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閑話『寒空の合宿』
体力勝負
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「ひな君には負けない」
「俺だってちびに負けるわけにはいかない」
合宿という名の特訓初日、俺はちびとふたりで雪かきしていた。
先輩は怪我してるし、桜良はまだ声が本調子じゃないし、先生は会議に出てるしでやることがばらばらだ。
「ふたりとも、ほどほどにしておかないと筋肉痛で大変なことになるぞ」
「気をつけます」
先輩にそう返して作業に戻ろうとすると、ちびが小さく呟いた。
「…そういえば、僕って筋肉痛になるのかな?」
「今までなったことないの?」
「多分ない。ひとりで特訓してた頃も、ひな君たちと怪異案件を片づけたときも」
死霊だからならないのか、体力が生者とは少し違うのか…本人が気になるなら確かめてみるしかない。
「じゃあ、あと30分全力で雪かきして調べてみようぜ」
「筋肉痛になるかどうか?」
「なんか俺も気になるし、ちょっとつきあってくれ」
「分かった。じゃあ、いくよ?」
ちびはものすごい速さで走り回り、どんどん雪が集まっていく。
そこまで積もっていないとはいえ、結構重労働だった。
宣言どおり、30分全力で動いて休憩する。
「…これ飲むか?」
「いいの?」
汗ひとつ流していない姿に驚いてすぐ近くまで行ってみる。
髪は乱れてるし疲れた顔はしているものの、ただそれだけだった。
「お茶なら好き嫌いないと思って持ってきたけど、これでよかったか?」
「うん。ありがとう」
汗をかかないということは、やっぱりこいつは幽霊なんだ。
いつも一緒に遊んでいるから忘れがちだけど、ちびは一応死者なんだと実感する。
「…で、どうよ?」
「ちょっと腕が痛いけど、本格的な筋肉痛じゃない…と思う」
痛いということは、一応筋肉痛になるってことだ。
なんだか元気がない気がするけど、つっこんでいいのか分からない。
ただ、このままもやもやしているのもらしくない気がした。
「何か気になることでもあるのか?」
「あ、えっと…先生、まだかなって。あと、向こうで詩乃ちゃんがトレーニングしているように見えるのは気のせいかなって」
先輩は先生からできる限り軽い運動程度に留めるよう言われているはずだ。
けど、ちびが指さした方では先輩が木刀の素振りをしていた。
「ちょ、先輩!?」
「詩乃ちゃん、多分それは軽い運動にならないんじゃないかな…」
「そうなのか?いつもの半分以下にしてるんだけど…これも駄目なのか」
なんとかちびと説得して、先輩に桜良のところへ行ってもらうことに成功した。
「なあ、ちび。おまえが強くなりたい理由ってやっぱり先生の為なの?」
「全く無い訳じゃないけど、自分の手で何かを護れるようになりたかったんだ。ひな君は桜良ちゃんの為でしょ?」
はじめはそんな純粋な理由じゃなかった。
とにかく強くなって、自分の存在価値を見いだしたかった…なんて言ったら驚かせるかもしれない。
「半々かな」
「そっか。…ねえ、ひな君」
「どうした?」
「死なないでね」
からかわれてるのかと思ったけど、ちびの目はいつになく真剣だ。
心配をかけたかったわけじゃないのに、まるで自分のことみたいに気にかけられてるんだと思うと気恥ずかしくなった。
「死なないのは知ってるだろ?」
「そうじゃなくて、」
「……分かってる。先輩たちにも言われてるし、できるだけ死なないように頑張る」
俺は多分、生者でもなければ死者でもない。
けど、心配してくれる人がいる以上あまり無茶はできないって分かってる。
「かまくらって作ったことある?」
「ひな君作れるの?」
「このくらいしか雪がないとなると、人が入れないサイズになるな…」
「じゃあ、この子たちサイズなら?」
ちびの手には雪うさぎがちょこんと握られていた。
…いつの間に作ったんだ。
「その子たちが入れるくらいならどうにかなるかな」
飲み終わったペットボトルを潰し、ちびの前で少しずつ土台を作っていく。
「僕にもやらせて」
「お、じゃあ今から体力耐久2回戦な」
「さっきのは引き分けでしょ?勝負つかないんじゃない?」
「いいんだよ。こういうのはノリが大事なんだから」
桜良のことも気になるが、何か考えごとをしているようなちびを放っておくわけにはいかない。
