いかけようやく手を繋ぐ。
「勝手にいなくなるな」
「あ、ごめん…」
「そんなに急がなくてもゆっくり見られる」
「そうだね」
神社のような形式になっていたので、一先ず参拝を済ませてから販売コーナーへ足を運ぶ。
星のかけらを集めたようなお守りや組紐が売っていた。
「すごい…」
「これとこれをふたつ」
「え?」
じっと見つめていた祈願成就のお守りと組紐を購入し、瞬にすぐ渡す。
「どうして分かったの?」
「なんとなく」
「きらきらしててすっごい綺麗だね」
「…そうだな」
提灯の下で組紐をほどき、もう一度編み直す。
「何してるの?」
「髪を結ぶわけじゃないからな。…こんなもんか」
ミサンガ風の小さなブレスレットにして瞬の腕に巻く。
本来であればもう少し強い願掛けをしておきたかったが、元々こめられている力を無下にするわけにはいかない。
「すごい…」
「楽しめたか?」
「うん。ありがとう、先生」
瞬は何かが入った箱を差し出してくる。
開けてしまってもいいのか迷いつつ受け取ると、中からかしゃかしゃと音がした。
「おまえ、いつの間に…」
「先生がお会計してる間に買っておいたんだ。僕のは金平糖だけど、先生はキャラメル好きでしょ?」
「何と交換した?」
「この前やっつけた怪異の鱗がほしいって言われたから、それと換えてもらった」
「そうか。…ありがとう」
たった一言で瞬が笑ってくれるならそれでいい。
帰りの列車でも楽しげに話す姿を見ていると、やはり心が温まる。
賑やかな声が響くなか、列車は夜空を駆けていった。
《…時間がなさそうだ》
そんな声が風にかき消されたのを知らずに。
「ああ。この時期いつも流行るんだ」
もし見つけられたら辿り着けた者の幸福を祈ってくれるらしい…などというありがちな噂だが、効果は絶大だと聞く。
夜ふかししながら布団の中でそんな話をしていると、瞬がわくわくしたように立ちあがった。
「それ、今から探さない?」
「そう簡単に見つかるとは思えないが…」
「お参り、したい。駄目?」
自分でも分かっているが、どうにもこいつのお願いに弱いらしい。
「…全員行けそうか?」
「私は平気。陽向たちは?」
「行けます。ただ、筋肉痛で死にそうなのであんまりペースをあげられるとちょっと…」
「私は大丈夫です」
連日で特訓してもらったようなものだ、筋肉痛にもなるだろう。
それでも気になるものなのかと不思議に思ったが、行きたいと思っているなら止める必要はない。
「夜の間しか道は開かれない。今から準備して屋上前の階段に集合」
「了解です!」
瞬と先に行って待っていると、動きやすい服に着替えた3人が音を立てないように注意しながら小走りで駆け寄ってきた。
「ここから行くのか?」
「…黄泉行列車を覚えてるか?」
「そういうことか」
「え、どういうことですか?」
折原はすぐに察知したらしいが、岡副たちは首を傾げていた。
…もし、本来ならここを通るはずがない列車が年に1度だけやってくるとすればどうだろう。
《今年は行くつもりなんですね》
「まあ、そんなところだな」
「車掌、久しぶり。あれから変なことはないか?」
《おかげさまでなんとかやっています》
誤魔化しているということもなさそうなので、本当になんとかやっているのだろう。
死者の見送りなんていう仕事だ、疲れないはずがない。
《星参りでしたらこちらへどうぞ》
「先生、知ってたの?」
「行けることは知ってた」
「どうして行かなかったの?」
「あまり必要性を感じなかったから」
瞬の質問に淡々と答えながら、列車が向かう先を見つめる。
辿り着いた場所では星が輝いていた。
「ねえ、先生。あれってプレアデス星団…?」
「恐らくな」
「本物だ…!」
瞬の表情がぱっと明るくなって、そのまま奥の方へ走っていく。
「悪い。15分後にここに集合ってことに」
「分かった」
瞬を追いかけようやく手を繋ぐ。
「勝手にいなくなるな」
「あ、ごめん…」
「そんなに急がなくてもゆっくり見られる」
「そうだね」
神社のような形式になっていたので、一先ず参拝を済ませてから販売コーナーへ足を運ぶ。
星のかけらを集めたようなお守りや組紐が売っていた。
「すごい…」
「これとこれをふたつ」
「え?」
じっと見つめていた祈願成就のお守りと組紐を購入し、瞬にすぐ渡す。
「どうして分かったの?」
「なんとなく」
「きらきらしててすっごい綺麗だね」
「…そうだな」
提灯の下で組紐をほどき、もう一度編み直す。
「何してるの?」
「髪を結ぶわけじゃないからな。…こんなもんか」
ミサンガ風の小さなブレスレットにして瞬の腕に巻く。
本来であればもう少し強い願掛けをしておきたかったが、元々こめられている力を無下にするわけにはいかない。
「すごい…」
「楽しめたか?」
「うん。ありがとう、先生」
瞬は何かが入った箱を差し出してくる。
開けてしまってもいいのか迷いつつ受け取ると、中からかしゃかしゃと音がした。
「おまえ、いつの間に…」
「先生がお会計してる間に買っておいたんだ。僕のは金平糖だけど、先生はキャラメル好きでしょ?」
「何と交換した?」
「この前やっつけた怪異の鱗がほしいって言われたから、それと換えてもらった」
「そうか。…ありがとう」
たった一言で瞬が笑ってくれるならそれでいい。
帰りの列車でも楽しげに話す姿を見ていると、やはり心が温まる。
賑やかな声が響くなか、列車は夜空を駆けていった。
《…時間がなさそうだ》
そんな声が風にかき消されたのを知らずに。
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