夜紅の憲兵姫

黒蝶

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第26章『災厄の再来予報』

第191話

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資料を調べていると、黒猫がひょっこり顔を出す。
《何を調べてるの?》
「過去の事件について。35年前くらいまでなら記事を検索できるんだ」
結月は猫耳少女の姿になり、落としてしまった書類を集めてくれる。
お礼を言って受け取ってからそのまま疑問をぶつけた。
「結月はあそこに何が封印されているのか詳しく知っているのか?」
「悪さをした何かが封印されているって噂は聞いたわ。けど、それ以上のことは知らない。人間なんかに興味ないもの」
「見た目も分からないってことか…」
何かということは私の作業は無駄に終わるかもしれない。
「ありがとう。色々聞かせてもらえて助かったよ」
「別に大したことしてないわ。…もう行く」
結月は3枚の切り抜きを置いて姿を消した。
そこに載っていたのは痛ましい事件の数々だ。
【中学男子遺体で見つかる いじめ加害者に自宅燃やされ】
【古井戸付近で謎の現象多発 連続行方不明事件】
【なゾの死亡事故、原因ハ不注意カ】
…明らかに3枚目だけおかしい。
詳しく読んでいくと、それが人間の事件ではなさそうだということが分かる。
「…桜良、ちょっといいか?」
『お疲れ様です。ちゃんと聞こえています』
「紙質からの推測で申し訳ないけど、多分30年以上前に行われた封印について調べてほしい」
『何か分かったんですか?』
「結月が持ってきてくれた記事、1枚だけ明らかにおかしな記事があったんだ。
噂のせいで造りあげられたものかもしれないし、当時のものが少し変わった形で残っているのかもしれない」
『調べてみます』
『先輩、その代わりって言ったら変ですけど、今回の件にもあのやばい奴が関係してるのか教えてください』
「…なんでそう思うんだ?」
あくまで平静を装ったが、上手くやれた自信はない。
何かに気づいているような発言に若干焦りをおぼえた。
『分からないとでも思ってたんですか?あんなに眉間に皺寄せてたら分かりますよ。
…まあ、最初に気づいたのは先生とちびだったし、桜良に言われるまで俺もよく見てなかったんですけどね』
まさかそんなに気づかれているとは思っていなかった。
誤魔化せていると思っていたのに、いつから知られていたんだろう。
『先輩、夏の合宿のときから浮かない顔してたらしいじゃないですか。ちびと先生が見たのはその時からだって聞きました』
「…少し気になってることはある。確証はないけど、放っておいていいとも思えない」
まだ各現場に残されていたメモについて話すつもりはない。
ただ、今以上にどうしようもなくなったときは話してみようと思う。
『ありました』
「妖が関係しているものか?」
『怪異も人間も関係しているみたいです』
「記事のコピーを送ってほしい」
『分かりました』
しばらくして、古いFAXががたがたと音をたてて紙を出す。
【転落死とされているが、そんなはずはない。
たしかにあの子は目が見えていなかったが、その分用心していたはずだ。
それに、棒切れ1本で相手を倒せる人が足を滑らせるなんてことは考えにくい。
…そうか、あの男のせいか。許さない。許サナイ。ユるサナい】
その後はずっと許さないと書き綴られていて、ぷっつりと記録が途絶えていた。
「随分憎悪に満ちた内容だな」
『え?』
「記録というより日記みたいだけど、こんなものまであるのか。桜良は調べ物上手だな」
何故かふたりの声が聞こえなくなり困惑する。
「ふたりとも、どうしたんだ?」
『先輩、それ絶対に捨てないでください。本当は捨てた方がいいんだろうけど、なんだかあった方がよさげなので』
「どういうことだ?」
『資料をコピーして転送しようとしたら、エラーでバソコンを再起動しているところなんです』
陽向の焦っている様子と桜良の言葉で察した。
再起動中のパソコンからのデータを送れるはずがない。
それに、冷静に考えてみれば旧校舎のFAXは古く、送り終わるまでに5分はかかるはずだ。
「…つまり、誰か見つけてほしいと願ってる奴から送られてきたってことか」
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