それからしばらく、筋肉痛覚悟で小さいかまくら作りに没頭した。
「俺だってちびに負けるわけにはいかない」
合宿という名の特訓初日、俺はちびとふたりで雪かきしていた。
先輩は怪我してるし、桜良はまだ声が本調子じゃないし、先生は会議に出てるしでやることがばらばらだ。
「ふたりとも、ほどほどにしておかないと筋肉痛で大変なことになるぞ」
「気をつけます」
先輩にそう返して作業に戻ろうとすると、ちびが小さく呟いた。
「…そういえば、僕って筋肉痛になるのかな?」
「今までなったことないの?」
「多分ない。ひとりで特訓してた頃も、ひな君たちと怪異案件を片づけたときも」
死霊だからならないのか、体力が生者とは少し違うのか…本人が気になるなら確かめてみるしかない。
「じゃあ、あと30分全力で雪かきして調べてみようぜ」
「筋肉痛になるかどうか?」
「なんか俺も気になるし、ちょっとつきあってくれ」
「分かった。じゃあ、いくよ?」
ちびはものすごい速さで走り回り、どんどん雪が集まっていく。
そこまで積もっていないとはいえ、結構重労働だった。
宣言どおり、30分全力で動いて休憩する。
「…これ飲むか?」
「いいの?」
汗ひとつ流していない姿に驚いてすぐ近くまで行ってみる。
髪は乱れてるし疲れた顔はしているものの、ただそれだけだった。
「お茶なら好き嫌いないと思って持ってきたけど、これでよかったか?」
「うん。ありがとう」
汗をかかないということは、やっぱりこいつは幽霊なんだ。
いつも一緒に遊んでいるから忘れがちだけど、ちびは一応死者なんだと実感する。
「…で、どうよ?」
「ちょっと腕が痛いけど、本格的な筋肉痛じゃない…と思う」
痛いということは、一応筋肉痛になるってことだ。
なんだか元気がない気がするけど、つっこんでいいのか分からない。
ただ、このままもやもやしているのもらしくない気がした。
「何か気になることでもあるのか?」
「あ、えっと…先生、まだかなって。あと、向こうで詩乃ちゃんがトレーニングしているように見えるのは気のせいかなって」
先輩は先生からできる限り軽い運動程度に留めるよう言われているはずだ。
けど、ちびが指さした方では先輩が木刀の素振りをしていた。
「ちょ、先輩!?」
「詩乃ちゃん、多分それは軽い運動にならないんじゃないかな…」
「そうなのか?いつもの半分以下にしてるんだけど…これも駄目なのか」
なんとかちびと説得して、先輩に桜良のところへ行ってもらうことに成功した。
「なあ、ちび。おまえが強くなりたい理由ってやっぱり先生の為なの?」
「全く無い訳じゃないけど、自分の手で何かを護れるようになりたかったんだ。ひな君は桜良ちゃんの為でしょ?」
はじめはそんな純粋な理由じゃなかった。
とにかく強くなって、自分の存在価値を見いだしたかった…なんて言ったら驚かせるかもしれない。
「半々かな」
「そっか。…ねえ、ひな君」
「どうした?」
「死なないでね」
からかわれてるのかと思ったけど、ちびの目はいつになく真剣だ。
心配をかけたかったわけじゃないのに、まるで自分のことみたいに気にかけられてるんだと思うと気恥ずかしくなった。
「死なないのは知ってるだろ?」
「そうじゃなくて、」
「……分かってる。先輩たちにも言われてるし、できるだけ死なないように頑張る」
俺は多分、生者でもなければ死者でもない。
けど、心配してくれる人がいる以上あまり無茶はできないって分かってる。
「かまくらって作ったことある?」
「ひな君作れるの?」
「このくらいしか雪がないとなると、人が入れないサイズになるな…」
「じゃあ、この子たちサイズなら?」
ちびの手には雪うさぎがちょこんと握られていた。
…いつの間に作ったんだ。
「その子たちが入れるくらいならどうにかなるかな」
飲み終わったペットボトルを潰し、ちびの前で少しずつ土台を作っていく。
「僕にもやらせて」
「お、じゃあ今から体力耐久2回戦な」
「さっきのは引き分けでしょ?勝負つかないんじゃない?」
「いいんだよ。こういうのはノリが大事なんだから」
桜良のことも気になるが、何か考えごとをしているようなちびを放っておくわけにはいかない。
それからしばらく、筋肉痛覚悟で小さいかまくら作りに没頭した。
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