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閑話『寒空の合宿』
雪合戦
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「…終わりだ」
「うう…」
おかげさんにもらった包丁もどきをふっていたら、先生が練習相手になってくれた。
ただ、1度も攻撃を当てられていない。
「先生、強いね」
「体の使い方を意識しろ」
「それってどうやるの?」
「…折原たちと遊んでみれば分かる」
先生にそう言われてやっているのは、雪玉を固める作業だ。
ひな君が桜良ちゃんと話している間に用意して、話が終わったところで投げてみようと思っている。
「それじゃあ桜良、また後で」
話し終わったのを確認して、ひな君の足に向かって投げつける。
「え、痛!?」
上手く命中したけど、どこから飛んできたのか分かっていないみたいだった。
ずっときょろきょろしているひな君に近づいてもう1回投げてみる。
「へえ、ちびがやってたのか」
「そうだよ」
次は避けられて、今度はひな君から雪玉が投げられる。
軽々避けて持っていた雪玉を投げると、今度はひな君の太ももに命中した。
「…よし、本気でいくぞ」
「え?」
何発も連続で飛んできた玉を全部は避けられなくて、体の何箇所かに当たってしまった。
「今のどうやったの?」
「勝敗がつくまでは秘密」
「なにそれ…」
お互いしばらく雪玉を投げあっていたけど、力尽きてその場に倒れた。
…というより、後ろから誰かに猛攻されていた気がする。
「せ、先輩?」
「別に雪遊びするのは構わない。けど、いつまで経っても片づかないからな…」
「いやいや、雪玉作りすぎ…わあ!?」
雪まみれになった詩乃ちゃんが、豪速球でひな君めがけて飛ばす。
僕にも何発か当たっていて、どうやって投げているのか不思議に思った。
「…こんなものか」
「ねえ、詩乃ちゃん。今の雪玉の投げ方教えて」
「投げ方?どう説明したらいいかな…」
詩乃ちゃんは真剣に考えてくれているみたいで、雪玉を作りながら教えてくれた。
「刃物とかもそうなんだけど、上手く体重をのせないと軽い一撃になるんだ。
雪玉の場合は握る手に力を入れながら、手首を思いきり動かすといけるんじゃないかな。刃物の場合は長さによる」
先生が言っていた全身を使ってというのはこのことなのかもしれない。
「ちょっとやってみてもいい?」
「攻撃の練習をするならいいものを持ってる」
そう言って詩乃ちゃんが置いてくれたのは、顔がすり減った案山子だった。
「いつもナイフの練習で使ってるんだけど、これならいけるんじゃないか?」
「ありがとう」
死んでいる僕が雪に足をとられるなんてことは滅多にない。
いつもみたいに助走をつけてそのままひと突きする。
「真っ直ぐ向かう戦法自体はいいけど、多分相手に読まれやすい。
それならもう少し体にひねりをつけた方が強く入りそうだ」
詩乃ちゃんはそう話した後、勢いよく走って体をひねる。
持っていた木の棒を横一文字に動かして、案山子の体に傷をつけた。
「す、すごい…」
「これがナイフだともうちょっと深く切れる。相手の邪気だけを切るには丁度いいんだ」
詩乃ちゃんはどれだけのことを積み重ねて今の強さを持っているんだろう。
今すぐには無理でも、詩乃ちゃんみたいになれるかな。
「瞬、それを思いきり案山子に刺してみろ。心配しなくてもすぐ直せるから」
とにかく言われたとおりにやってみようと、体を回転させながら思いきり案山子に突き刺す。
みしみしと音を立てていた案山子はそのまま倒れた。
「すごいな。もう習得してる」
「本当?」
「もし練習したくなったときは私がつきあうよ」
「迷惑じゃない?」
「寧ろ誰かと一緒に練習できる機会なんて滅多にないから助かる」
詩乃ちゃんの案山子を預かって端の方に寄せていると、先生に頭を撫でられた。
「わっ、何…」
「上出来」
「え?」
さっきの、見られてたんだ。
転びそうになったりいまひとつ刺さらなかったりすることもあったけど、先生に褒められるのは嬉しい。
もっと先生に近づきたい…なんて思ってもいいだろうか。
