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第26章『災厄の再来予報』
第195話
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数日後、井戸の前に花束を供える。
「…どうか安らかに」
それから真っ直ぐ監査室に向かうと、そこにはもうすでにみんなが集まっていた。
「じゃ、久々の慰労会はじめましょ!」
「そうだな」
「……」
祈歌を使うと回復に時間がかかるとは聞いていたが、桜良の申し訳なさそうな表情に言葉をかけた。
「桜良のおかげで助かったんだ。そんなに俯かないでほしい」
「……【ありがとうございます】」
「全員揃ったし、乾杯するか」
紙コップをあわせて冷えたお茶を飲む。
いつもより活気がない気がしてふと横に視線をやると、ふてくされた瞬に先生が声をかけていた。
「おまえだって充分やれてたよ」
「…本当?」
「俺が保証する」
「1番大事なところで関われてなかったのに」
もっと役に立ちたかったということだろうか。
「校舎内まで気が回らなかったから、ふたりのおかげもあって再封印できたんだ。ありがとう」
月はほぼ満月で、とてもじゃないけどいいコンディションで挑めたとはいえない。
それも、あの男の挑発に乗せられて半ば暴走気味に使った火炎刃で倒したといえるだろうか。
「何か企んでいるのは知っていたが、まさかあんな場所にまで封印があったとはな」
「先生も知らなかったのか」
「俺が知っていたのは、儀式に使われた祭具が残っていることとこの町を護る為に犠牲になった命があることだけだ」
「…そうか」
菘のことは今でも鮮明に覚えている。
ありがとうと話していたらしい彼女は、私たちが知らないところでこの町を護り続けているのだろう。
「折原、少しいいか?岡副たちをふたりだけにしてやりたい」
「分かった」
ふたりが疲れているのも分かるから、瞬と3人で部屋を出た。
先生が小さく息を吐いて、真っ直ぐな視線を向けながらはっきり告げる。
「おまえ、また独りで抱えこもうとしてるな?」
「それは…」
「僕たちには言えないことなの?」
すっかり忘れていたが、誤魔化しきれていなかったのだ。
槍が飛んできた以上、完全に隠し通すことはできないだろう。
「…神宮寺義仁が暴走してるみたいなんだ」
「暴走?どういうことだ?」
「ちょくちょくちょっかいはかけられてたけど、だんだん話し方が怪異に近づいてきてるんだ」
「え、人間が怪異になることもあるの?」
それは私も気になっていた。
突然あんなふうになるなんて思えないが、何度も遭遇していてずっと怪異のような話し方をしているのはおかしい。
「人間が怪異になる方法はいくつがあるが、自分の意志でなったなら暴走傾向に陥ったりしない」
「知らなかった…」
「禁忌だからな」
先生は苦笑しながら瞬の頭を撫でた。
「ひとりで動いて解決しようとしなくていい。次に何かあればすぐ知らせろ。いいな?」
「うん。…ありがとう」
それから何事もなかったかのように監査室へ戻り、夕方まで楽しんだ。
桜良が持ってきてくれたお菓子を土産に一旦家に戻る。
「おかえりなさい!」
「穂乃、お土産」
「美味しそう…本当に食べていいの?」
「勿論だ。冬季勉強会、気をつけて行けよ」
「うん!ありがとう。…いってきます」
美和紗和といい思い出ができるように祈りながら妹の背中を見送る。
私も冬の特訓があるので、しばらくは家に戻らない。
「折原さん、お疲れ様。ヘルプありがとうね」
「いえ。たまたま近くにいたので」
いつもどおりバイトをこなし、いつもより大きめのリュックを揺らしながら学校へ向かう。
ブレザーの内ポケットに入れていた小瓶がからからと音を立てはっとした。
「…赤い方を飲めば、半分人間じゃなくなるんだったか」
あの牧師は嘘を吐かない。
もう少し飲むのを待とうと思いながら、飲まないという選択をはじめから考えていない自分に苦笑する。
これも禁忌とされているものなのだろうか。