もっと強くなりたい。みんなを護れるくらいになったら、側にいてもいいんだって自信が持てる気がするから。
「うう…」
おかげさんにもらった包丁もどきをふっていたら、先生が練習相手になってくれた。
ただ、1度も攻撃を当てられていない。
「先生、強いね」
「体の使い方を意識しろ」
「それってどうやるの?」
「…折原たちと遊んでみれば分かる」
先生にそう言われてやっているのは、雪玉を固める作業だ。
ひな君が桜良ちゃんと話している間に用意して、話が終わったところで投げてみようと思っている。
「それじゃあ桜良、また後で」
話し終わったのを確認して、ひな君の足に向かって投げつける。
「え、痛!?」
上手く命中したけど、どこから飛んできたのか分かっていないみたいだった。
ずっときょろきょろしているひな君に近づいてもう1回投げてみる。
「へえ、ちびがやってたのか」
「そうだよ」
次は避けられて、今度はひな君から雪玉が投げられる。
軽々避けて持っていた雪玉を投げると、今度はひな君の太ももに命中した。
「…よし、本気でいくぞ」
「え?」
何発も連続で飛んできた玉を全部は避けられなくて、体の何箇所かに当たってしまった。
「今のどうやったの?」
「勝敗がつくまでは秘密」
「なにそれ…」
お互いしばらく雪玉を投げあっていたけど、力尽きてその場に倒れた。
…というより、後ろから誰かに猛攻されていた気がする。
「せ、先輩?」
「別に雪遊びするのは構わない。けど、いつまで経っても片づかないからな…」
「いやいや、雪玉作りすぎ…わあ!?」
雪まみれになった詩乃ちゃんが、豪速球でひな君めがけて飛ばす。
僕にも何発か当たっていて、どうやって投げているのか不思議に思った。
「…こんなものか」
「ねえ、詩乃ちゃん。今の雪玉の投げ方教えて」
「投げ方?どう説明したらいいかな…」
詩乃ちゃんは真剣に考えてくれているみたいで、雪玉を作りながら教えてくれた。
「刃物とかもそうなんだけど、上手く体重をのせないと軽い一撃になるんだ。
雪玉の場合は握る手に力を入れながら、手首を思いきり動かすといけるんじゃないかな。刃物の場合は長さによる」
先生が言っていた全身を使ってというのはこのことなのかもしれない。
「ちょっとやってみてもいい?」
「攻撃の練習をするならいいものを持ってる」
そう言って詩乃ちゃんが置いてくれたのは、顔がすり減った案山子だった。
「いつもナイフの練習で使ってるんだけど、これならいけるんじゃないか?」
「ありがとう」
死んでいる僕が雪に足をとられるなんてことは滅多にない。
いつもみたいに助走をつけてそのままひと突きする。
「真っ直ぐ向かう戦法自体はいいけど、多分相手に読まれやすい。
それならもう少し体にひねりをつけた方が強く入りそうだ」
詩乃ちゃんはそう話した後、勢いよく走って体をひねる。
持っていた木の棒を横一文字に動かして、案山子の体に傷をつけた。
「す、すごい…」
「これがナイフだともうちょっと深く切れる。相手の邪気だけを切るには丁度いいんだ」
詩乃ちゃんはどれだけのことを積み重ねて今の強さを持っているんだろう。
今すぐには無理でも、詩乃ちゃんみたいになれるかな。
「瞬、それを思いきり案山子に刺してみろ。心配しなくてもすぐ直せるから」
とにかく言われたとおりにやってみようと、体を回転させながら思いきり案山子に突き刺す。
みしみしと音を立てていた案山子はそのまま倒れた。
「すごいな。もう習得してる」
「本当?」
「もし練習したくなったときは私がつきあうよ」
「迷惑じゃない?」
「寧ろ誰かと一緒に練習できる機会なんて滅多にないから助かる」
詩乃ちゃんの案山子を預かって端の方に寄せていると、先生に頭を撫でられた。
「わっ、何…」
「上出来」
「え?」
さっきの、見られてたんだ。
転びそうになったりいまひとつ刺さらなかったりすることもあったけど、先生に褒められるのは嬉しい。
もっと先生に近づきたい…なんて思ってもいいだろうか。
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