神宮寺義仁が何を考えているかは分からないが、現れないことを切実に願おう。
……高校最後の冬休みを謳歌したいから。
「…どうか安らかに」
それから真っ直ぐ監査室に向かうと、そこにはもうすでにみんなが集まっていた。
「じゃ、久々の慰労会はじめましょ!」
「そうだな」
「……」
祈歌を使うと回復に時間がかかるとは聞いていたが、桜良の申し訳なさそうな表情に言葉をかけた。
「桜良のおかげで助かったんだ。そんなに俯かないでほしい」
「……【ありがとうございます】」
「全員揃ったし、乾杯するか」
紙コップをあわせて冷えたお茶を飲む。
いつもより活気がない気がしてふと横に視線をやると、ふてくされた瞬に先生が声をかけていた。
「おまえだって充分やれてたよ」
「…本当?」
「俺が保証する」
「1番大事なところで関われてなかったのに」
もっと役に立ちたかったということだろうか。
「校舎内まで気が回らなかったから、ふたりのおかげもあって再封印できたんだ。ありがとう」
月はほぼ満月で、とてもじゃないけどいいコンディションで挑めたとはいえない。
それも、あの男の挑発に乗せられて半ば暴走気味に使った火炎刃で倒したといえるだろうか。
「何か企んでいるのは知っていたが、まさかあんな場所にまで封印があったとはな」
「先生も知らなかったのか」
「俺が知っていたのは、儀式に使われた祭具が残っていることとこの町を護る為に犠牲になった命があることだけだ」
「…そうか」
菘のことは今でも鮮明に覚えている。
ありがとうと話していたらしい彼女は、私たちが知らないところでこの町を護り続けているのだろう。
「折原、少しいいか?岡副たちをふたりだけにしてやりたい」
「分かった」
ふたりが疲れているのも分かるから、瞬と3人で部屋を出た。
先生が小さく息を吐いて、真っ直ぐな視線を向けながらはっきり告げる。
「おまえ、また独りで抱えこもうとしてるな?」
「それは…」
「僕たちには言えないことなの?」
すっかり忘れていたが、誤魔化しきれていなかったのだ。
槍が飛んできた以上、完全に隠し通すことはできないだろう。
「…神宮寺義仁が暴走してるみたいなんだ」
「暴走?どういうことだ?」
「ちょくちょくちょっかいはかけられてたけど、だんだん話し方が怪異に近づいてきてるんだ」
「え、人間が怪異になることもあるの?」
それは私も気になっていた。
突然あんなふうになるなんて思えないが、何度も遭遇していてずっと怪異のような話し方をしているのはおかしい。
「人間が怪異になる方法はいくつがあるが、自分の意志でなったなら暴走傾向に陥ったりしない」
「知らなかった…」
「禁忌だからな」
先生は苦笑しながら瞬の頭を撫でた。
「ひとりで動いて解決しようとしなくていい。次に何かあればすぐ知らせろ。いいな?」
「うん。…ありがとう」
それから何事もなかったかのように監査室へ戻り、夕方まで楽しんだ。
桜良が持ってきてくれたお菓子を土産に一旦家に戻る。
「おかえりなさい!」
「穂乃、お土産」
「美味しそう…本当に食べていいの?」
「勿論だ。冬季勉強会、気をつけて行けよ」
「うん!ありがとう。…いってきます」
美和紗和といい思い出ができるように祈りながら妹の背中を見送る。
私も冬の特訓があるので、しばらくは家に戻らない。
「折原さん、お疲れ様。ヘルプありがとうね」
「いえ。たまたま近くにいたので」
いつもどおりバイトをこなし、いつもより大きめのリュックを揺らしながら学校へ向かう。
ブレザーの内ポケットに入れていた小瓶がからからと音を立てはっとした。
「…赤い方を飲めば、半分人間じゃなくなるんだったか」
あの牧師は嘘を吐かない。
もう少し飲むのを待とうと思いながら、飲まないという選択をはじめから考えていない自分に苦笑する。
これも禁忌とされているものなのだろうか。
神宮寺義仁が何を考えているかは分からないが、現れないことを切実に願おう。
……高校最後の冬休みを謳歌したいから。
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